『LUCY/ルーシー』はスカーレット・ヨハンソンの魅力を活かした、リュック・ベッソン印SFアクション!

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『LUCY/ルーシー』
8月29日(土)より、TOHOシネマズ日本橋ほか全国ロードショー
配給:東宝東和
© 2014 Universal Pictures
公式サイト:http://lucymovie.jp/

 

『のら猫の日記』や『ゴーストワールド』など、子役から出発した女優スカーレット・ヨハンソンは成長してからも、ピーター・ウェーバーの『真珠の耳飾りの少女』をはじめ、ソフィア・コッポラの『ロスト・イン・トランスレーション』、ウディ・アレンの『マッチポイント』などなど、注目作に起用され続け、人気と実力を育んできた。
 近年ではマーヴェル・コミックの映画化、『アイアンマン2』、『アベンジャーズ』、『キャプテン・アメリカ/ウィンター・ソルジャー』で、紅一点のブラック・ウィドウ役を引き受け、アクション・ヒロインとしての資質もアピール。さらに歌手デビューを果たし、『her/世界でひとつの彼女』ではAI型OSの声を引き受け、声の出演だけで第8回ローマ国際映画祭で最優秀女優賞を獲得してみせた。
 このように破竹の勢いで突き進むヨハンソンが本作ではフランスのヒットメーカー、リュック・ベッソンとチームを組んでいる。
 ベッソンといえば『ニキータ』のアンヌ・パリローや『レオン』のナタリー・ポートマン、『フィフス・エレメント』のミラ・ジョヴォヴィッチなど、女優達に印象的なアクション・ヒロインを演じさせて人気を博してきた。さらに自らが監督するのみならず、脚本と製作だけを引き受けて『トランスポーター』シリーズや『96時間』といったヒット作を連発。アクションを軸に、割り切りのいいエンターテインメントに仕立て上げる手腕には定評がある。
 このベッソンがヨハンソンという個性をどのように料理したか。本作では脚本・監督を兼ねる力の入れ方で、脳が覚醒し続けるヒロインというこれまでにないキャラクターを構築してみせる。ヨハンソンのグラマラスな容姿を存分に活かしたアクション、スタントを縦横に織り込みながら、脳科学を題材にユニークなストーリーを生み出している。ふつうは10パーセントしか機能していない人間の脳が目覚め、機能を亢進させていったら、どのような事態になるかを、ヒロイン・ルーシーの軌跡を通して描き出していく。
 共演は『ミリオンダラー・ベイビー』のモーガン・フリーマンに、『オールド・ボーイ』や『悪魔を見た』などの怪演が鮮烈な、韓国映画界を代表する演技派チェ・ミンシク。『砂漠でサーモン・フィッシング』のアムール・ワケドなど、キャスティングもインパクト十分だ。
 台北で幕を開けてパリで幕を引く、予測不能のストーリー。ベッソンらしい派手さに満ちた展開が楽しい。音楽は長編監督デビュー作『最後の戦い』からのつきあいのエリック・サラ。全編、89分。メリハリの利いた、疾走する映像を堪能できる。

 台北、楽しい日々を送っていたルーシーはホテルにいる男に届けるよう、悪友からアタッシュケースを押し付けられる。渋々、ホテルに向かって男との面会を求めたとたん、外で成り行きを見ていた悪友は惨殺され、彼女は屈強な男たちに拉致されてしまう。
 部屋で待ち受けていたのは、残虐な殺人を楽しんで行うサディスティックな韓国マフィアのボス。震え上がっているルーシーを脅し、アタッシュケースを開けると、そこには新種のドラッグが入っていた。パニックを起こしている彼女に、仕事をすれば生かしておいてやるとボスは告げる。
 気がつくと、彼女は腹にドラッグの袋を埋め込まれていた。だが、ルーシーは手下に刃向かったことで腹を蹴られ、体内のドラッグが漏れ出す事態となってしまう。そのとたん、ルーシーの脳は覚醒。肉体の機能は飛躍的に高まっていく。もはやマフィアも物の数ではない。
 脳の覚醒率が高まるに従って、自分がどのような軌跡を辿るかを推察できた彼女は、脳科学の権威ノーマン博士にパリで会う約束を取り付ける。ドラッグの危険性を理解したルーシーはヨーロッパ各地に散らばった運び屋を捕えるため、フランス警察のデル・リオに連絡。自らもパリに向かう。
 パリには韓国マフィアのボスも向かう。その間も脳が覚醒を続けるルーシー。彼女が巻き起こす戦いは凄まじいクライマックスに達する。彼女の脳が覚醒率100パーセントを迎えたとき、どんな事態に立ち至るのだろうか――。

 冒頭、普通の感性のルーシーが拉致され、いたぶられるまでのテンションの高さはさすがベッソン。じりじりするようなサスペンスが盛り上がる。この調子のまま、スーパーヒロイン・アクションものに移行するのかと思えば、ベッソンはヒネリを利かせてそうはさせない。
 ヒロインの軌跡に並行して、ノーマン教授の脳科学の講義が描かれることで、むしろ“人間とは何だ”といった哲学的要素も加味される。だが、エンターテインメントづくりに長けたベッソンにとっては、あくまでもヒロインの個性を際立たせるスパイスに過ぎない。ドラッグの作用で脳の覚醒率が上がり続けるにつれて、人間的な要素を失くしていくヒロインはモンスターになるのか、神になるのか――後半はこの興味でラストまで引っ張っている。
 ストーリー自体は荒っぽいところはあるが、勢いで押すのがベッソン流。壮絶な銃撃戦、パリ市内のカーチェイス、ルーシーの超能力まで見せ場には事欠かない。アメリカで興行収入ランキング初登場第1位を飾ったのも納得がいく。インパクト主義、一気呵成の語り口なのだ。

 ヨハンソンはブラック・ウィドウほどのアクションを披露するわけではないが、覚醒が進むにつれて、行動の際に表情を失くしていくあたりに惹きつけられる。最初にチャラチャラした不良外国人風で登場し、サイボーク化し、神となっていくプロセスをさらりと演じている。
 ノーマン教授に扮するフリーマンはいかにもの役柄で、本作ではあくまでも脳の在り様を分かりやすく解説するキャラクターとして設定されている。彼の落ち着いた声が講義に映えるというところで起用されたか。
 驚くべきはチェ・ミンシクだ。サディスティックな韓国マフィアのボスを存在感たっぷりに演じている。韓国語しかしゃべらず、とことん凄味を発揮する。この作品の迫力は彼の存在に負うところが多いのだ。

“覚醒型アクション・エンターテインメント”と銘打っている本作、痛快に疾走して飽きさせない。暑さの残る季節にふさわしい作品といえよう。