『ジャック・リーチャー NEVER GO BACK』は、トム・クルーズによる問答無用のフィジカル・アクション第2弾!

『ジャック・リーチャー NEVER GO BACK』
11月11日(金)より、TOHOシネマズ スカラ座/みゆき座ほか全国ロードショー
配給:東和ピクチャーズ
©2015 PARAMOUNT PICTURES. ALL RIGHTS RESERVED
公式サイト:http://jackreacher.jp/

 

 まこと、トム・クルーズほどヒット作づくりに意欲的な俳優はいない。彼のプロデューサー的資質は自らの輝きを維持するための戦略が根底にあるから迷いがない。貪欲に題材を選び出しては話題を生み出していく。

 2012年に発表した『アウトロー』は『ミッション:インポッシブル』シリーズに続く、アクション・シリーズを生み出したいとの思いがこもった作品だった。イギリス生まれでテレビ制作から作家に転進した、リー・チャイルドの”ジャック・リーチャー”シリーズを原作に求め、孤高の流れ者リーチャーを画面に生み出したのだ。

 元エリート軍人でありながら、群れることを嫌い、たったひとりで事件に立ち向かっていく。解決すると、いずこともなく去っていく風情は、ウエスタンに登場する“流れ者ヒーロー”そのまま。なによりも、フィジカルなアクション、スタントで勝負している点でも、『ミッション:インポッシブル』シリーズのイーサン・ハントとは一線を画す。賢いクルーズは往年の活劇の血を継いだリーチャーに大いなる可能性をみたのだろう。2015年に『ミッション:インポッシブル/ローグ・ネイション』で成功した後に、満を持して本作を送り出した。

 ここでは『アウトロー』で監督・脚本を務めたクリストファー・マッカリーは製作にまわり、監督にはクルーズと相性のいい『ラスト サムライ』のエドワード・ズウィックが起用されている。脚本は『16ブロック』や『イコライザー』などで知られるリチャード・ウェンク、『ラスト サムライ』の脚本にも参加したマーシャル・ハースコヴィッツ、そしてズウィックも加わって、ストーリーを練り上げた。ダシェル・ハメットやレイモンド・チャンドラーの生み出したハードボイルドなストーリーが好きなズウィックはチャイルドの小説に同じハードボイルド的要素を見出し、リーチャーをアメリカン・ヒーローの典型、現代の“浪人”ととらえた。この視点にクルーズが喜ばないはずがない。まさにシリーズ化するには格好のヒーローではないか。

 出演者は『アベンジャーズ/エイジ・オブ・ウルトロン』にも顔を出していたコビー・スマルダーズに『ストレイト・アウタ・コンプトン』のオルディス・ホッジ、テレビシリーズ「HEROES Reborn/ヒーローズ・リボーン」のダニカ・ヤロシュ。さらに非情な追跡者の役で、テレビドラマ、ステージで活動するパトリック・ヒューシンガーが凄味を発揮している。

 残念ながら、全米では初登場第1位は飾れなかったが、エンターテインメントとして十分に満足できる仕上がりとなっている。

 

 かつて軍の内部監査部に従事していたジャック・リーチャーは、今は流れ者でありながら正義を貫く日々を送っている。後任のスーザン・ターナー少佐とは電話を通じて、親しくなり、食事の約束をしてワシントンDCに赴くと、なんと彼女はスパイ行為の容疑で逮捕されていた。

 ターナー少佐がはめられたと確信したリーチャーは自分なりのやり方で彼女を救うことにする。どうやら彼女が調査していたアフガニスタンの事件が関係しているらしい。ターナーを陥れることができるのは、軍の上層部の何者かに違いない。リーチャーは拘置所からターナーを脱獄させると、ふたりで真相を探るべく捜査を開始する。

 一方で、リーチャーの娘の可能性のあるティーン、サマンサが彼の世界に入ってきたため、事態はさらにややこしくなる。事件を闇に葬るべく暗躍する刺客がサマンサにまで手を伸ばした。

 リーチャーはサマンサを護りながら、ターナーとともに陰謀に肉薄し、凄腕の刺客と対決することになる――。

 

 アクション抜きでリーチャーの孤高の戦士ぶりを描き出し、思わずニヤリとさせる冒頭から、さすがズウィック、達者な演出が光る。ヒーローはあくまで泰然と事にあたり、能力をきっちりと発揮するもの。そのセオリー通り、あくまでリーチャーの行動をクールに浮き彫りにし、魅力を際立たせている。戦いに関しては、状況に応じて、あらゆるものを武器にする。まさに戦いのプロとして貌を浮き彫りにしてみせる。

 ズウィックは『ラスト サムライ』と同様にクルーズの魅力を際立たせる。ことばよりも行動で思いを語るキャラクターが似合うとばかりに、クルーズのフィジカルな面を強調し、タフなヒーローに仕立て上げる。イーサン・ハントが極め付け派手なスタントに終始するのに比べて、こちらは拳と銃、泥臭く戦うのを本分としている。

 この手のアクションの常として、敵が強ければ強いほど作品は面白くなる。敵の実力が拮抗しているのがベスト。繰り広げられる戦いに、手に汗を握ることになる。本作ではパトリック・ヒューシンガーが演じる追跡者が秀抜だ。

 伝説的な戦士、リーチャーを倒すことに情熱を傾ける。冷酷非情にして、どこまでも執念深く、敵を倒すまで追跡を止めない刺客。若い分だけ、リーチャーより有利な設定だ。ズウィックはこの敵の能力を存分に描き出したうえで、クライマックスのリーチャーとの戦いを盛り上げる。演出力に長けた、ベテランの持ち味が十分に発揮されている。

 クルーズは多少老けたものの、キャラクターの魅力をみごとに表現している。鍛えた身体を駆使してフィジカルな殺陣をこなし、スタントに燃え、タフな男のヒロイズムを画面に焼き付ける。プロデュースも手掛けているから、共演陣はあくまでクルーズを盛り立てる役割。ターナー役のコビー・スマルダーズも決して派手な印象がないのもクルーズの狙いだろう。

 

 堅いことをいわずに、クルーズの仕掛けたヒーロー・アクションを楽しむのも一興。秋にふさわしい、肩の力を抜けたエンターテインメントだ。