『リメンバー・ミー』はピクサー・スタジオが練りに練った、家族の絆をめぐる冒険のストーリー!

『リメンバー・ミー』
3月16日(金)より、TOHOシネマズ日本橋ほか全国ロードショー
配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン
©2017 Disney/Pixar. All Rights Reserved.
公式サイト:http://www.disney.co.jp/movie/remember-me.html

 

第90回アカデミー賞において、『ボス・ベイビー』や『ゴッホ 最期の手紙』などを押しのけて長編アニメーション賞に輝き、主題歌「リメンバー・ミー」が歌曲賞を手中に収めた話題作の登場だ。

製作したのはCGアニメーションの雄にして、日本でも馴染みの深いピクサー・アニメーション・スタジオ。『トイ・ストーリー』や『モンスターズ・インク』、『ファインディング・ニモ』をはじめとする傑作を送り出した老舗である。

このスタジオは毎作品、きっちり練りこんだ脚本とユニークなキャラクターで勝負することで知られているが、本作も例外ではない。『トイ・ストーリー3』の脚本・監督を務めたリー・アンクリッチがまずメキシコの伝統的な祭礼行事“死者の日”をストーリーの軸にするアイデアを発想。“死者の日”とはメキシコ各地で10月31日から11月2日にかけて行われる行事。先祖や故人の魂を迎えるために、祭壇を設け、カラフルな切り紙の旗や骸骨人形、マリーゴールドの花を飾る。日本のお盆のような風習だ。

『アーロと少年』の脚本に携わったエイドリアン・モリーナ、『トイ・ストーリー3』のストーリー監修を担当したジェイソン・カッツ、『ザ・クリーナー 消された殺人』の脚本を手がけたマシュー・オルドリッチとともに、アンクリッチは3年を費やして徹底的なリサーチを展開し原案を組み立てていった。メキシコに赴き、コンサルタントを雇って独自の文化と人々の気質、暮らしや音楽、伝統などを調べ上げた。

4人の原案をもとに、エイドリアン・モリーナとマシュー・オルドリッチが脚本に仕上げ、リー・アンクリッチが監督、モリーナが共同監督という布陣で製作されることになった。ストーリーの重要な要素となる音楽は『カールじいさんの空飛ぶ家』でアカデミー作曲賞を手にしたマイケル・ジアッキーノ。主題歌「リメンバー・ミー」は『アナと雪の女王』の「レット・イット・ゴー」を送り出し、一躍、注目の存在となったクリステン・アンダーソン=ロペスとロバート・ロペスのコンビが起用された。

声の出演はテレビシリーズ「クリミナル・マインド 国際捜査班」などに顔を出していた子役アンソニー・ゴンザレスが主役に抜擢されたのをはじめ、『モーターサイクル・ダイアリーズ』のガエル・ガルシア・ベルナル、『デンジャラス・ビューティー』のベンジャミン・ブラッドなどメキシコ系の俳優が選りすぐられている(日本語版も藤木直人、橋本さとし、松雪泰子など、芸達者揃いだ)。

 

音楽が大好きでギターの腕が抜群の少年、ミゲルはミュージシャンを夢見ていたが、家のなかでは音楽は厳禁。過去に起こった悲しい出来事が原因で、家のなかでは音楽を聴くことも奏でることも許されなかった。

故人を迎える“死者の日”、音楽のことで家族と衝突したミゲルは、尊敬する歌手エルネスト・デラクルスの霊廟に飾られたギターを手にして奏でた瞬間、先祖たちが暮らす“死者の国”にノラ犬ダンテとともに入り込んでしまった。

“死者の国”は骸骨たちが楽しく暮らす世界だったが、生きている人間は日の出までに帰らないと身体が消えてしまうルールがあった。ミゲルはひいひいおばあちゃんのイメルダと会い、音楽禁止の掟を解いてもらう。生者は捕らえられる“死者の国”を逃げ回りながら、孤独な骸骨ヘクターの助けを借りて、彼はなんとか生者の国に戻る方法を探し出そうとする。その過程で、ミゲルは家族の意外な秘密を目の当たりにした――。

 

少年の成長ストーリーとしての骨格を中心に、映像が焼きつけるのは“死者の国”の圧倒的な世界観だ。

これまでも玩具やモンスターの世界など、あまり映像化されない世界に着目してきたピクサー・スタジオだが、まさかあの世を背景にするとは想像もしなかった。確かにアニメーション作品ではこれまで例がない。それこそ誰も体験したことのない世界を、蛍光色を駆使した色彩を使って構築してみせる。まことテーマパークさながらの妖しの世界。唯一無二の映像を生み出すべく、リー・アンクリッチとエイドリアン・モリーナが持てる力を注ぎこんだ成果がここにある。

もちろん、少年が家族の反対にもめげず、自らの能力を信じるストーリーは『リトル・ダンサー』をはじめ、多くの作品を参考に織り上げていったという。メキシコの少年を主役に据えたことも、昨今の多様化を謳うアメリカ映画界と呼応している。ピクサー・スタジオの作品は、常に主人公のキャラクターをひねってあるが、本作はむしろ主人公よりも彼の体験する世界をひねった印象。見る者は極彩色でペーソス漂う世界に酔いしれることになる。

本作はなによりも音楽をメインに組み込んだことが成功の要因。メキシコ音楽の魅力を存分に取り込みつつ現代にアピールするアレンジを施し、世代を超えてアピールするようにつくりこんである。アカデミー歌曲賞も当然の結果といいたくなる。

 

ピクサーの作品は常に絆を称え、冒険する心を謳いあげる。アニメーションの特性を活かし、ファミリー・ピクチャーのもっとも素敵な部分を映像で具現化する。本作はその最新例。まずは注目のほどを。