ルイ―ザ・メイ・オルコットが1868年に発表した小説「若草物語」は、性格も夢も異なる4人の姉妹の軌跡を活き活きと紡ぎ、今もなお世界中から広く愛されている。
当然、映画化も数多い。1933年のキャサリン・ヘプバーン主演の同名映画化からはじまって、ジューン・アリソン、エリザベス・テイラーが競演した1949年作、初めて女性の監督ジリアン・アームストロングがウィノナ・ライダー主演で挑んだ1994年作。さらにテレビ映画もたびたび製作され、その度に多くの賛辞を集めてきた。
今なお小説としても愛されているこの原作を、現代を生きる女性の感覚で爽やかに描いたのが本作である。
挑んだのはグレタ・ガーウィグ。『ベン・スティラー 人生は最悪だ!』(2010)や『フランシス・ハ』(2012)などで個性を焼きつけた女優であり、脚本も手掛ける。演じること以上に製作志向が強く、2017年の初の単独監督作『レディ・バード』は高い評価を受け、アカデミー賞では作品賞、監督賞、脚本賞など5部門にノミネートされた。
そのことで、存在を幅広く認知されたガーウィグは、熱烈な愛読書であった「若草物語」を題材に選んだ。自ら脚本も手掛け、誰もが知っている題材、キャラクターたちに新しい息吹を持ち込んでみせる。
紡がれるのは父親が南北戦争に出征し、母親と家を守る健気な4人姉妹のストーリーだ。
容姿に恵まれながらも良妻賢母という当時の女性の常識に縛られている長女のメグ、小説家として自立した生き方を目指す次女ジョー、音楽的な才能を持ちながら病弱な三女ベス、自分の望むことを頑固に追い求める四女エイミー。この四人姉妹を軸に、賢母マーミー、唯我独尊のマーチ伯母、そして幼なじみローリーが加わり、多感な姉妹の軌跡が紡がれる。そこには喜びも悲しみも、ほろ苦い人生の現実も描かれる。
ガーウィグは自立心の強いジョーの視点から、家族をみつめ、19世紀南北戦争時の女性の置かれている立場をくっきりと浮き彫りにする。豊かな家の男性と結婚することしか女性が家を出る術がなかった時代に、“自分らしく”生きることがいかに難しかったか。そしてその困難さは今も続いていることを明らかにする。
ここに登場する女性たちは、ジョーはもちろんのこと、それぞれのやり方で時代に真摯に向き合っている。今だからこそ描き得た、自然体で心に沁み入る女性讃歌となっている。
なにより嬉しいのは、ヒロインのジョーに『レディ・バード』で素晴らしいパフォーマンスをみせたシアーシャ・ローナンが起用されていることだ。13歳の時に『つぐない』(2007)でアカデミー助演女優賞にノミネートされて以来、『ハンナ』でアクションに挑戦するかと思えば、吸血鬼譚『ビザンチウム』(2012)やSFの『ザ・ホスト 美しき侵略者』(2013)などにも出演。アイルランド人の血を謳った『ブルックリン』(2015)や『レディ・バード』で演技力を高く評価され、ともにアカデミー主演女優賞にノミネートされた。今や押しも押されもしない若手女優ナンバーワンといってもいいだろう。
ローナンの個性は『レディ・バード』でも明らかだが、ガーウィグのユーモアに溢れた演出センスと絶妙の化学変化を起こす。ガーウィグの細やかな描写と洞察力に富んだ映像、溌溂としたユーモアがローナンの誠実な演技と呼応し、ジョーというキャラクターをくっきりと焼きつける。アカデミー賞にノミネートされ、受賞は『ジュディ 虹の彼方に』のレネー・ゼルウィガーに譲ったものの、素直にエールを送りたくなるほど魅力的なヒロインであることは間違いない。
ローナンをサポートする共演陣もフレッシュな俳優が選りすぐられている。長女メグには『ハリー・ポッター』シリーズのエマ・ワトソン。三女ベスにはテレビミニシリーズ「Sharp Objects」で注目されたエリザ・スカンレン、四女エイミーには英国出身で『ミッドサマー』でセンセーションを巻き起こしたフローレンス・ピューという顔ぶれ。ローナンを含めて今が伸び盛りの女優たちの丁々発止の競演がみものとなる。
さらに母親役には『マリッジ・ストーリー』でアカデミー助演女優賞に輝いたローラ・ダーンが起用され、伯母のマーチには名女優メリル・ストリープが控えている。またジョーが心を寄せる幼馴染のローリーには『君の名前で僕を呼んで』の美青年、ティモシー・シャラメ。このキャスティングはみごとという他はない。
少年少女世界文学全集に収められた「若草物語」には、“自分らしく”生きたいと願った女性たちの思いがこれほど込められていたのか。誠実で溌溂とした作品、一見をお勧めする次第。