『ジュラシック・ワールド』は映画の原点に立ち戻って、ひたすら驚かせ、興奮させるパニック・アクション!

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『ジュラシック・ワールド』
8月5日(水)より、TOHOシネマズ 日劇ほか全国ロードショー
配給:東宝東和
© Chuck Zlotnick / Universal Pictures and Amblin Entertainment
公式サイト:http://www.jurassicworld.jp/

 

 マイケル・クライトンの原作小説をもとに、スティーヴン・スピルバーグが映画化した『ジュラシック・パーク』は、1993年に公開されて世界的なヒットを飾った。恐竜を遺伝子工学で蘇らせるというアイデアの妙とあいまって、たちまちシリーズ化が決定。1997年に同じくスピルバーグ監督が『ロスト・ワールド/ジュラシック・パーク』を手がけ、2001年にはジョー・ジョンストンにバトンタッチされて『ジュラシック・パークⅢ』が生まれた。

 本作は14年の歳月を経て登場した第4弾ということになる。かなり期間が空いた印象だが、スピルバーグとしては第3弾から間をおかずに製作したかったらしい。監督はジョー・ジョンストンを起用する予定だったというが、紆余曲折あって、製作開始に至らなかった。その間に、シリーズを織りなした俳優、リチャード・アッテンボローは他界し、サム・ニールやジェフ・ゴールドブラムの出演も困難になった。
 だが、期間が空いたことがむしろ興行的には正解だった。この手のパニック・アクションの数が少なくなったタイミングで公開できたことと、3D技術が進歩したことが追い風となった。アメリカでは6月12日に公開されるや、7月27日現在で6億2,500万ドル超の興行収入を挙げ、各国でも大ヒット。世界興行収入9億1848万ドル超を稼ぎ出し、トータル15億4348万ドルとなって、『アバター』、『タイタニック』に続き、歴代映画興行収入ランキング3位に躍り出たのだ。
 もちろん、超ヒットはタイミングだけの問題ではない。スピルバーグの指示のもと、有能なスタッフが選りすぐられ、理屈抜きに楽しめる、活きのいい仕上がりとなっている。
 製作に『生きてこそ』の監督としても知られるベテラン、フランク・マーシャルを配し、監督には『彼女はパートタイムトラベラー』の新鋭、コリン・トレヴォロウを抜擢した。トレヴォロウは、ネット配信映画の先駆者で、『彼女はパートタイムトラベラー』がサンダンス映画祭で評価されたことが起用につながったという。
 原案・脚色には『猿の惑星:創世記(ジェネシス)』を手がけたリック・ジャッファとアマンダ・シルヴァー。この脚本にトレヴォロウと、コメディ番組「サタデー・ナイト・ライブ」に関わって以来、トレヴォロウがチームを組んでいる脚本家デレク・コノリーが手を加えて、映像化が実現した。
 これまでのシリーズの流れを踏まえつつ、コスタリカ沖に恐竜のテーマパークが造られたという設定のもとで、一気呵成に恐竜との攻防が綴られていく。なによりもVFXやCGをはじめとする特撮技術を駆使しながら、トレヴォロウがテンポよく演出。“逃げる、追いかける”を軸にしたサスペンスで貫き、スリル満点の映像を生み出している。
 出演は『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』で注目されたクリス・プラットに『レディ・イン・ザ・ウォーター』のブライス・ダラス・ハワード。これにテレビシリーズ「LAW & ORDER クリミナル・インテント」で再注目されたヴィンセント・ドノフリオ、フランス映画『最強のふたり』でアメリカ進出を果たしたオマール・シー、『ジュラシック・パーク』に顔を出していた中国系のB・D・ウォン、『めぐり遭わせのお弁当』などで知られるインドの名優イルファン・カーンまで、まさにヴァラエティに富んだキャスティングが組まれている。

 コスタリカ沖にオープンしたテーマパーク“ジュラシック・ワールド”は、連日多くの観光客でにぎわっていた。
 パークの監督官クレアは業務に忙殺されて、来園したふたりの甥の面倒をみることができず、部下に任せきりにする。新たなアトラクションの目玉として、遺伝子操作で生み出したティラノサウルスよりもはるかに凶暴で賢い新種の恐竜、インドミナス・レックスのお披露目の準備で忙しかったからだ。
 ヴェロキラトプルを飼育している動物行動学の専門家オーウェンは安易に新種の恐竜をつくりだすパークの経営方針に警鐘を鳴らしていたが、彼の恐れが現実化する。インドミナス・レックスが檻を突き破り、誰かれ構わず襲い始めたのだ。逃げまどう人々にパニックを起こした恐竜たちが襲いかかり、パーク内は阿鼻叫喚状態。さらに混乱は広がる。
 クレアの甥ふたりは警告放送の直前にアトラクションに乗ったために、パーク内に取り残されてしまった。クレアとオーウェンは救出に向かうが、インドミナス・レックスの攻撃は熾烈を極めた――。

 遺伝子工学で恐竜を生み出すという発想自体がクレイジーではあるが、考えてみれば科学者は常に後先を考えずに実験に踏み出し、さらに企業化が進むなかで、結果に対して決して責任をとらない。核の利用などその好例である。ここで描きだされる恐竜たちはまさに寓話に他ならない。生み出した怪物に収拾がつかず“想定外”のひとことで言い逃れる人間たち、さらに恐竜を兵器として、軍事利用しようとする輩まで登場するのだ。
 もちろん、展開はあくまでパニックシーンで楽しませるエンターテインメントではあるのだが、さりげなくそうしたメッセージも内包させている点を評価したくなる。トレヴォロウの語り口はストーリーの進行とともに、加速度的に勢いを増していく。問答無用の潔さで、恐竜たちの迫力で押し切ってみせる。
 動物行動学者オーウェンをヒーローにしながら、とことんインドミナ・レックスに暴れさせるのだ。さらにクライマックスはヴェロキラトプルも凄味を披露するのだから、迫力満点。登場する恐竜たちの姿をみるだけでも、充分に楽しい。3D映像を存分に堪能することができる。

 出演者ではオーウェン役のプラットはタフなヒーローをさらりとみせるし、クレアに扮したダラス・ハワードもユーモラスにキャリアウーマンを表現している。ドノフリオやシー、ウォン、カーンなどは、肩の力の抜けた演技を披露。もう少し見せ場が欲しかった気もするが、あくまでも主人公は恐竜たちだから、致し方ないか。

 ジェットコースターのように、とことん痛快にラストまで走りきる。まさしく夏にふさわしい作品だ。