新型コロナウィルスの猛威は留まることを知らないかのようだ。未だに世界各地で感染者が増え続け、死者も決して少なくない。
とりわけこの病の酷なのは人と人が接することで蔓延する点にある。
病が発生する前は、コミュニケーションは人と人との距離の近さではかられたが、今や国を挙げて厳しくソーシャル・ディスタンスを守るように喧伝する始末。
さらに 三密と称して、換気の悪い《密閉》空間や多数が集まる《密集》場所、間近で会話や発声をする《密接》場面を避けるようにと、お上やメディアが呪文のように繰り返す。
「Stay Home」と自粛を強いられる日々のなかで、新型コロナウィルスに罹る恐怖と不安からか、世界中がそうなのだからと自分に言い聞かせ、おとなしく従うしかない。
そうして4月に入ると、映画館は休業するしかなくなった。
いうまでもなく映画の醍醐味は多くの人々とスクリーンをみつめ、ともに映画の放つ世界に耽溺することにある。換気をよくしても、映画館は密集、密接の権化のように扱われる。シネマコンプレックスのように最新設備を売りにしているところでも閉じざるを得ない。
大きな企業が運営しているシネマコンプレックスチェーンでさえ、休業が2カ月以上に及ぶと危機的状況になる。全国で頑張っているミニシアターにとっては尚更のことだ。
『精神0』のときに紹介した「仮設の映画館」はこうしたミニシアター存続の危機に編みだされた、次善のシステムだ。
映画は映画館で見ることを目標につくられているが、映画館の存亡を問われている現在、閉館に瀕している映画館、廃業に追い込まれかねない配給会社や製作者を救済するために生まれたアイデア。インターネット上に「仮設の映画館」(URL: www.temporary-cinema.jp/)を設け、そこから作品を配信する方法である。
ただ、首をすくめて災いが過ぎるのを待つだけでは、予定されていた新作映画はダブつくばかり。劇場公開からDVDに向かうといった従来の映画のアウトプットの流れは損なうが、待てるだけの余裕を持たない映画館や配給会社にとっては、観客に作品を披露できる苦肉の策である。
この試みに賛同した全国各地の劇場がいくつも名を連ねている。東京のシアター・イメージフォーラム、ユーロスペース、ポレポレ東中野、岩波ホールをはじめ、北海道のシアターキノ、フォーラム山形、フォーラム仙台、名古屋シネマテーク、大阪の第七藝術劇場、兵庫の元町映画館、沖縄の桜坂劇場、シアタードーナツなどなど、北海道から九州、沖縄まで、個性豊かなミニシアターが挙って参加している(2020年4月22日現在)。
観客は、自分の好きな映画館を選び、作品を鑑賞する。鑑賞料金(一律1,800円)は「本物の映画館」の興行収入と同じく、それぞれの劇場と配給会社、製作者に分配される仕組みだ。
作品も『精神0』に加えて、数多くの作品が参加を表明した。以下ランダムに並べてみる。『春を告げる町』(配給:東風)
『巡礼の約束」(配給:ムヴィオラ)
『タレンタイム~優しい歌』( 配給:ムヴィオラ)
『グリーン・ライ ~エコの嘘~』( 配給:ユナイテッドピープル)
『どこへ出しても恥かしい人』( 配給:シマフィルム)
『島にて』(配給:東風)
『タゴール・ソングス』( 配給:ノンデライコ)
『プリズン・サークル』(配給:東風)
『タッチ・ミー・ノット~ローラと秘密のカウンセリング~』(配給:ニコニコフィルム)
決して派手ではないが、見応えのある作品が揃っている。作品によっては配信開始日が異なるのでチェックされたい。もちろん、映画館の営業が始まれば、このシステムは本物の映画館が取って代わる。
ただ、この原稿を書いているこの段階では5月にオープンするのは難しそうだ。
この状況がどこまで続くか分からないとなると、この“映画の殿堂”でも、Netflixをはじめとする映像配信企業の送り出す作品も積極的に取り上げていく必要がありそうだ。
アルフォンソ・キュアロンの『ROMA/ローマ』やマーティン・スコセッシの『アイリッシュマン』、ノア・バームバックの『マリッジ・ストーリー』などの、アカデミー賞でも注目された傑作はいずれもNetflixが生み出したものだ。
これまで映画は、テレビの出現、ヴィデオ、CATVなど、存在を脅かす脅威に対して、時には妥協しつつも生き延びてきた。
しかしコロナウィルス禍のようなケースは初めてだ。とにかく映画館に行くことさえ儘ならないのだから。
人間の生活や習慣を変えかねないこの病との戦いに映画は抗することができるのか。
スクリーンに映し出して観客が楽しむ、これまでの方法は消え去る危険性も秘めている。コロナウィルスに対する特効薬ができてほしい。また皆でスクリーンに映る映像を堪能したいものだと、つくづく願う。