昨今のようにアメリカン・コミックを原作にした実写映画が次から次へと劇場公開されるようになると、もはやSFX満載の“ありえない”3D映像など珍しくもない。
コミックにさほど愛着のない人たちには、よほど際立った個性がアピールされないと、注目もされなくなった。そうした状況は成人漫画から少年・少女漫画の映画化を量産している日本も変わっていない。認知度が高く、若い観客層を狙った素材に偏るのは映画界の常。それぞれの作品の個性を映画ファンにどのように浸透させるか――これが映画各社の命題となっている。
だが、アメリカン・コミックの雄、マーベル・スタジオはこの状況をものともせずに、作品を量産し続けている。マーベルのコミックが世界的に知られ、支持されていることを背景に、スーパーヒーローの個性を明確にした上で作品に応じたスタッフ、キャスティングで勝負する。
一筋縄ではいかないヒーローを前面に押し出したロバート・ダウニーJr.主演の『アイアンマン』シリーズや、シェークスピア的兄弟の相克に貫かれた『マイティ・ソー』シリーズ、過去から蘇って自らのアイデンティティの確立に悩む『キャプテン・アメリカ』シリーズまで、どれもがヒネリを加えられ、映画としての面白さが追求されている。
しかもそれぞれのキャラクターが一堂に介した『アベンジャーズ』までシリーズ化されているのだから驚く。いずれも全米のみならず、各作品とも世界的にヒットを飾っているのだから、彼らの戦略の冴えに脱帽するしかない。
そうしたマーベル・スタジオが、今夏、自信を持って送り出したのが本作だ。目論見通り、大ヒットを記録した自社製作の『キャプテン・アメリカ/ウィンター・ソルジャー』を抜いて、現時点で2014年のナンバーワン・ヒットとなった。
それほど熱狂的支持を受けた理由は明快だ。宇宙を舞台に、個性豊かな容姿のスーパーヒーローたちがチームを組んで暴れまくる展開ながら、どこまでも痛快。ギャグもふんだんで泣かせ所もあり、スケール壮大にして見せ場に事欠かない。さらに随所に音楽の“小癪なツボ”を散りばめて、飽きさせない。軽快に最後まで疾走する趣向に思わず拍手を送りたくなる仕上がりだ。
監督はSFホラー・コメディ『スリザー』でデビューを飾り、アクション・コメディ『スーパー!』で個性を発揮したジェームズ・ガン。脚色はアメリカ映画界でもっとも嘱望されている脚本家二コール・パールマンとガン本人が行なっている。
主演はテレビドラマ「エバーウッド 遥かなるコロラド」で知られるクリス・プラットに『コロンビアーナ』のゾーイ・サルタナ。WWEでチャンピオンになったことのあるプロレスラー出身のデイヴ・バウティスタ。さらに声の出演で『世界にひとつのプレイブック』でアカデミー主演男優賞にノミネートされたブラッドリー・クーパー、『ワイルド・スピード』シリーズのヴィン・ディーゼルが加わる。
しかも脇には、テレビシリーズ「ダメージ」のイメージが鮮烈な演技派女優グレン・クローズに、『シカゴ』をはじめ多彩な作品歴を誇るジョン・C・ライリー。『トラフィック』でアカデミー助演男優賞に輝いたベニチオ・デル・トロまでが顔を出す。本当の意味で贅沢なつくり、心ゆくまで楽しめる。
9歳の少年、ピーター・クイルは、病の母を亡くしたショックのあまり外に飛び出すと、突然、宇宙船が現れ、彼を拉致してしまう。
それから20年、ピーターは“スターロード”と名乗り、宇宙を股にかけるトレジャーハンターになっていた。悪知恵と度胸を武器にする彼だが、母の形見のウォークマンと母が選曲した名曲テープだけは手放さない。
そんなピーターがふとしたことで、銀河を滅亡させるだけの力を秘めたパワーストーンの入った球体オーブを手に入れる。そのパワーストーンは銀河支配を企てる“闇の存在”が狙っていた。“闇の存在”は女性刺客ガモーラを送り込む。
銀河の秩序を守るザンダー星にいたピーターは、突然に現れたガモーラと球体オーブをめぐって争っているところに、宇宙一凶暴なアライグマのロケットと樹木型ヒューマノイドのグルートも参戦。4人とも刑務所に入れられる。
刑務所で野獣のような荒くれ男ドラックスにも出会い、それぞれの気心が分かったピーターと4人は刑務所を脱獄。球体オーブをめぐって、“闇の存在”と対立するうち、覚悟を決めて団結し、銀河の存亡をかけた戦いに臨むチーム“ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー”に変貌していく――。
母子の別れで泣かせる冒頭で、ピーター少年が時代物のウォークマンで聴いているのが10CCの「I’m Not In Love」。この幕あきで、筆者などは胸を鷲掴みにされた。ある世代の人間にとっては忘れえぬ名曲がここで流れたことの驚きと喜び。一気に作品の好感度が上がっていくのだ。ウォークマンを小道具にするなんて泣かせるじゃないか。
そこからは一気呵成の語り口で疾走してみせる。成人したピーターはどこまでも世慣れたアウトローで、他のメンバーもそれぞれに正義とは無縁の存在ながら、どこか愛嬌を感じさせるキャラクターばかり。そんな彼らが銀河を護る意義に目覚めていくプロセスも、定石ながら、無理のない展開でぐいぐい惹きこまれる。ガンの演出もあえてB級風の能天気さを散りばめながら、締めるところは締める。その緩急とクライマックスまでの盛り上げは、なるほど達者なものだ。ガンは本作で間違いなくメジャーな存在となった。
しかも、ストーリーの肝になるところでラズベリーズ、ルパート・ホームズ、デヴィッド・ボウイ、エルヴィン・ビショップ、マーヴィン・ゲイ&タミー・テレル、ジャクソン・ファイヴの名曲が流れる。いずれもがピーターのママが好きだった曲という設定だが、これが心憎い。最後の最後まで楽しめて、次が見たくなる仕上がりだ(続編の製作も決定している)。
“ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー”のメンバーはピーター役のプラット、ガモーラ役のサルタナ。ドラックス役のバウティスタをはじめ、ヴィジュアルの新鮮さが売り。ユーモア部分は極悪アライグマの声にクーパー、穏やかな樹木型ヒューマノイドにディーゼルを配したところがミソ。意外なほど容貌と声がシンクロしていて存在感がある。
クロース、ライリー、デル・トロといった芸達者たちは、とことんつくりこんだ扮装で登場。さして見せ場はないのに、きっちりと作品を支えているのはさすがだ。
日本ではアメリカほどに注目度は高くないだろうが、面白さは格別。この音楽のセレクションは素敵だ。ともあれ一見をお勧めしたい。