『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』はシリーズのツボを突いた、ヒット間違いなしの快作!

『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』
12月18日(金)18時30分より、全国一斉公開。
配給:ウォルト・ディズニー・スタジオ・ジャパン
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公式サイト:http://www.disney.co.jp/movie/force.html

 

 1978年、テアトル東京で初めて『スター・ウォーズ』(後に全9作からなる構想が浮上し“エピソードⅣ A NEW HOPE”の位置付けとなった)をみた。本国での公開は1977年で日本公開までに1年もあり、雑誌やニュースを通して多くの情報が流入。否が応でも期待が膨らんだのを覚えている。
『スター・ウォーズ』の世界的ヒットはジョージ・ルーカスにシリーズ化を決断させると同時に、SF映画に新たな可能性を拓くことにもなった。当初、ルーカスの構想では9作品だったが、6作品に変更され、2005年の『スター・ウォーズ エピソード3/シスの復讐』で完結した(特別篇や3D版などもつくられ、TVシリーズも登場した)。
 シリーズ復活を待望する声もあるなか、2012年にウォルト・ディズニー・カンパニーが、ジョージ・ルーカスが設立したルーカスフィルムを買収すると同時に、『スター・ウォーズ』の権利も取得。新作の製作を開始した。『スター・ウォーズ』シリーズの大ファンだと公言する、『M:i:III』などで知られるJ・J・エイブラムスに製作、脚本、監督が任され、『リトル・ミス・サンシャイン』のマイケル・アーント、『スター・ウォーズ/帝国の逆襲』と『スター・ウォーズ/ジェダイの復讐』を手がけ、監督としても名高いローレンス・カスダンとともに脚本を構築していった。ルーカスの名は“キャラクター創造”のクレジットに留められた。

 かくして秘密裏に製作され、さまざまな憶測が飛び交った本作が全世界一斉に公開となった。アメリカではオープニングの週末だけで2億3800万ドルのヒットを記録し、日本でも多くのシネマコンプレックスのスクリーンを独占し、この正月最大のイヴェント映画として驚異的な数字を上げるのは間違いがない。
 昔からのファンはシリーズの面白さ、個性が消え去っていないか不安視していたが、さすがにエイブラムスはファンというだけあって、徹底的にシリーズを分析。ファンの気持ちをくすぐる部分を抽出しながら、新たなストーリーを構築している。なによりの注目点は少女をメインキャラクターに据えていること。さらに相手役としてアフリカ系の俳優を起用するなど、現在の常識に調整しつつ、シリーズの人気キャラクターを交えるという賢い戦略で貫く。エイブラムスは『スター・ウォーズ』から『スター・ウォーズ/ジェダイの復讐』までの初期3部作の世界を念頭に置いた“原点回帰”を図りつつ、新たなストーリーで勝負。ただ、シリーズを貫くモチーフ“家族の物語”は踏襲している。

『スター・ウォーズ/ジェダイの復讐』から30年後。銀河帝国軍の残党が“ファースト・オーダー”を結成、レイア・オーガナ率いるレジスタンスを相手に激しい戦いを演じていた。
 砂漠の惑星ジャクーを訪れたレジスタンスのパイロット、ポー・ダメロンは、ダースベイダーをほうふつとするカイロ・レンが率いるファースト・オーダー軍の急襲を受ける。ダメロンは、アストロメク・ドロイドのBB‐8にルーク・スカイウォーカーの居場所を記した地図を託した後に、捕えられる。
 ファースト・オーダー軍は村を焼き払い、人々を皆殺しにした。そのなかでひとり、良心に苛まれるストームトルーパーは、やがてダメロンを助けて、ふたりでジャクーに向かう。ダメロンはストームトルーパーの数字の呼び名から、彼をフィンと名づけた。だが、ジャクーでダメロンは消え、フィンは取り残される。
 一方、ジャクーで廃品回収をしている少女レイはBB‐8を救出。行動をともにするようになる。しかしBB‐8を捕獲するようにとの情報が拡散され、レイが危機に陥ったとき、フィンと出会う。ふたりはあわてて古ぼけたミレニアム・ファルコン号に逃げ込む。
 ここから、ふたりはハン・ソロとチューバッカ、レイアと出会い、カイロ・レンの正体を明らかにするとともに、ルーク・スカイウォーカーのもとに導かれる――。

 全編、息つく暇もなく映像に翻弄される。冒頭の宇宙空間に文字が流れるシーンにはじまり、宇宙のなかの宇宙船の登場の仕方から、砂漠の惑星まで、初期のシリーズに入れ込んだ人たちには感涙ものの引用がなされている。ただ、単に昔の要素を挿入したというだけではなく、その要素自体がちゃんとストーリーやキャラクターと繋がっているのだ。エイブラムスのシリーズに対する思いと新しいストーリー世界をつくるという意思がきっちりと融合している。
 ルーカスが『スター・ウォーズ』をつくった1977年と、SF作品がてんこ盛りで、あらゆるアイデアが出尽くした現在では状況がまったく異なる。その点からいってもエイブラムスはみごとな手腕を発揮していると思う。なによりも見せ場とドラマ部門、スペクタクルのヴァランスが素晴らしくいい。テレビや数々のヒット作で磨きあげた語り口で惜しげもなく謎を明らかにしながら、次に新たな謎を用意してみる者を惹きこむ。
 あえていうなら、観客を面白がらせるためには手段を選んでいないのだ。観客の見たがっている趣向を取り入れながら、さらに上回る驚きを用意してくれている。一例をあげれば、ハン・ソロとチューバッカがここまで活躍するとは思っていなかった……。
 エイブラムスの演出はスピーディでよどみがない。それゆえに軽すぎるとの批判も生まれてきそうだが、万人の喜ぶエンターテインメントをつくろうとする姿勢は評価されていい。なによりも超ヒットを宿命づけられたなかでの、この健闘は大いに称えられるべきだろう。

 出演者ではレイを演じたデイジー・リドリーが、ナウシカをはじめとする宮崎駿アニメーションの凛としたヒロインを想起させる。アクションの動きのしなやかさもいい。本作から3部作となるわけで、彼女が世界的な人気を獲得するのは確実である。
 またフィン役のジョン・ボイエガは『アタック・ザ・ブロック』の主演で注目された、親しみやすい容姿が特徴だ。
さらにダメロンには『インサイド・ルーウィン・デイヴィス 名もなき男の歌』のオスカー・アイザック。カイロ・レンにはテレビシリーズ「GIRLS/ガールズ」で人気を博し、マーチン・スコセッシの『サイレンス』が待機するアダム・ドライバーなど個性派が揃っている。
 もちろん、ハン・ソロ役でハリソン・フォードが暴れまわるし、キャリー・フィッシャー演じるレイア・オーガナも貫禄をつけて登場。マーク・ハミルもふくみを持たせた登場ぶりで、シリーズの興味を引っ張る。BB‐8の可愛さはストーリーの進行とともに際立ってくるし、懐かしのR2-D2もC3POもちゃんと健在ぶりを示してくれる。

 今年の正月映画のなかで最大、最強の作品。何はともあれ一見をお勧めしたい。たとえ『スター・ウォーズ』シリーズを知らなくても、楽しめる。