観察映画の元祖フレデリック・ワイズマンが今回取り上げたのはロンドンのナショナル・ギャラリー。「注文されたので」撮っただけというワイズマンだけれど、出来上がった作品は彼でなければ撮れないものになっている。撮影期間は二週間だが編集に一年以上かけたという作品だ。
新たな展覧会の準備、内装工事、ギャラリーで行われる各種の催しや説明付きツアーの様子から、企画会議や修復の工房まで、カメラは入り込み撮影して行く。ナレーションは無く、字幕もほとんどないのはワイズマンのスタイルである。
そこにカメラがあることを意識していないかのように行動する人々、撮られていること気づかない来館者たち。ギャラリーの内側の人々の熱意や美に対する情熱と、絵の中から抜け出して来たような来館者たちの横顔が交錯する。中世から近代までの絵画が今に続いていることを知るところがギャラリーであると教えてくれるのだ。
最近やっと公開もされるようになったワイズマンだが、この作品は絵画の見方の解説を聞きながら、ナショナルギャラリーを歩き回っている気にさせてくれる一本として観て楽しいものだと思う。
もちろんそこにはワイズマンの視点というものが潜んでいるのだが。
<文・写真 まつかわゆま>