『ゾンビランド:ダブルタップ』は痛快至極、爆笑必至のゾンビ退治アクション!

『ゾンビランド:ダブルタップ』
11月22日(金)よりTOHOシネマズ日比谷ほか全国ロードショー
配給:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
公式サイト:http://www.zombie-land.jp/

 

アクション映画では、敵を誰に設定するかは重要なファクターとなる。

特に昨今のような権利や差別に敏感な時代となると、安易に敵を設定するのは禁物である。当然、特定の民族だけを仇役に設定にするのは慎むし、そこにはエクスキューズを用意する必要が生じる。同様にマイノリティを仇役に設定するにも細かい配慮が求められる。

そこで心置きなく敵を成敗するために格好の存在としてクローズアップされてきたのがゾンビである。

何しろ、彼らは“リヴィング・デッド”。

すでに死んでいるのだ。

どんなに非道な成敗の仕方をしようとも文句は言われない。ゾンビになる理由はさまざまながら、ゾンビとなった人間たちは非ゾンビの人間に襲い掛かる。人類の生存のためには、ありとあらゆる方法でゾンビを叩き潰すことが許される。どんな過激なやり方でも許容されるのはゾンビぐらいのものだ。

とことん痛快にゾンビを成敗する戦略を貫いて成功した好例が2009年に劇場公開された『ゾンビランド』だった。

吹っ切れたようにゾンビに鉄槌を喰らわす人間たちをブラック・ユーモアたっぷり、誇張したバイオレンス描写で紡ぎ出し、熱狂的ファンを生み出した。監督はこれが長編映画監督デビューのルーベン・フライシャー。彼は続いて『ピザボーイ 史上最凶のご注文』や『L.A. ギャング ストーリー』などを経て、アメリカン・コミックのスピンオフ『ヴェノム』に抜擢され、世界的な認知を得ることとなった。

監督フライシャー同様、脚本を手掛けたレット・リースとポール・ワーニックも注目され『デッドプール』2作で高い評価を受けた。

この作品以後、右肩上がりの成功を収めたのは、監督、脚本家に留まらない。俳優たちも成功の階段を上がっている。

まず主演のジェシー・アイゼンバーグは『ソーシャル・ネットワーク』が絶賛され、『グランド・イリュージョン』や『ジャスティス・リーグ』など、ヒット作にも欠かせない存在になった。エマ・ストーンは『アメイジング・スパイダーマン』のヒロインから『ラ・ラ・ランド』でアカデミー主演女優賞受賞。アビゲイル・ブレスリンも着実に大人の女優の道を歩んでいる。既に性格俳優の地位を築いたウディ・ハレルソンを別格にすれば、いかに『ゾンビランド』のキャスティングに先見の明があったことが分かる。全米でスマッシュ・ヒットを飾ったことも当然、なによりスタッフとキャストに勢いがあった。

そしてそれから10年、なんとスタッフ、キャストはそのままに本作、第2弾が誕生することになった。それぞれに認知度を上げての再結集。脚本にはレット・リースとポール・ワーニックのコンビに、『エクスペンダブルズ』のデヴィッド・キャラハムが加わってパワーアップ。ルーベン・フライシャー得意のブラックな笑いと軽口、さらに圧巻のアクションが見る者を画面に釘付けにする。

さらに『シン・シティ』のロザリオ・ドーソンに、『ライ麦畑の反逆児 ひとりぼっちのサリンジャー』のゾーイ・ドゥイッチ、『モーテル』のルーク・ウィルソンなど、個性派俳優が結集し、主演陣に劣らぬ存在感を発揮してくれる。加えて、前作でも話題になったビル・マーレイが顔を出すのも嬉しい限りだ。

 

爆発的なウィルスの感染により、世界中がさらにゾンビで溢れた地球。生き残るためのルールをつくり生きのびてきた“おたく”のコロンバスと、ワイルドな行動派のタラハシーは、美人姉妹のウィチタとリトルロックとともにホワイトハウスを住処にしていた。

だが、リトルロックはヒッピー男と消え、コロンバスとタラハシーは戻ってきたウィチタとともに彼女を探しにグレースランドまで一大冒険旅行に挑むことになる。しかも、おバカな女の子マディソンが乱入し、コロンバスとウィチタの恋のゆくえはややこしくなる。

グレースランドでは、タラハシーのプレスリー好きが明らかになったばかりか、ホテルの色っぽいマダムに惹かれる展開。やがて生き残り人間たちのコミューンで、リトルロックと再会するも、“進化した”ゾンビたちを相手に一大バトルを迎えることになる――。

 

主人公4人4様の心模様がロードムービー的な展開とともに、ギャグ満載で綴られる。終末的世界にも関わらず、どこまでも明るく、どこまでもおバカな4人の行状がゾンビとの戦いでメリハリをつけながら快調に綴られていく。まして本作ではゾンビにも進化形が生まれたという設定。スピードアップしたタフなゾンビがクライマックスで暴れまくるが、心配ご無用。4人組のタフさも倍増して、互角以上に立ち向かう。

基本のラインとしては、結婚を意識したコロンバスとウィチタの愛の行方。さらに大人への旅立ちをしたいリトルロックの成長にタラハシーの恋といった、ファミリー・ドラマの定番的テーマを軸に据えながら、ゾンビと戦うスタイル。アメリカ映画の定番といわれればそれまでだが、どんな形態でも絆を結びあえば家族となるというメッセージが貫かれている。

もっとも、そんなメッセージよりも、とにかく楽しく痛快に仕上げたいという、ルーベン・フライシャーの思いが全編に行き渡っている。肩の力の抜けた演出で、キャストそれぞれの演技に見せ場を持たせ、とことん笑いで押し切る。この人のユーモアのセンス、軽妙な演出にさらに磨きがかかった印象がする。

 

出演者もそれぞれの役どころを楽しそうに演じている。おたくのコロンバス役のジェシー・アイゼンバーグは容姿を含めてまさに適役だし、タラハシー役のウディ・ハレルソンは『スリー・ビルボード』のような演技派ぶりをかなぐり捨て、どこまでもネジの外れた武闘派ぶりを披露。ウィチタ役のエマ・ストーンは軽妙なキャラクターを爽やかに演じている。またリトルロック役のアビゲイル・ブレスリンは今後の成長がさらに楽しみなる。

 

堅いことをいわずに、ゾンビを痛快に成敗するヒーロー、ヒロインの暴れっぷりを楽しめばいい。こういう過激で理屈抜きに笑えるエンターテインメントは、むしろ貴重だ。あえて一見をお勧めする次第。