原題も同じなので仕方がないが、あまりにも身も蓋もない直球の題名にびっくりする。描かれているのは、モータースポーツの絶対的王者フェラーリを相手に、ル・マン24時間レースで戦いを挑んだフォード・チームのふたりの男の実話。レースに人生を捧げた男たちのロマンが心ゆくまで堪能できる、手に汗を握る人間ドラマだ。
ライバルであるフェラーリとの戦いよりも、巨大企業フォードの頭の固い経営陣に悩まされながら、カー・デザイナーにして製造会社責任者キャロル・シェルビーと、型破りな英国人ドライヴァー・ケン・マイルズがより速く、頑丈なレースカーの製作に燃える展開となる。
ヘンリー・フォード2世やリー・アイアコッカ、エンツォ・フェラーリなどの実在の自動車世界の大物が登場し、ふたりの主人公の軌跡を彩る。結構、突っ込んだ描写もあり、それぞれの人格に関わるシーンもある。あくまでも面白さ本位で押し切った感じ、よく映像化できたものだと感心させられる。
脚本を担当したのは『オール・ユー・ニード・イズ・キル』のジェズ・バターワースとジョン=ヘンリー・バターワースの兄弟に『大脱出』のジェイソン・ケラー。さらに監督を務めるジェームズ・マンゴールドが加わって練り上げた。まして製作総指揮には、映像にこだわる『ヒート』のマイケル・マンも参加しているとなれば、ダイナミックで疾走感に溢れた映像になっていることも頷ける。
監督のマンゴールドは実録音楽ドラマの『ウォーク・ザ・ライン/君につづく道』から、アメリカンコミックのヒーロー、ウルヴァリンのその後を描いた『LOGAN/ローガン』、はたまたトム・クルーズ&キャメロン・ディアス主演のアクション・コメディ『ナイト&デイ』まで、多彩な作品歴を誇る匠だ。本作では1960年代のレーシング・シーンを再現するために、当時に製作された『グラン・プリ』や『栄光のル・マン』を参考に、時代にシンクロした臨場感を映像に満たすように腐心したとか。今は希薄になってしまった男と男の熱い絆。レースに賭ける男たちの情熱をストレートに押し出している。
出演は『オデッセイ』や『ジェイソン・ボーン』でお馴染みのマット・デイモンに、『ダークナイト』から『バイス』まで“なりきり型”俳優として知られるクリスチャン・ベール。二大演技派スターの丁々発止の競演がなにより作品の魅力を増している。
共演は『ウインド・リバー』のジョン・バーンサル、テレビシリーズ「アウトランダー」で知られるカトリーナ・バルフ、『ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書』のトレイシー・レッツ、『ポセイドン』のジョシュ・ルーカスなど、実力のある個性派が揃っている。
かつてカーレーサーとして活躍しながら、心臓に病を抱えたためにカー・デザイナーの道を選んだキャロル・シェルビーのもとに途方もない依頼が届く。ル・マン24時間耐久レースでイタリアのフェラーリに勝てる車をつくってほしいというものだった。
この依頼の裏には、ヘンリー・フォード2世のフェラーリに対する憎悪があった。フォードは若い世代にアピールするためにフェラーリの買収計画を進めながら、直前のところでエンツォ・フェラーリに態度を翻された屈辱に苛まれていたのだ。
何が何でもフェラーリに勝つというフォードの本気を受けて、依頼を受諾したシェルビーは、イギリス人ドライバー、ケン・マイルズに声をかける。型破りの唯我独尊的男ながら、レーサーとしての腕は超一流だった。生活に困っていたマイルズは引き受け、シェルビーとともに史上最高のレーシング・カーづくりに没頭していく。
だが、マイルズの歯に衣を着せぬ言動がフォードの副社長レオ・ビープの不興を買う。ここにおいてシェルビーとマイルズはフェラーリとともに、フォードのエクゼクティヴを敵にまわすことになる。
そして、ル・マン24時間耐久レースが始まる。ふたりに意外な結末が待ち受けていた――。
シェルビーとマイルズ、より速いレーシング・カーづくりに情熱を傾けるふたりのヒロイズムが全編から立ち上る。清濁併せ呑む度量のある、耐えることを知っているシェルビーと、直情開口でただストレートに速さを求めるマイルズ。マイルズには企業論理など理解する気もなく、それ故にエクゼクティヴから反発を浴びるのだ。演じるデイモン、ベールの演技の冴えもあって、このふたりの男伊達になによりも胸が熱くなる。
マンゴールドは好対照のふたりのヒロイズムを浮き彫りにしながら、前半はフォードのフェラーリ買収計画の失敗を企業ドラマ風にスリリングに紡ぎ、後半はエクゼクティヴとマイルズの確執を描き出す。そしてクライマックスはル・マン24時間耐久レース。もう結果は分かっているのに、トラブル、アクシデントのひとつひとつに緊張感がマックスとなる。なによりカーレースの醍醐味、面白さが画面に横溢している。ここまで人間ドラマとして魅力的な要素を詰め込み、レースの圧倒的なスピード感をしたたか映像に焼きつける。マンゴールドのエンターテインメントに拍手を送りたくなる。
当時のレースの臨場感を再現するために完璧なセットをつくりあげたことも特筆に値する。今のル・マンは手が加わって当時のレース場とは変わってしまっていることから、巨大なレース場を構築し、撮影した。さらには1960年代風の映像で徹底したのだから大したものだ。『ナイト&デイ』などでチームを組んでいる撮影のフェドン・パパマイケルがみごとな映像に仕上げてみせた。
演技ではシェルビー役のマット・デイモンが受けの演技に徹すれば、マイルズ役のクリスチャン・ベールはスピード命、根は愛情にあふれる男を素敵に表現している。レオ・ビープに扮したジョシュ・ルーカスのワルぶりをふくめて脇役陣の個性が活かされ、デイモンとベールとみごとなアンサンブルを形成している。
本作はできればIMAXの大画面で見ることをお勧めしたい。レースの迫力が半端なく楽しめるからだ。これは面白い。