『アラジン』はミュージカルの楽しさがとことん満喫できる、アニメーションの実写化作品!

『アラジン』
6月7日(金)より、TOHOシネマズ日比谷ほか、全国ロードショー
配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン
©2019 Disney Enterprises, Inc. All Rights Reserved.
公式サイト:https://www.disney.co.jp/movie/aladdin.html

昨今のミュージカル映画や音楽映画の人気ぶりに貢献したのは、間違いなくウォルト・ディズニー作品だ。
1990年代、アメリカ映画界がミュージカルを敬遠していた頃、ディズニーはアニメーション作品を通してミュージカルの魅力を訴え続けた。『美女と野獣』や『ライオン・キング』、そして『アラジン』は世界的なヒットを飾ったばかりではなく、舞台化されてミュージカルとなったのはご存知の通りだ。日本でも劇団四季が繰り返し上演している。
誇張されたアニメーションの世界では突然、登場人物(動物)が歌ったり踊ったりしても違和感が起きない。以降も『アナと雪の女王』などなど、歌の魅力を前面に押し出した作品を量産した。こうしたディズニーのミュージカル趣向を維持し続けた努力が、ミュージカルの不自然さに抵抗のない世代を育て、現在の反映に繋がっている。
さらに近年、ディズニーは評判を呼んだアニメーションの実写化リメイクに挑んでいる。2017年に『美女と野獣』を発表。評判を呼んだことに力を得て本作の登場となる。
1992年に製作されたアニメーションはアカデミー作曲賞と挿入された「Whole New World」が主題歌賞に輝いたことでも記憶に新しい。アラン・メンケンのメロディにハワード・アシュマン(1991年に死去)とティム・ライスによる作詞があわせた、圧倒的に魅力的な楽曲の数々が劇場いっぱいに響き、実写の映像とともに見る者を喜びに誘う。しかも本作には『ラ、ラ、ランド』や『グレーティスト・ショーマン』でセンセーションを巻き起こしたベンジ・パセックとジャスティン・ポールも新曲で参加している。ミュージカルの現在のトレンドを十分に踏まえた陣容である。
監督を務めるのは『ロック、ストック&トゥー・スモーキング・バレルズ』で長編劇映画デビューを果たし、『シャーロック・ホームズ』や『コードネームU.N.C.L.E.』などで知られるガイ・リッチー。『チャーリーとチョコレート工場』のジョン・オーガストとともに脚本にもタッチしている。いつもは勢いで疾走する監督ながら、本作はアニメーションの完璧なお手本があるから、きっちりとミュージカルの楽しさを焼きつけている。
しかも出演が嬉しい。アニメーション版では今は亡きロビン・ウィリアムズがマシンガントークを炸裂させた魔人ジーニーをウィル・スミスが演じるのだ。ラッパーとしての経歴を誇り、『バッドボーイズ』や『メン・イン・ブラック』などの軽妙なアクション、演技でスターにのし上がった。なにより華のある存在だ。
彼が軸になれば、主人公のアラジンとジャスミンはオーディションで選ぶことができる。かくしてアラジンにはドラマシリーズ「トム・クランシー/CIA分析官 ジャック・ライアン」にも顔を出した、エジプト生まれのカナダ育ちメナ・スマード、ジャスミンにはインドの血を継ぐ英国女優ナオミ・スコット。
この他、チュニジア出身の家族の間に生まれたマーワン・ケンザリ、イラン出身のナヴィド・ネガーパン、同じくナシム・ペドラドなどが起用されている。

砂漠の王国アグラバーに住むアラジンは、相棒の猿アブーとともに貧しいが自由気ままな生活を送っていた。ある日、市場で泥棒の疑いをかけられていた若い女性を助けて、一目で恋におちる。
彼女は自由に憧れる王女で強い心の持ち主、ジャスミン。彼女を救ったアラジンだったが、王位を狙う邪悪な大臣ジャファーの誘いに乗り、砂漠の洞窟からランプを探す仕事を引き受ける。
洞窟はさまざまな仕掛けが施されていたが、アラジンは身軽に試練を潜り抜け、魔法のじゅうたんと魔法のランプを見つける。魔法のランプからは魔人ジーニーが現われ、願いを3つだけ叶えるという。アラジンはジャスミンとの恋を実らせるために、“王になる”願いを叶えた。
ジャスミンは、女性は王になれない因習から解き放たれることを夢み、アラジンのことも忘れ難く思っていた。やがて彼女の前に王となったアラジンが現われるが、大臣のジャファーは邪悪な計画を実行に移す。
妖術を駆使するジャファーに、アラジンは魔法のランプを奪われ、最大の危機に直面する。彼はジャスミンを救うことができるだろうか――。

ガイ・リッチーの爽快な語り口に乗って、アニメーションにほぼ忠実なストーリーが綴られ、天然色のゴージャスな世界がスクリーンに焼きつけられていく。VFXやCGを駆使すれば、アニメーション同様の画面をつくることなど造作もない。確かにジャスミンに今様の女性のキャラクターを付加したこと、キャスティングを中東的な俳優で固めたことなど、いくつかの新たな趣向はみられるが、基本的にはあくまでもアニメーション世界の実写リメイク。夢見ることを謳いあげるディズニー世界で終始する。
もちろん、魅力はすばらしいミュージカル・シーンに尽きる。ウィル・スミスを起用したのも、歌って踊るシーンにメリハリを利かせるためだし、彼の存在によって画面に勢いが生まれている。青い容貌の魔人役はアニメ顔なのもぴったりくる。
魔法のじゅうたんに乗って歌う「Whole New World」の名シーンをはじめ、今さらながらにアラン・メンケンのメロディの親しみやすさに感動するばかり。ビートの利いた新たに加わった楽曲とのコントラストも際立ち、見る者を画面に釘付けにする。ミュージカル・シーンをみるだけで入場料の価値は十分にあると思う。

ディズニー・スタジオはこのアニメーション実写化プロジェクトをさらに推し進め、この12月には『ライオン・キング』が登場する予定だ。どのような映像がもたらされるのか、興味は募るばかりだ。まずは『アラジン』をみて、ディズニーの夢の世界を堪能されたい。