『ザ・フォーリナー/復讐者』はジャッキー・チェンのハードボイルドな復讐アクション!

5月3日(金)より、新宿ピカデリーほか全国ロードショー
配給:ツイン
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公式サイト:http://the-foreigner.jp/

 自ら身体を張ったアクションで一世を風靡した存在といえば、ジャッキー・チェンの名がまず挙がる。
 彼の全盛期は1980年代だろうか。当時、好調を極めていた香港エンターテインメントのなかでも、とりわけジャッキー・チェン作品は輝いていた。ジャッキーは無声映画時代のスターと同じく、危険なアクションやスタントをギャグにする稀有なスターだった。なかでも『プロジェクトA』や『ポリス・ストーリー/香港国際警察』、『プロジェクトA2/史上最大の標的』など、監督も引き受けた作品は張り切り方が半端ではなかった。危険なスタントを売りに人気を高めた。
 チェンの不幸はアメリカ映画に招かれることが遅かったことだ。アメリカで成功し、香港映画が中国市場に飲み込まれた頃には、アクションスターとしての盛りは過ぎていた。それでもジャッキーはアクション映画に出演し続けた。身体のキレの衰えをテクニックと経験で補い、アクションスターのイメージを護り続けた。
 とはいえ、1954年生まれ。60歳を超えたジャッキーが今後、どのような方向性で向かうのか、多くのファンは注視していたが、本作はひとつの答になりそうだ。
 ジャッキーが演じるのはロンドンで中華料理店を営む男、クァン。15歳の娘を無差別爆弾テロで殺され、復讐に燃えるキャラクターだ。
 もちろん、ジャッキーが演じるのだから単なる中華料理店の店主ではない。ベトナム戦争期にアメリカ軍の特殊部隊に所属した過去を持つ男だ。彼は警察があてにできないと知ったとき、独自に犯人を探り出し追いつめていく。
 原作はスティーヴン・レザーの犯罪小説「チャイナマン」。これを『ダイ・ハード4.0』のデヴィッド・マルコーニが脚色。枝葉を切り、アクションを際立たせつつ、復讐のサスペンスを前面に押し出した。
 本作は『007/カジノ・ロワイヤル』や『バーティカル・リミット』で知られる、ニュージーランド出身のマーティン・キャンベルが監督に抜擢されたことで、いっそう素晴らしい仕上がりとなった。きびきびとメリハリの利いた語り口とアクション演出を得意にする彼が、ここに新しいジャッキー像を構築してみせた。
 しかもジャッキーのワンマン映画にせず、彼と拮抗するスターを共演にもってきた。『007/ダイ・アナザー・デイ』などで5代目ジェームズ・ボンド俳優として活躍したピアーズ・ブロスナンだ。アイルランド系のブロスナンとジャッキーの競演はストーリーにみごとにシンクロし、作品に迫真力をもたらしている。
 加えて『ル・コルビュジエとアイリーン 追憶のヴィラ』のオーラ・ブラディ、『クリムゾン・プラネット』(劇場未公開)のレイ・フィアロン、さらに新鋭のローリー・フレック・バーンズなど、脇はアイルランド・英国勢で固められている。

 ロンドンで無差別爆弾テロが起き、ベトナム系中国人クァン・ノク・ミンの娘が犠牲になった。彼は警察に日参するが、捜査は一向に進展しそうになかった。
 爆弾はアイルランド過激派の仕業らしい。クァンは単身、北アイルランド副首相リーアム・ヘネシーの住むベルファストを訪れる。体よく追い出そうとするヘネシーに対して、ある脅しをかける。小さな起爆装置を破裂させて、犯人の名前を迫った。ヘネシーはクァンの逮捕を命じるが、クァンは並外れた動きと武術で追手を返り討ちにする。
 ヘネシーもこの爆破事件に対して当惑していた。彼はイギリス政府のために北アイルランド副首相になっているが、かつてはアイルランド過激派の一員として破壊活動を行なっていた。彼もイギリス政府、警察が真相に行き着く前に犯人を知る必要があった。
 ヘネシーが情報を持っていると確信したクァンは、ヘネシーに対する監視をさらに厳しいものにしていく――。

 娘を殺された親の怒りという、共感を禁じ得ない感情に突き動かされた男。こんなキャラクターをジャッキーが演じるのは初めてではないか。明るい表情に封印をして、悲しげな顔で貫いたことが成功の要因。市井の変哲もない初老男が怒りに燃えて、かつてのスキルを蘇らせるという設定は、現在のジャッキーにふさわしい。
 もちろん、未だジャッキーの“体技”は今でもアクションシーンを立派に成立させているが、さらにマーティン・キャンベルのタイトな演出が加わるのだから鬼に金棒。キャンベルはイギリス、北アイルランドの危うげな関係をリアルに再現して、ストーリーにてきぱきと織り込んでみせる。善悪ではなく、積年の憎しみが過激な行動に走らせている事実を浮き彫りにしているのだ。
 このリアルな背景のもとで、初老の男の孤独な戦いがハードボイルドな色彩を帯びる。真相追及のために持てる力をすべて投げ出す男のヒロイズムが浮かび上がる寸法だ。

 一方、ピアーズ・ブロスナンの方はいささか受けの演技を強いられる。北アイルランド副首相という要職にありながら、過激派であった過去に揺さぶられ、かつての仲間からは白い目を向けられている。しかも、自らの牙城も思わぬ裏切りをはらむに及んで、行動を余儀なくされる。キャンベルのスリリングな演出のもと、アイルランド系であるブロスナン自身が納得できる結末となっている。

 ジャッキー・チェンが年輪を重ねたことを実感させるアクション快作。こういうサスペンス主導のアクションならまだまだ実力は発揮できる。今後は監督を厳選して、ますます頑張ってほしいものだ。