『そして彼女たちは』はベルギーの匠ダルデンヌ兄弟による少女たちの繊細な人生群像ドラマ。

『そして彼女たちは』
3月27日(金)よりBunkamuraル・シネマ渋谷宮下、ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほか全国順次ロードショー
配給:ビターズ・エンド
ⓒLes Films du Fleuve – Archipel 35 – The Reunion – France 2 Cinéma – Be Tv & Orange – Proximus – RTBF (Télévision belge) / PhotoⓒChristine Plenus
公式サイト:www.bitters.co.jp/youngmothers/

 ジャン=ピエールとリュックのダルデンヌ兄弟は、『イゴールの約束』や『ロゼッタ』などでカンヌ国際映画祭をはじめ各国の映画祭で高い評価を受けている巨匠である。ベルギーの庶民たち――労働者階級、移民たちの少年、少女に目を向けて作品を撮り続けている。1974年にドキュメンタリーを手がけて以来、その作風は今に至るまで変わっていない。ベルギーはヨーロッパの中央部に位置するだけに、時代の変遷とともに抑圧される人々は移民が多くなってきたが、弱者に目を向けるダルデンヌ兄弟の姿勢は一貫している。

 2025年に発表された本作は第78回カンヌ国際映画祭において脚本賞とエキュメニカル審査員賞に輝いた。

 これまでの兄弟の監督作品と異なるのは、初めて5人の少女を主人公にした群像ドラマに仕立てたことだろう。対象となるのは、若くして妊娠してしまった女性たち。支援する施設に保護されて暮らす彼女たちが、母になるということに直面し、孤独と葛藤のなかで日々を送る。ダルデンヌ兄弟は彼女たちに寄り添い、彼女たちの孤独と混乱を浮き彫りにしつつその行く末を見守る。今回群像ドラマ形式にしたのは、それだけ貧困と病巣が多様化しているからだろう。兄弟にとっては初めて5人の主人公を設定することに躊躇はあったというが、それぞれのストーリーがハーモナイズされてひとつの大きな流れに結実。彼らの試みは前述の受賞にうかがえるように、見事に成功している。

 まるでドキュメンタリーのような展開だが、演じるキャラクターはみごとに状況に溶け込んでいる。バベット・ヴェルベーク、エルザ・ウーベン、ジャナイナ・アロワ・フォカン、リュシー・ラリュエル、サミア・イルミをはじめとする出演者はいずれも2000年代の生まれで、それぞれショービジネスの世界の経験があるという。

 さまざまな理由で妊娠、出産、育児のサポートが必要な女性たちを支援する組織がある。

 ジェシカは自分を捨てた母に対して微妙な感情を抱いている。自分が妊娠してからは母を求める気持ちは人一倍だが、母はそれに応えてくれない。

 ぺルラは子供の父親が少年院から出所するのを出迎えるが、父親としての自覚のない彼に置き去りにされる。

 出産したマリアンヌは孫を歓迎する母親に対して、あえて養子に出すことを宣言する。

 ナイマは施設の卒業パーティ席上でひとり親として子供を育てることを宣言する。

 ジュリーはスタッフのサポートとパートナーに保護されながら子供を託児所に預けるが、お迎えを忘れてパニックに陥る――。

 それぞれが親になることと葛藤し、それぞれが結論に達する。サポートする施設がいかに充実していようとも、彼女たちが自覚し、成長することが真の意味で“母”になることだ。

 ダルデンヌ兄弟は現実の過酷さを映像に滲ませながらも、5人を見つめ、彼女たちを優しく包み込む。無駄のない描写のなかに、少女たちが成長する姿を映し出していく。親になる選択、ならない選択のどちらかを選ばねばならない。彼女たちにとっては辛い選択を迫られるわけだが、いずれにせよ初めて直面する“自らの選択”。彼女たちの軌跡をダルデンヌ兄弟は誠実に映像化している。状況的には過酷な境遇に身を置いているのだが、彼女たちが自分の意志で選択をすることによる救いがある。少女たちのそれぞれの選択は、ダルデンヌ兄弟の誠実な演出によって、ある種の潔ささえ感じさせる。

 愛の在りようを知るには、格好の作品。ダルデンヌ兄弟の変わらずに弱者を見つめる作風に拍手を送りたくなる。