『楽園』は地方の閉塞感のなかでもがく人々を描いた出色のサスペンスドラマ。

『楽園』
10月18日(金)より全国ロードショー
配給:KADOKAWA
©2019「楽園」製作委員会
公式サイト:https://rakuen-movie.jp/

 

吉田修一の小説は数多く映画化され、いずれも大きな話題を集めている。

1997年に「最後の息子」で小説家デビューを果たして以来、吉田修一は次々と話題作を発表。山本周五郎賞や芥川賞をはじめ、数多くの文学賞に輝いている。「パレード」や「悪人」、「横道世之介」、さらに「怒り」、「さよなら渓谷」など、評判となった小説はいずれも映画化され高い評価を受けてきた。彼の生み出す世界が現実社会そのものであり、生きている私たちの思い、心情を反映していることが、映画の担い手の惹かれる理由だろう。

 

ここに紹介するのは吉田修一の小説の最新映画化作品である。原作となるのは2016年に発表された「犯罪小説集」。現実の犯罪事件に題材を得た短編小説集で、映画化にあたっては「青田Y字路」と「万屋善次郎」の2作が題材となった。

脚本と監督を務めたのは『64-ロクヨン‐』二部作、『菊とギロチン』などの骨太な作品で知られる瀬々敬久。原作に描きこまれた閉塞感に満ちた日本社会、懸命に生きながらも社会に翻弄される人々の姿に深い感銘を受けて、映画化を熱望したのだという。

脚色にあたっては、瀬々監督は原作者と意見を交換しながらつくりあげたという。日本の抱える社会問題をストーリーの底流に置きながら、忌まわしい犯罪を契機に人や社会がどのように変貌していくかを紡いでいく。

昔ながらの異種排除の風潮が残る地方都市を舞台に、流入するよそ者を受け入れない、日本の抱える社会問題を底流に置きながら、忌まわしい犯罪を契機に人や社会がどのように変貌していくかを描き出す。

日本各地に流入する“よそ者”たちに溝をつくり、事あれば異種排除を鮮明にする、どこにでもありそうな地方都市を舞台に、社会に受け入れられなかったふたりの男と、事件がもとでいたたまれなくなったひとりの女性の軌跡が綴られる。最後には、人は何が起きても生きていかなければいけないという、願いにも似たメッセージが立ち上がってくる。人間という弱い存在を見すえた瀬々監督の映像は切なく、哀しい。

出演は『新宿スワン』や『武曲 MUKOKU』などで進境著しい綾野剛に、『十二人の死にたい子どもたち』の杉咲花、『64-ロクヨン‐』二部作や『記憶にございません!』で多彩な演技をみせる佐藤浩市。さらに『武曲 MUKOKU』の村上虹郎、加えて片岡礼子、黒沢あすか、柄本明などがきっちりと脇を固めている。

 

高齢化が進み、異種排除の空気が漂う地方都市で、12歳の少女が行方不明になる。親族、近隣の人々が懸命に探すが消息は不明だった。消える直前まで一緒だった少女・湯川紡は衝撃を受けると同時に、激しい疎外感に襲われる。住民たちは人さらいが近くにいるのかと猜疑心を抱えて生きることになる。

12年後、再び少女が消える事件が起きた。今度は12年前に怪しい行動をとった“よそ者”中村豪士が疑われ、追いつめられた結果、惨事が起きる。その直後に少女は発見された。

心に傷を負って成長した紡は惨事を知って東京で生きる決意をする。

一方、帰郷して、この地に身を埋める決心をした田中善次郎は、周囲に溶け込もうと努力するが、良かれと思ってとった行動が村の不興を買い村八分となってしまう――。

 

母とともに怪しげなリサイクル販売をしている“よそ者”豪士、事件の当事者にならなかった少女・紡、村八分となった男・善次郎。この三人の男女を軸にして、閉鎖的なコミュニティのなかで起きる犯罪の余波、そしていかにして犯罪が起きるかをリアルに紡いでいる。少女の失踪事件によって冷静さを失ったコミュニティの暴走、コミュニティから拒否された男の反撃までが克明に綴られる。地方の何気ない風景が禍々しい雰囲気を帯びて映像に焼きつけられていき、緊張感に満ちたストーリーに強烈な効果をもたらしている。

瀬々監督の人間描写の確かさ、演出力に惹きこまれる。登場人物ひとりひとりの思いに惹きこまれ目を離すことができない。少女の失踪事件が未解決ゆえに、じわじわとサスペンスが持続するあたりの巧みさ。アメリカ映画をほうふつとする私刑に続き、さらなる残虐事件まで起きる。ストーリー的にはサスペンスドラマといえばいいのだろうが、なにより日本社会の持つ排他性を明らかにした点が特筆に値する。不寛容の世界にがんじがらめになって犯罪に走る人々を見すえつつ、ある種の共感を持って描くところが瀬々監督の真骨頂といえるだろう。

 

豪士役の綾野剛は優しそうでいていかにも正体不明の青年を演じ切り、紡役の杉咲花は疎外感から東京に出る心情をみごとに表現している。善次郎役の佐藤浩市は善意の行動がしきたりを無視したために村八分になった男の、憤懣に至る感情を巧みに演じる。共演の柄本明、片岡礼子、黒沢あすかもリアリティに富んだ存在感をみせている。

 

閉塞した地方を舞台に、疎外感を抱かずにはいられない人間の姿をくっきりと描いた力作。これは注目したい1本だ。