『三姉妹』は烈しい感情が交錯する、リアルでエモーショナル、心に沁みる韓国製女性映画。

『三姉妹』
6月17日(金)よりヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほか、全国順次ロードショー!
配給:ザジフィルムズ
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公式サイト:http://www.zaziefilms.com/threesisters/

 近年、注目作が目白押しの韓国映画界から、またも心に沁みる作品が登場した。

 ソウルに住む三姉妹の軌跡を通して、韓国で女性たちが直面する問題を浮かび上がらせるとともに、生きることの哀歓をくっきりと焼きつけた作品。近年、女性主導の映画の秀作が多いなかでも、琴線に触れる屈指の仕上がりとなっている。

 厳格な家父長制度が今も存在する韓国で、問題を抱えながら世間体を保って生きねばならない女性たちの痛み、苦しみを浮き彫りにする。

 脚本・監督は長編映画三作目となるイ・スンウォン。繊細かつリアルにキャラクターを浮かび上がらせ、見る者を画面に釘付けにする、みごとな演出ぶりを披露している。『オアシス』や『シークレット・サンシャイン』、『バーニング 劇場版』などで知られる韓国映画界の匠、イ・チャンドンが本作を激賞しているのも頷けるところだ。

 出演者も実力派が揃っている。まず『オアシス』の体当たり的な熱演が今も語り草のムン・ソリが本作の脚本に感銘を受け、共同プロデュースに参加するとともに出演を快諾。イ・スンウォンの長年のパートナーでもあり、話題になったテレビドラマ「愛の不時着」で強い印象を残したキム・ソニョンと、トップモデルとして活動し、ヒット作『ベテラン』で映画デビューを果たしたチャン・ユンジュが、三姉妹に扮してみごとなアンサンブルをみせる。

 ムン・ソリは“娘たちの世代が、暴力や嫌悪の時代を越えて、明るく堂々と笑いながら生きていける社会になるように”との思いを込めて、本作に挑んだという。

 韓国・ソウルで暮らす、それぞれに問題を抱えた三姉妹。長女ヒスクは別れた夫の借金を返しながら、花屋を営んでいる。パンクバンドに入れあげている娘から疎まれても、常に卑屈な笑いを浮かべ、他人に気に入られようとしている。ガンを患っているが、大丈夫なフリをして日々をやり過ごす。

 次女ミヨンは大学教授の夫と一男一女に恵まれ、高級マンションで暮らしている。熱心に教会に通い、聖歌隊の指揮者も務めるが、完璧であるべき日常が夫の裏切りによって、彼女の美しい日々に亀裂が入る。

三女ミオクはスランプ中の劇作家。食品卸業の夫と連れ子の息子の3人で暮らしているが、昼夜問わず酒浸りの毎日。三人姉妹が揃うことはほとんどなかったが、父親の誕生日会のために久しぶりに帰省し一堂に会することになった。その席上、三人はそれまで蓋をしていた幼少期の心の傷と向き合うことになる――。

 映画は三姉妹のやりきれない日常をリアルに紡いでいく。懸命に日常を生きているのに、軽んじられ誰にも顧みられない長女。良妻賢母を装いながら、不実な夫に対する怒りに苛まれる次女。才能の枯渇で自暴自棄の三女。長女も次女も体面を保とうとしているが、三女はそれさえも投げ出している。病んでいる長女は反抗期の娘を案じて行動するが、むしろ娘の反発を買うばかり。三女は連れ子に対して親らしいことをしようとするがかえって空回り。いくら努力しても、三人ともどこかうまくいかない。

 イ・スンウォンはこうした三人三様の生き辛さを、前半、克明に描き出す。見ていて辛くなるエピソードが続き、見る者は三人のいびつなキャラクターに対して共感しにくい印象を持つ。だが、三人が一堂に介したとき、彼女たちがいかにそのキャラクターを育まれたかが明らかになると同時に、健気に今まで生きてきたことの愛おしさが湧き上がってくる。この作劇はうまいと思う。イ・チャンドンが称えた理由はここにあったか。

 儒教的な発想の旧態依然たる教育が、女性にどんな影響をもたらすかを、映画は明確に語りかける。どこかしら頑なで、体面だけを大切にする長女と次女、正反対にベクトルが向いた三女はいずれも教育と環境によって形成されたものだ。イ・スンウォンの誠実な語り口が彼女たちの痛み、失意を痛烈に焼きつけ、クライマックスの感動に結びつける。男性のキャラクターはいささか類型的だが、女性から見たらこのように思えるのかもしれない。

 もちろん俳優陣の熱気も称賛に値する。次女に扮したムン・ソリは聖人君子の表情の陰にある夜叉の一面をみごとに表現し、長女役のキム・ソニョンはおどおどした卑屈な態度の嫌われたくないキャラクターを適演。三女役のチャン・ユンジュの傍若無人ぶりはいっそ潔く、それぞれがくっきりと個性を映像に焼きつけている。

 エモーショナルで、最初は痛いが後半一気に感動が押し寄せる。見応え十分、韓国映画の好調ぶりを象徴するような女性映画の秀作である。