『蜘蛛の巣を払う女』は北欧の陰鬱な風景のなかで繰り広げられる、女性主導のミステリー・アクション!

『蜘蛛の巣を払う女』
1月11日(金)より、TOHOシネマズ日比谷ほか全国ロードショー
配給:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
公式サイト:http://www.girl-in-spidersweb.jp/

 スウェーデンのスティーグ・ラーソンが発表したミステリー「ミレニアム」三部作は、内容の濃密さから、日本をふくめ世界的なベストセラーを記録した。
 ベストセラーの映画化は映画界の自然の成り行き。まず本国スウェーデンではミカエル・ニクヴィストとノオミ・ラパスの顔合わせで三部作すべてが映像化された。この仕上がりに触発されて、アメリカでは第1作にあたる『ドラゴン・タトゥーの女』をリメイク。脚色に『シンドラーのリスト』のスティーヴン・ザイリアン、監督は『ソーシャル・ネットワーク』で好調なところをみせたデヴィッド・フィンチャー、さらに主演がダニエル・クレイグとルーニー・マーラという顔ぶれで、大きな注目を集めた。
 このミステリーの素晴らしさは何といっても軸になるヒロインの造形にある。背中にドラゴンの刺青のある天才女性ハッカー、リスベット・サランデルだ。忌まわしい過去を持ちながら、他人と与することなく、スウェーデンの陰鬱な世界を疾走する存在。映画ではノオミ・ラパス、ルーニー・マーラが演じ、それぞれ一躍スターダムに駆け上がったことも記憶に新しい。
 残念ながらスティーグ・ラーソンはシリーズ化の構想を持ちながら急死。人気を惜しんだ出版社がノンフィクション作家だったダヴィド・ラーゲルクランツにシリーズの存続を託した。本作はラーゲルクランツの書き上げたシリーズ第4弾の映画化ということになる。アメリカ映画であるが、イギリス、ドイツ、スウェーデン、カナダが製作に参加。これをみても期待度の高さをうかがわせる。
 本作では『ドラゴン・タトゥーの女』のデヴィッド・フィンチャーは製作総指揮にまわり、監督には『ドント・ブリーズ』で世界を驚かせたフェデ・アルバレスが抜擢されている。『イースタン・プロミス』などで知られるスティーヴン・ナイトと『モンスターズ/新種襲来』のジェイ・バス、そしてアルバレスの3人が脚色にあたり、原作の雰囲気を巧みに映像化している。
 出演者も大きく変わり、リスベット・サランデルには英国出身のクレア・フォイ。Netflixのテレビシリーズ「ザ・クラウン」の演技を絶賛された彼女が、ショートカットと背中の刺青が鮮烈なヒロインを熱演する。共演は『ブレードランナー2049』のシルヴィアフークスに、『ボルグ/マッケンロー 氷の男と炎の男』のスヴェリル・グドナソン。ヨーロッパで活動する注目俳優が一堂に介したイメージ。アルバレスのシャープな演出のもと、いずれもくっきりと個性を焼きつけている。

 女性を虐げる男に罰を秘かに与えている天才ハッカー、リスベット・サランデルは、アメリカ国家安全保障局(NSA)からソフトウェア「ファイヤーフォール」を盗み出すように依頼される。「ファイヤーフォール」は人工知能研究の世界的権威フランス・バルデル博士が開発した核攻撃プログラムで、博士自身が彼女に頼んできたのだ。天才的なハッキング能力を擁するリスベットにしてみれば簡単な仕事だった。
 だが、首尾よくソフトウェアを盗み出したサランデルだったが、何者かに襲撃され、データを盗まれてしまう。
 この事件をきっかけに追われる身となったサランデルはやがて16年前の忌まわしい過去に辿り着き、罠にはまってしまう――。

 空気も凍るような寒々しい風景の北欧には、過去の因縁に縛られた人々のストーリーがよく似合う。内省的でニューロティックな雰囲気のなか、少女時代の悔いに満ちた出来事と向き合うサランデルの軌跡が紡がれる。これまでの作品のように、「ミレニアム」誌のジャーナリストのミカエル・ブルムクヴィストとタッグを組んで事件に対するのではなく、ミカエルとハッカー仲間の助けは借りるものの彼女ひとりで真相に突き進む展開となる。
 フェデ・アルバレスのメリハリの利いたシャープな語り口のもと、過去の亡霊と孤高に戦うサランデルのヒロイズムがくっきりと浮き彫りにされる。スタイリッシュな映像が霧の立ち込めたような陰鬱な風景を切りとり、奥行きのあるミステリー世界を構築。挿入されるスリリングなアクションがストーリーの抑揚をつける。まさにアルバレスのサスペンス感覚がいかんなく発揮されている。
 前作『ドント・ブリーズ』のようなテンションの高い語り口とは異なり、テンションを抑え込み貯めこんで、クライマックスで一気に炸裂するスタイルを採用している。ホラーに縛られることなくジャンル映画の枠を超える作品を目指すアルバレスにとって、ミステリーにして、女性主導アクション、人間ドラマの要素もある本作は、まさに格好の題材といえる。いささか展開が粗削りなことを除けば、最後まで飽きさせない仕上がり。このヒロインのシリーズがさらにつくられることを期待したくなる。

 出演者ではリスベット・サランデル役のクレア・フォイが熱演をみせる。刺青にショートカット、人をよせつけない外見の下には繊細で傷つきやすい心を秘めたヒロインを的確に演じてみせる。これまでのノオミ・ラパスやルーニー・マーラと一味違う、男性に依存しないアウトサイダーを情感たっぷりに演じている。「ミレニアム」誌のミカエル・ブルムクヴィストを演じるスヴェリル・グドナソンも、ダニエル・クレイグほど野性的ではなく、ミカエル・ニクヴィストほど中年ではない、スウェーデンの景色に溶け込む知性派ジャーナリストを体現している。

 詳細を明かせないのはミステリーのお約束。惚れ惚れするようなヒロイン、リスベット・サランデルの活躍はご自身の眼で堪能されたい。新春にふさわしい、おとな感覚の作品だ。