『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』はヒーローたちの倫理観が激突するアクション超大作!

『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』
4月29日(金)より、TOHO シネマズスカラ座他全国ロードショー
配給:ウォルト・ディズニー・スタジオ・ジャパン
©2016Marvel.
公式サイト:http://marvel.disney.co.jp/movie/civilwar.html

 

 アメリカン・コミックの映画化もすっかり定着したアメリカ映画界にあっては、現在、ヒーローたちが揃って出演して妍を競う作品が主流となりつつある。

 先鞭をつけたのはマーベル・コミック。2012年の『アベンジャーズ』は、これまで単独で活動していたアイアンマン、キャプテン・アメリカ、マイティ・ソー、ハルクたちが一堂に介し、邪神ロキと異星人に立ち向かう展開で大ヒットを記録した。さらに2015年の『アベンジャーズ/エイジ・オブ・ウルトロン』では、それぞれの個性の違いを浮き彫りにしながら、暴走する人工知能と戦い、これまた大ヒットを飾った。個々の活躍でも観客動員数を誇ってきたヒーローたちを結集すれば、相乗効果が図れることを証明したわけだ。マーベル・コミックと競いあうDCコミックもこの風潮に乗って『バットマンVSスーパーマン ジャスティスの誕生』を3月に公開するなど、ヒーローたちの競演はさらに拍車がかかった感がある。

 そうした風潮のなかで『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』が公開される。タイトルにキャプテン・アメリカの名がつけられているが、内容的にはアベンジャーズのヒーロー、ヒロインたちが二手に分かれて対決するという展開。正義を貫くという思いは同じでも、それぞれの倫理観の違いが葛藤を生むことになる。

 脚本は、第1作の『キャプテン・アメリカ ザ・ファースト・アベンジャー』からシリーズを手がけるクリストファー・マルクスとスティーヴン・マクフィーリーが担当。コミックシリーズ「シビル・ウォー」をもとに、それぞれのキャラクターの煩悶と葛藤を浮き彫りにしながら、ヒーロー同士の戦いになだれこんでいく。それぞれのキャラクターの思いがきっちりと描きまれているので、ストーリーに説得力が生まれている。

 監督は『キャプテン・アメリカ/ウィンター・ソルジャー』に引き続き、アンソニーとジョーのルッソ兄弟が起用された。凄まじいアクションとスペクタクルで惹きつけながら、ドラマ部分も過不足なく紡ぎだしている。聞けば、2018年と2019年に公開予定の『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー(原題)』PARTⅠとPARTⅡの監督にも決まっているのだとか。マーベル・スタジオの覚えがめでたいのも分かる。ヴィジュアル・インパクトを心得た演出ぶりなのだ。

 出演者はストーリーの設定上、オールスター・キャストになる。キャプテン・アメリカ役のクリス・エヴァンスからはじまって、アイアンマン役のロバート・ダウニーJr.、ブラック・ウィドウ役のスカーレット・ヨハンソン、ウィンター・ソルジャー役のクリスチャン・スタン。ファルコン役のアンソニー・マッキーにウォーマシン役のドン・チードル、ホークアイ役のジェレミー・レナー、ヴィジョン役のポール・ベタニー。まだまだ登場するぞ。スカーレット・ウィッチ役のエリザベス・オルセンとアントマン役のポール・ラッドに加えて、ブラック・パンサー役のチャドウィック・ボーズマン。そしてスパイダーマン役でトム・ホランドがフィーチャーされている。ヒーローだけでこの賑わいなのだが、さらに『蜘蛛女のキス』でアカデミー主演男優賞に輝いたウィリアム・ハート、『天使が消えた街』のダニエル・ブリュール、『ホビット 思いがけない冒険』のマーティン・フリーマンも顔を出す。まことキャスティングだけでも例のない豪華さだ。

 

 人類の危機に立ち向かうアベンジャーズの戦いは輝かしい勝利を収めているものの、一方で意図せぬうちに膨大な人的・物的被害を引き起こしていた。アベンジャーズのやりたいようにやらせると取り返しがつかないことが起きる。世界各国からそうした声が上がり、国際的な政府組織の管理下に置くべきとの決定が下される。

 以前から、任務のために図らずも無辜の人を危機にさらしていることに罪の意識を持っていたアイアンマンはこの決定に賛成する。アベンジャーズの仲間たちを守るためにも、行動の責任を委ね、管理下に置かれる方がいいと考えたのだ。

 キャプテン・アメリカは真っ向から反対する。人間の自由を重んじ、行動の責任は自らが負うべきであり、戦う相手は自らが決めると信じていた。彼はかつて組織に裏切られた経験があり、組織に対して不信感を抱いていた。

 対立が表面化しはじめた頃に、組織のウィーンの本拠地でテロ事件が勃発する。犯人と名指しされたのはキャプテン・アメリカのかつての親友ウィンター・ソルジャーだった。親友の無実を信じるキャプテン・アメリカは真相を探るべく行動を開始する。

 一方、アイアンマンはウィンター・ソルジャーの逮捕に向かう。ここに至ってアベンジャーズは大きく二分される。キャプテン・アメリカについたのはファルコン、ホークアイ、スカーレット・ウィッチ。そしてアントマン。アイアンマン派はウォーマシン、ヴィジョン、ブラック・ウィドウ。そしてテロ事件で父を殺されたブラック・パンサーもアイアンマンたちと行動をともにした。アイアンマンはさらに若きスパイダーマンをスカウトして自らの陣営に入れた。

 テロ事件を契機に、友情を信じて行動するキャプテン・アメリカと、阻もうとするアイアンマンの対立は戦いとなるのは必至だった。だが、テロ事件からアベンジャーズ対立のシナリオを仕組んだ人間がいた。彼はかつてのアベンジャーズの正義を守る戦いに翻弄されたひとりだった――。

 

 ヒーローは何をしても許されるのか、否か。アベンジャーズの対立は現実にも示唆に富んだ命題である。強力なパワーを有する者を世界各国が参加した組織の管理下に置き、各国の同意があって出動する仕組みは、一見、優れてみえるが、組織は腐敗しやすく、誤ったことでも数の論理で推し進めることになりかねない。

 ではキャプテン・アメリカのようなヒーロー原理主義がいいのかといえば、アイアンマンのような繊細で知的な存在にとっては、正義の名のもとで破壊を行なうことに耐えられない。破壊のみならず、意図していない殺戮の責任はどう負うことができるのか。まことスーパーヒーローの活躍するエンターテインメントに、こんな簡単に答の出ない問いかけをすること自体驚きだが、ストーリーは“しでかした行為と報復の連鎖”というシリアスな部分にまで突き進むのだから、製作サイドの姿勢に脱帽したくなる。

 本作を十全に楽しむためには、少なくとも『キャプテン・アメリカ/ウィンター・ソルジャー』と『アベンジャーズ/エイジ・オブ・ウルトロン』は見直した方がいい。本作の登場人物の動機の一端が描かれているからだ。

 それにしても嬉しくなるのは、アベンジャーズの一員となったアントマンとスパイダーマンの戦いぶりだ。それぞれ初参加とあってかなりの見せ場が与えられている。こうした見せ場が随所にありつつ、ヒーロー映画の倫理を問いかけているのだから恐れ入るばかりだ。個性的なヒーローたちが集まっているのだから、意見が分かれるのも当然。要はまとめる明快な動機があるかどうかだ。アベンジャーズのシリーズ、次回作がますますたのしみになってきた。

 

 出演者はいずれもキャラクターの個性をみごとに演じきっている。聞けば『スパイダーマン』の新作はここに登場するホランド主演で製作されるという。その新作にはダウニーjr.もアイアンマン役で出るというから楽しみだ。それにしてもスーパーヒーローたちの競演が嬉しい限り。昔の東映時代劇のオールスター映画に似て、それぞれの持ち味をきっちりとみせてくれる。

 

 豪華絢爛。ヒーローたちの活躍を堪能できる仕上がり。GWにふさわしいアクション超大作である。