『リベンジ・オブ・ザ・グリーン・ドラゴン』は、凄味に満ちたリアルなクライム・ドラマ!

リベンジ・オブ・ザ・グリーン・ドラゴン メイン
『リベンジ・オブ・ザ・グリーン・ドラゴン』
5月1日(金)より、新宿武蔵野館ほか全国ロードショー
配給:AMGエンタテインメント / 武蔵野エンタテインメント
©2014 ROTGD Productions, LLC. All Rights Reserved.
公式サイト:http://www.greendragon.jp/

 

 2006年に公開された『ディパーテッド』はアカデミー賞6部門にノミネートされ、作品賞、脚色賞、編集賞に加えて、マーティン・スコセッシに悲願の監督賞をもたらした。6度目のノミネートでの受賞だ。ご承知のように『ディパーテッド』は日本でもヒットを記録した香港映画『インファナル・アフェア』のリメイクである。スコセッシにしてみれば、受賞作がオリジナルでなかったことに、いささか複雑な思いを抱いたに違いない。
 それはともかく、『インファナル・アフェア』3部作を手がけたアンドリュー・ラウとスコセッシのつながりはここにはじまり、ラウの監督作に製作総指揮を引き受けてサポートするのは自然な流れだったろう。しかも内容も、1980年代のニューヨークにおける中華系ギャングの抗争の叙事詩。スコセッシが手を差し伸べやすい題材といえる。
 1992年に“ニューヨーカー”誌に掲載された実話をもとに、『夢の旅路』のマイケル・ディ・ジャコモと『パティシエの恋』のアンドリュー・ローが脚色。この企画にラウが加わって映画化が実現することになった。ラウとローは、ラウのハリウッド進出作品『消えた天使』の製作にローが参加するなどしたことからつながりがあり、アメリカ生まれで全米監督協会の一員であるローと、ラウが共同で監督するかたちとなった。
 ラウとローはスウェーデン出身の撮影監督マーティン・アールグレンの荒々しくドキュメンタルなセンスを活かし、1980年代のニューヨーク・クイーンズの雑然とした雰囲気を再現。中華系ギャングの険呑な生き方をくっきりと浮かび上がらせる。アールグレンはテレビシリーズ「ハウス・オブ・カード」に参加し、日本では『エミネム DA HIP HOP WITCH』(未公開)が紹介されている。危険な香りが横溢する街の雰囲気が画面を通して伝わってくるようだ。
 キャスティングにあたっては、香港系の俳優をあえて起用せず、アジア系アメリカ人を選りすぐることになった。ラウが移民の匂いをもった存在で映像化したいと主張したためだ。『トワイライト~初恋~』のジャスティン・チョンを主役に抜擢したのをはじめ、テレビシリーズ「Gree」のシーズン3、4に出演したハリー・シャム・ジュニア、作家や監督の貌をもつケヴィン・ウー、ファッションモデルとして活動していたシューヤ・チャンなどを選び出した。加えてスコセッシの『グッドフェローズ』が忘れ難いレイ・リオッタが刑事役で顔を出している。

 不法移民が急増したアメリカは1980年代に移民改革統制法を成立させるが、かえって密入国ブローカーを暗躍させる結果となった。クイーンズで中華系の密入国を仕切るスネークヘッド(蛇頭)は、独裁者のように中華社会を差配していた。
 密入国中に孤児になってしまったサニーは、蛇頭の命令で同年齢のスティーヴンの母親に預けられる。
 ふたりはクイーンズの無法地帯のなかで生きのびる術を身につけていく。やがて彼らは地元のギャング“グリーン・ドラゴン”にスカウトされる。ボスのポールは彼らにアメリカで生きるための掟をたたきこむ。同じ中華系との抗争で犯してはならないのは“白人を事件に巻き込まない”こと。地元の警察は白人が絡んだ事件以外は決して動かない。“グリーン・ドラゴン“は5つの中華系組織と抗争を繰り広げていた。
 サニーは能力が認められ、組織の幹部になるが、スティーヴンは武闘派の道をひた走っていた。サニーは香港から来たポールの知人の娘ティナと出会い、恋に落ちる。
 だが、警察にも中華系ギャングの動向を追い続ける刑事、ブルームがいた。他の警官たちが顧みもしない抗争に目を向け、その危険性を訴えていた。
 サニーの状況が大きく変わったのは、ティナが父を救うためある事件の証言をしようとしたことからだった。組織から狙われるティナのために、サニーは裏社会に背く行動をとらなければならなくなる――。

 アメリカは多民族国家であるがゆえに、民族同士でまとまり、ひとつの社会を構成していく。20世紀に新天地を夢見て移民しても、残されている仕事はほとんどなく、裏社会で生きのびることになる。イタリア系、ヒスパニック系しかり、中国系も例外ではない。アメリカ政府は移民改革統制法によって、状況を改善しようとしたが、かえって移民たちは地下に潜る結果となった。こうした社会の空気のなかで、生きのびるためのハードボイルドな戦いが演じられていく。
 ラウとローはドライな語り口に徹し、アメリカの別な貌を浮き彫りにする。白人たち(あるいは先に来た人種)のアジア人種に対する抜きがたい差別意識だ。ここで生き抜くためには徒党を組み、自分たちで地歩を築くしかない。中華系ギャングは白人の差別意識を利用しながら抗争を繰り返し、大きな勢力となっていく。
 ふたりの監督は、緊張感に満ちた激しい暴力シーンもふくめ、どこまでもリアルにサニーの軌跡を綴る。その乾いた映像には、アメリカ人監督とは一味違う過酷さが滲み出ている。スタイリッシュでドキュメンタル、描写はどこまでも荒々しいが、心に残る青春成長物語である。

 出演者はなるほどキャラクターに合わせて選んだだけあって、移民の心情をみごとに体現している。ギャングという常識やモラルのタガが外れた世界に足を踏み入れたとたんに、少年たちの鬱積した思いが凄まじい暴力になって発散されるあたりが、迫真力を持って体現されているのだ。サニー役のジャスティン・チョン、スティーヴン役のケヴィン・ウー、ポール役のハリー・シャム・ジュニアをふくめ、ギャングに扮した俳優たちはいずれも、何をするかわからない危なさを画面に焼き付けている。
 加えて、白人の代表としてブルームに扮したレイ・リオッタがいる。いかにもうだつの上がらなさそうな刑事役はまさにぴったりだ。

 迫力と緊張感に貫かれたクライム・ドラマ。決して華やかではないが、パワフルで真実見に満ちた成長物語である。