雄叫びを発して動物たちを従え、ジャングルの秩序を護るために戦う王者ターザン。
イギリス貴族の出自ながら類人猿に育てられ、ジャングルの野性児として君臨するヒーロー。
アメリカの小説家、エドガー・ライス・バローズが生み出したこのキャラクターは、1912年にまず小説として登場し、シリーズ化されて多くのストーリーが生み出された。
初めて映画になったのは1918年、エルモ・リンカーン主演の無声映画『ターザン』で、以降、ターザンというキャラクターはスクリーンに定着。水泳自由形オリンピック・チャンピオン、ジョニー・ワイズミューラー主演の1932年作『類猿人ターザン』が大きな人気となり、ワイズミューラー主演で10本を超えるターザンが製作された。
ターザンと妻のジェーン、チンパンジーのチータなどはすっかり人気者となり、ターザン映画はテレビシリーズも含めて、1960年代までコンスタントにつくられたが、時代の変化とともに次第に姿を消していった。
それでも1981年にはグラマー美女ボー・デレクをフィーチャーした『類猿人ターザン』や、クリストファー・ランバートを主演に迎え、リック・ベーカーの類猿人メイクが話題となった1983年のヒュー・ハドソン監督作品『グレイストーク‐類人猿の王者‐ターザンの伝説』、あるいは1999年のディズニー・スタジオのアニメーション作品『ターザン』と、このキャラクターはまったく忘れ去られたわけではなかった。
本作はターザンのキャラクターに新たなスポットライトを当てている。
スクリーンに英国貴族グレイストーク卿ジョン・クレイトンとして、まず登場するのだ。妻はジェーンで、お互いにアフリカのことを懐かしく帰りたがっている設定となる。つまりはターザンの後日談といえばいいのか。
『ハッスル&フロウ』のクレイグ・ブリュワーと『エージェント:ライアン』のアダム・コザットが、ライス・バローズの原作のエッセンスを抽出しながら、独自のストーリーを原案し脚色。19世紀後半に時代を設定し、コンゴをめぐるイギリス、アメリカ、ベルギーの政治的な状況を織り込みつつ、ターザンの再生をきびきびと描く。
監督を務めるのはデヴィッド・イェーツ。『ハリー・ポッターと不死鳥の騎士団』から最後の『ハリー・ポッターと死の秘宝 PART2』まで、シリーズ4作品を手がけ、年末にはJ・K・ローリングの新シリーズ『ファンタスティック・ビーストと魔法使いの旅』の公開が控えているイェーツにとっては、ターザンというキャラクターが好きだったからではなく、あくまでも脚本の面白さに惹かれたからだとコメントしている。きびきびした語り口で、アクセル全開。予断を許さないアクションのつづれ織りとなる。
主演は、『マンマ・ミーア!』でヒロインのかつての恋人のひとりを演じたスウェーデンの名優ステラン・スカルスガルドの息子で、『メイジーの瞳』をはじめ多彩な作品歴を誇るアレキサンダー・スカルスガルド。ビルドアップした肉体と印象的な容貌が、まさにターザンにぴったりとはまっている。
共演は『ヘイトフル・エイト』のサミュエル・L・ジャクソンに『アミスタッド』のジャイモン・フンスー。さらに『イングロリアス・バスターズ』のクリストファー・ヴァルツが個性を発揮し、『フォーカス』のマーゴット・ロビーがジェーン役で色を添える。豪華なキャスティングではある。
妻のジェーンとイギリスで裕福に暮らすジョン・クレイトンのもとに、アメリカの特使ジョージ・ワシントン・ウィリアムズの依頼がイギリス政府を通して届く。アフリカのコンゴの実情を探るためにともに行動してほしいというのだ。
クレイトンはコンゴに恨みを買った相手がいたが、故郷に戻りたい気持ちは何よりも強く、彼はコンゴに赴く決心をする。彼はひとりで赴くつもりだったが、ジェーンにとってもコンゴは故郷。強引に旅に同行した。
アフリカ・コンゴの空気、大地に触れたクレイトンは“ターザン”としての野性の血が蘇ってくる。ジェーンも文明生活を送るよりもはるかに生の充実を感じていた。
しかし、この旅は仕組まれたものだった。コンゴのダイヤモンドをはじめとする、天然資源を独占したいベルギー国王レオポルド2世の密命を受けたレオン・ロムが、ターザンに恨みを抱く部族の酋長ムボンガの願いを聞いて、暗躍。ジェーンを拉致してしまった。
クレイトンは完璧にターザンの野生を取り戻し、動物たちと協力して愛妻を奪還しようとした――。
今はすっかり失われてしまった手つかずの密林や大河が画面に焼きつけられるなか、肉体のみを駆使するターザンの雄姿が際立つ。巨大な猿をはじめとする猛獣たちが、ターザンと戦い、ともに躍動する。まさにCGをはじめとする特撮の成果に他ならない。ターザンと猛獣が大画面いっぱいに繰り広げる圧巻のアクションには脱帽あるのみだ。
イェーツは『ハリー・ポッター』シリーズで培ったスペクタクル演出をここでも縦横に発揮してみせる。クライマックスの動物たちの大暴走を頂点に、大猿との戦いなどはケレンたっぷり。ひたすらアフリカ大自然の景観をとらえつつ、ターザンの行動を追いかけていく。見せ場の連続で手に汗を握らせながら、人間的な葛藤に立ち入らないのがいい。ヒーローはあくまで悩まず、行動する資質を貫く。まことターザンというヒーローは行動で事態を切り拓いていく存在だと理解しているのだ。
映画会社は本作をスタイリッシュ・アクションとして喧伝している。密林を疾走するターザンは確かにスタイリッシュかもしれないし、アフリカ大自然をターザンとともに大観させてくれるという意味ではアトラクション型と形容することも可能ではある。ただ、そうした持って回った表現よりも、ひたすら恰好のいいヒーローが全編、走りぬく。潔く惚れ惚れさせるアクション映画といいたい。
出演者では194㎝の長身であるスカルスガルドの肉体美を堪能させればそれでよし。実在のワシントン・ウィリアムズに扮したL・ジャクソンは軽妙さでさらりと演じ、フンスーがムボンガをさらりとみせる。レオン・ロム役のヴァルツは過不足なく悪役の凄味を表現。みごとな熱演というほどではないが、作品にきっちりとメリハリをつけている。
爽快感に溢れた仕上がり。真夏の興行にはターザンが似合う。暑さを乗り切るにはお勧めのエンターテインメントである。