アメリカ発のアニメーションといえば、ウォルト・ディズニー・スタジオやピクサー・スタジオの作品がまず頭に浮かぶが、近年、目覚ましい動きをみせるイルミネーション・エンターテインメントの作品も無視できない。このスタジオは『怪盗グルーの月泥棒3D』や『怪盗グルーのミニオン危機一髪』、『ミニオンズ』に『ペット』をことごとくヒットさせてきた。
とりわけ愛らしい容姿の生き物、ミニオンが爆発的に支持を集め、イルミネーション・スタジオの人気をさらに高めるかたちとなった。ユニバーサル・スタジオ・ジャパンに世界最大のミニオン・パークが4月21日に誕生するのはその表れだ。2015年製作の『ミニオンズ』は世界の興行収入11億5940万ドルを稼ぎ、現時点で歴代ランキング11位を獲得している。続く『ペット』も世界的なヒットとなり、勢いがさらに加速されることになった。
そうして登場したのが本作である。題名のまま、本作では歌うことの楽しさ、歌の魅力を前面に押し出したつくりとなっている。パフォーマンスを展開するのはアニメーションにふさわしく動物たち。去年の『ズートピア』と同じく、人間社会に似た動物世界を舞台にして、歌で人生を変えようとする動物たちの姿を紡いでいる。
本作の楽しさは趣向を凝らした動物たちが何を歌うか。そして誰が声の出演をしているかにある。選りすぐられたのは、ザ・ビートルズの「ゴールデン・スランバー」からフランク・シナトラの「マイ・ウェイ」、テイラー・スウィフト「シェーク・イット・オフ」にレディ・ガガの「バッド・ロマンス」などなど、クラシックやきゃりーぱみゅぱみゅの曲も含めて64曲。オリジナルが挿入される曲もあるが、多くは声の出演者が得意の喉を披露する趣向となっている。
出演者が豪華絢爛だ。『ダラス・バイヤーズクラブ』でアカデミー主演男優賞に輝いたマシュー・マコノヒーが主人公、コアラの劇場支配人バスター・ムーンを演じるのをはじめ、下町のゴリラのジョニーには『キングスマン』のタロン・エガートン、ブタの専業主婦ロシータには『ウォーク・ザ・ライン/君につづく道』でアカデミー主演女優賞を獲得したリース・ウィザースプーンとくる。ヤマアラシのアッシュには『アベンジャー』シリーズでおなじみのスカーレット・ヨハンソンで、ネズミのマイクには『テッド』の仕掛人セス・マクファーレン。加えて歌手のトリー・ケリーやジェニファー・ハドソン、コメディアンのニック・クロール、個性派俳優ジョン・C・ライリーまで、まことに多彩なキャスティングではある。
このゴージャスな趣向を仕掛けたのはイルミネーション・スタジオの創立者クリストファー・メレダンドリ。本企画を実現するために、彼はアニメーションの監督を起用するのではなく、あえて『銀河ヒッチハイク・ガイド』や『リトル・ランボーズ』で知られる実写映画の才人ガース・ジェニングスと組んだ。ジェニングスはPVの経験も豊富で、音楽をベースにしたストーリーに最適だと考えたからだという。ふたりはアイデアを出し合って脚本を書き上げ、ギャグ満載、歌う楽しさに溢れた映像を生み出した。
客の入らない劇場の支配人、バスター・ムーンは起死回生の企画として歌唱コンテストを仕掛ける。あまり新鮮味のない企画で応募は少ないと思われたが、ムーンの秘書のミス・クローリーが賞金の桁を間違えてポスターを印刷したもので、応募者が殺到する。
人生をやり直したい。賞金がほしい。切実な思いを抱いてオーディションを受ける動物たちのなかから、傲慢なマイク、気のいいギャングのジョニー、専業主婦のロジータ、パンクロッカーのアッシュなどが選ばれる。
彼らはリハーサルを始めるが、バスター・ムーンは滞っている支払いに対応するべく投資家を募るもののうまくいかない。選ばれたメンバーたちもそれぞれに問題を抱えていて、次々にトラブルが発生する。果たしてショーは上演することができるのか――。
ストーリー自体は“ショーほど素敵な商売はない”を謳いあげる、あえて定番的な展開に仕立てたうえで、それぞれのキャラクターを活かしたギャグを散りばめるスタイル。ショービジネス界のサクセスストーリーは常に高い人気を誇っていて、予定調和的な展開で、観客は安心して映像を楽しむことができる仕掛けだ。
もちろん、なによりの魅力はスタンダードナンバーから最新ヒット曲、カルトな曲の数々が趣向を凝らしたシチュエーションで披露されることだ。専業主婦のロジータがダンサーの相棒と歌い上げるテイラー・スウィフトのヒット曲もおかしいし、ネズミのマイクが朗々と歌い上げる「マイ・ウェイ」も絶品である。随所に歌でギャグする趣向が散りばめられてあり、音楽好きには応えられない。
メレダンドリとジェニングスは大人に向けて作品をつくりあげている。人生の転機をつかみとる勇気を称え、閉塞感に覆われた日常を打破して希望に向かって進む姿勢を鼓舞する。伝統的なストーリー・パターンを踏襲し、あくまでも分かりやすさで勝負しながら、明日への希望を謳いあげている。多様な動物たちが混在する世界が現実と同じことはいうまでもない。多様さを認め合い、協力してショーを成功させることが肝要だと語りかけている。こうしたメッセージが全米で大ヒットした所以だろう。
全編に流れる音楽、キャラクターたちの個性が楽しい。アニメーションの楽しさを満喫できる仕上がりだ。