『ジャングルブック』はウォルト・ディズニーの遺作となったアニメーションの実写映画化!

『ジャングルブック』
8月11日(木・祝)より、丸の内ピカデリー、TOHOシネマズ日本橋ほか全国ロードショー
配給:ウォルト・ディズニー・スタジオ・ジャパン
©)2016 Disney Enterprises, Inc. All Rights Reserved
公式サイト:http://www.disney.co.jp/movie/junglebook.html

 

 インド・ボンベイ生まれの英国人ラドヤード・キプリングの書いた小説「ジャングルブック」は児童文学の傑作として世界中で愛されている。多くの動物が登場するこの冒険成長物語は、映画人の想像力を刺激するらしく、印象的な映画化作品がいくつも生まれている。

 古くはアレクサンダー・コルダ製作、ゾルタン・コルダ監督、サブー主演になる1942年ロンドン・フィルム製作同名作品からはじまり、1967年にはウォルト・ディズニーがアニメーションとして送り出した。これは奇しくもウォルト・ディズニーの遺作となった。

 1995年には才人スティーヴン・ソマーズが原作のキャラクターを使った異なるストーリーで実写作品を発表。その他にもテレビ映画やアニメーションが数々つくられてきた。

 

 本作はディズニー・スタジオが満を持して生み出した実写作品となる。いや、実写として片づけてしまうのはいささかことばが足りない。

 本作はあらゆる最新の映像技術を駆使して「ジャングルブック」の世界をつくりあげているのだ。モーション・キャプチャーを使い、CGで魅力的なキャラクターを構築。バーチャル・カメラを使いつつ、あくまでリアルさを重んじる。この製作のために『ライフ・オブ・パイ トラと漂流した227日間』で評判となったムービング・ピクチャー・カンパニー(MPC)のチームや、『猿の惑星:創世記』のWETAのチームが参加している。また密林をつくりあげることに関しても、800人を超えるCGアーティストが1年以上をかけて手作業でつくりあげた成果という。

 こうしてつくりあげた背景、キャラクターたちとともに、主人公モーグリ役のニール・セディが演技を繰り広げる。セディは2003年にニューヨークで生まれ、監督ジョン・ファヴローによって抜擢された。演技経験はないがカリスマ性を持っていたのが起用の理由という。

 ブルーバックのスタジオ、タンクでセディがファヴローやマペット相手に繰り広げた演技、アクションが映像技術によって、壮大にして精緻、有無を言わさぬ「ジャングルブック」世界を構築。圧巻のスペクタクルを随所に散りばめながら、動物キャラクターをくっきりと浮き彫りにしながら、少年の成長物語を紡ぎだしている。

 監督のファヴローは『アイアンマン』や『カウボーイ&エイリアン』などで知られているが、通常とは異なる困難な撮影を成し遂げて、画面にワクワクするような冒険心やユーモアを織り込んでみせる。

 脚本は『ストリートファイター ザ・レジェンド・オブ・チュンリー』のジャスティン・マークス。『トップガン2』の脚本を手がけることが決まったという、アメリカ映画界期待の脚本家といったところか。

 なによりの話題は、動物たちの声を豪華な俳優が演じていることだ。黒豹のバギーラを『ガンジー』のベン・キングスレーが演じれば、クマのバルーは『ロスト・イン・トランスレーション』のビル・マーレー。虎のシア・カーンが『パシフィック・リム』のイドリス・エルバ、オオカミのラクシャは『それでも夜は明ける』のルピタ・ニョンゴ。巨大類人猿キング・ルイには『ジャージー・ボーイズ』のクリストファー・ウォーケン。さらに巨大なニシキヘビ、カーには『アベンジャー』シリーズのスカーレット・ヨハンソンなどなど、ゴージャスな顔ぶれが選りすぐられている。

 

 黒豹のバギーラは、ある日、ジャングルに置き去りにされた赤ん坊モーグリを救い、オオカミのラクシャに託す。ラクシャは惜しみなく愛をそそぎ、ジャングルで生き抜くための知恵と勇気、自然の厳しさをモーグリに教え込む。

 モーグリはジャングルの子として成長した。人間に復讐心を抱く虎シア・カーンが現れ、人間の子はジャングルの敵になると糾弾する。シア・カーンは自分の力を誇示しながら、動物たちを押さえこもうとしていた。

 モーグリは愛する動物たちの苦悩を知って、バギーラに伴われて人間の村に向かう決心をする。しかしシア・カーンは執拗にモーグリをつけ狙い、襲いかかった。モーグリはバギーラと離れ離れになってしまう。

 ジャングルで遭遇した巨大蛇カーに惑わされて、モーグリは催眠状態となり、自分の赤ん坊時代の記憶を取り戻す。シア・カーンがモーグリの父を襲った犯人だった。

 蛇の餌食になりかけたところを助けてくれたクマのバルーと仲良くなったモーグリだったが、オオカミのリーダーがシア・カーンに殺されたことを知る。

 再会したバギーラは人間の村に行くべきだと説得する。だが、モーグリはキング・ルイ配下のサルの軍団に捕らわれてしまう。キング・ルイの目的は人間が扱う“火”を手に入れることだった。

 モーグリはこうした体験から怒りや悲しみ、さまざまな感情を体験する。彼は“自分らしく生きる”ために、行動を選択した――。

 

 本作の目的は、あくまでもウォルト・ディズニーの遺作となったアニメーションを実写映画化することだ。それを完璧に実現するためには、映像技術の進化が不可欠で50年近い歳月がかかったといえばいいか。まこと臨場感に満ちた3Dアドヴェンチャーとして、群を抜いた仕上がりを誇っている。

 CGのキャラクターと分かっていても、どこまでもリアルな動物たち。声の出演とあいまって、キャラクターがくっきりと画面に映える。これぞ最新のテクノロジーの成果だ。しかも背景となるジャングルは、むせるような緑の圧倒的な存在感で君臨している。この脱帽したくなる映像のなかで、モーグリの成長が溌剌とした行動を通して紡がれていく。その姿には好感を覚えずにはいられない。

 ファヴローは緩急自在の演出を貫いてみせた。スリリングな追っかけから、圧倒的な数の動物たちのスペクタクル。さらには思わずほっこりとするユーモアを散りばめるあたりまで、みごとの一語。疾走するストーリーテリングのなか、成長物語としてきっちりと結実している点をふくめ、ここで監督としてさらなる飛躍を遂げた印象だ。彼の演出のもと、ディズニーらしいファミリー・アドヴェンチャーとして、素敵な仕上がりである。

 声の出演者のすばらしさはいうまでもない。キングスレーからマーレーまで、声を当てる動物たちに成りきって個性を発揮。凄味やひょうきんさを滲ませつつ、動物たちを擬人化させていく。こういう手法は、考えてみればアニメーションを中心としたディズニー作品の伝統的なものだ。

 

 大人も子供も楽しめるエンターテインメントとして、今夏、屈指の1本。注目されたい。