『ペンギン・レッスン』はP・カッタネオが紡ぐ、心温まる再生のストーリー。

『ペンギン・レッスン』
12月5日(金)より、新宿ピカデリー、TOHOシネマズ シャンテほか全国ロードショー
配給:ロングライド
©2024 NOSTROMO PRODUCTION STUDIOS S.L; NOSTROMO PICTURES CANARIAS S.L; PENGUIN LESSONS, LTD. ALL RIGHTS RESERVED.
公式サイト:https://longride.jp/lineup/penguin/

 犬や猫が人間の友であることは論を待たないが、どんな動物でも共に暮らせば友になりうるかと問われると、ちょっと考えてしまう。それでも一緒に暮らしていれば、爬虫類だろうと鳥類だろうと情が移るのは事実。離れがたくなるのは間違いない。

 本作は世界22か国で刊行されたトム・ミッシェルの実話「人生を変えてくれたペンギン 海辺で君を見つけた日」の映画化である。対象となるのはペンギン。まずもって、ペンギンはペットになるのかという疑問も湧くが、話の舞台がアルゼンチンとなると納得するしかない。軍事政権下のアルゼンチンを舞台にシニカルな英国中年教師と死にかけたペンギンとの絆の物語だ。

 脚本は『あなたを抱きしめる日まで』のジェフ・ポープ。ポープはジャーナリストから映像業界に入り、テレビのプロデューサーとなり脚本も手掛けるようになった。動物を肴にヒューマニスム溢れる人間賛歌に仕上げるあたりはみごとなものである。

 この脚本をもとに心に刺さるドラマに仕上げたのは、ピーター・カッタネオ。世界的なヒットを飾った『フルモンティ』で一躍有名になり、以降も『ラッキー・ブレイク』(2001)や『ボビーとディンガン』(2005)、『ROCKER 40歳のロック・デビュー』4(2008)に『シング・ア・ソング!~笑顔を咲かす歌声~』(2019)といった心温まるコメディを発表。日本での公開作品は少ないが、映画、テレビシリーズと、コンスタントに作品を発表してきた。本作は2024年のトロント国際映画祭で上映されるや話題を集め、各国でヒットを記録した。カッタネオの円熟の人間描写、ユーモアがひさかたぶりに話題を集めることになった。

 主演のスティーヴ・クーガンはイギリス・マンチェスター出身のコメディアン。ラジオ番組、テレビで人気を博し、『リトル・ヒーロー』で映画デビュー。2002 年にマイケル・ウィンターボトムの『24 アワー・パーティ・ピープル』で広く認知された。『80デイズ』(2004)ではジャッキー・チェンと共演し、『ナイト ミュージアム』シリーズ、『ホットファズ 俺たちスーパーポリスメン』などに加えて、『ペット』や『怪盗グルー』シリーズの声の出演など、幅広く活動を繰り広げてきた。

 なかでも本人のキャラクターで掛け合うグルメ・テレビシリーズ、「スティーヴとロブのグルメトリップ」は人気を博し劇場版を製作。さらに『イタリアは呼んでいる』と『スペインは呼んでいる』という映画版も生まれている。

 人はいいのに、シニカルなユーモアとウィットで相手を煙に巻くキャラクターはまさに適役といっていい。

 共演は『未来世紀ブラジル』のジョナサン・プライス、アルゼンチン系スペイン女優、ヴィヴィアン・エル・ジャバー、ウルグアイ出身のアルフォンシーナ・カロシオが務めている。絶妙のキャスティングだ。

 人生に行き詰まっていた英国人のトムはアルゼンチン・ブエノスアイレスの名門寄宿学校の英語教師として赴任する。

 教える意欲もないまま過ごしていると、軍事クーデターが勃発。休校を利用してウルグアイに同僚と出かける。

 バーで知り合った女性にいい顔をするために、重油まみれのペンギンを助ける羽目になるがペンギンは、彼から離れなくなる。

 仕方なく学校に連れ帰ったペンギンとトムの奇妙な同居生活が始まる。ペンギンは生徒たちの関心を呼び、やがて頑なだった彼自身の心をほぐしていく。

 だが、軍事政権下のアルゼンチンの恐怖は彼の近くにまで及んできた――。

 スティーヴ・クーガンのキャラクターが存分に活かされ、挫折した中年男のペーソスが立ち上り、人間的に再生していく姿が細やかに浮かび上がる。ピーター・カッタネオの分かりやすい語り口、クーガンの個性がみごとなコラボレーションをみせている。決して明るくはなかった時代を背景に、挫折男の再生をくっきりと描く。カッタネオの演出は健在である。

 それにしてもペンギンの演じぶりに舌を巻く。ひょこひょこと登場するだけで微笑ましいのだが、容姿で画面をきっちりさらってしまうのだから恐れ入る。撮影現場では苦労したのだろうが、まるで人間的な感情を持っているかのようにふるまう。人間は敵わない。

 ピーター・カッタネオの健在ぶりを確信できる人間賛歌。スティーヴ・クーガンの持ち味が横溢していて心に沁みる。タイトルに惑わされず、一見をお勧めしたい。