『ワン・バトル・アフター・アナザー』はP・T・アンダーソンの疾走感に溢れた痛快逃走アクション!

『ワン・バトル・アフター・アナザー』
10月3日(金)よりTOHOシネマズ日比谷、丸の内ピカデリー、198シネマズプレミアム新宿、新宿バルト9ほか全国公開
配給:ワーナー・ブラザース映画
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公式サイト:https://wwws.warnerbros.co.jp/onebattlemovie/

 アメリカ映画界で最も意欲的な作品を生み出す存在といえば、ポール・トーマス・アンダーソンの名を挙げたくなる。

 1996年の『ハードエイト』で長編映画監督デビューを果たし、続く『ブギーナイツ』で絶賛を浴びる。以後『マグノリア』(1999)でベルリン国際映画祭金熊賞受賞。『パンチドランク・ラブ』(2002)ではカンヌ国際映画祭監督賞、5作目の『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』(2007)ではベルリン国際映画祭監督賞に輝き、主演のダニエル・デイ=ルイスにアカデミー主演男優賞をもたらした。

 さらに2012年の『ザ・マスター』ではベネチア国際映画祭監督賞を獲得し、『インヒアレント・ヴァイス』(2014)、『ファントム・スレッド』(2017)を発表。2021年には『リコリス・ピザ』で変わらぬ活き活きとした演出力を披露した。

 決して多作ではないが、送り出す作品が常に話題の的にある稀有な存在。世界三大国際映画祭で監督賞に輝いたのだから舌を巻く以外ない。

 前作から3年の月日を経て新作の登場になるわけだが、本作もさまざまな仕掛けが施されていて、グイグイと惹きこまれる。まずもって本作の注目は豪華なキャスティングにある。レオナルド・ディカプリオ、ショーン・ペン、そしてベニチオ・デル・トロという、三大演技派が一堂に介したのだ。それほどアンダーソンが尊敬されている証である。長年、アンダーソン作に出演することを熱望してきたディカプリオ、アンダーソンとは友人関係にあったペン、デル・トロもアンダーソン作品だから無条件であったとコメントしている。

 アンダーソンは当初、カーアクションを撮りたいと考えていたという。その頃にアメリカの文豪、トマス・ピンチョンの小説「ヴァインランド」にも出会った。これらの要素を翻案して脚色したのが本作ということになる。いつものようにアンダーソン自身が脚本を書き上げている。

 移民問題、差別主義も反対し、過激な活動で政府に反抗する一団がいる。さまざまなテロ活動を繰り広げる中心的な存在がペルフィディア。その恋人パット(ディカプリオ)は彼女に引っ張られて参加している。

 数々のテロ活動を引き起こしたなかで、ペルフィディアが軍人のロックジョー(ペン)と出会った(!)ことが大きな変化をもたらす。

 ロックジョーは過激派の殲滅に尽力し、一団は壊滅的な被害に遭う。出産したばかりのペルフィディアの子を抱いて、パットは逃げる。

 16年後、パットはボブと名を変えて、娘ウィラとひっそりと暮らしている。目立たないように日々を送り、マリファナ漬け。テレビの『アルジェの戦い』に燃える程度の自堕落な時間を過ごしていた。

 だが、ロックジョーは忘れたわけではなかった。白人至上主義の秘密組織に入るために、気になる過去の一掃に乗り出す。

 やがて官憲の手が伸びてきたことに気づき、ボブはウィラに急を知らせようとするが、混乱の極み。ウィラが習っていた武術のセンセイ(デル・トロ)の助けを借りたボブは懸命に娘の救出に臨むが事態はさらに捻じれていった――。

 162分の上映時間の間、いささかも間延びすることもない。次々と用意される趣向に翻弄されて、惹きこまれるばかり。登場するキャラクターの造形の巧みさ、演じる俳優たちの素敵な表現力にただもう唸らされる。

 前作『リゴリス・ピザ』の軽味は本作でも健在で、すいすいとストーリーを紡いでいく。クライマックスに圧巻のカーチェイスが用意されているし、ユーモアもそこかしこににじみ出ている。アメリカの分断は今に始まったことではないことや、それに反逆する人々が今もいること。同じように白人至上主義が強大なことをさりげなく伝える。基本はエンターテインメントに徹し、父と娘の絆に収斂されている顔をしつつ、ここにあるアメリカへの風刺は強烈である。

 だらしのない父親を無様に演じるディカプリオ、サディスティックなのに滑稽さを漂わせるペン、漫画チックなセンセイ役のデル・トロがいちばん颯爽としている。

 ファム・ファタル役ペルフィディアに扮したのが歌手、ソングライターのテヤナ・テイラー、娘には本作が長編デビューとなるチェイス・インフィニティなど多彩な顔ぶれも映画の魅力をさらに高めている。

 本作の性格上、ロケーション重視。さまざまな地域の風景を浮かび上がらせることで、アメリカの今を見る者に染み込ませる。本作の撮影をビスタビジョンで行なった理由も分かるというものだ。2025年屈指の作品である。