『アリー/ スター誕生』は素晴らしい歌声で感動させずにおかない、ハリウッドの定番物語の最新映画化!

『アリー/ スター誕生』
12月21日(金)より、TOHOシネマズ日比谷、丸の内ピカデリーほか全国ロードショー
配給:ワーナー・ブラザース映画
©2018 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. AND RATPAC-DUNE ENTERTAINMENT LLC
公式サイト:http://starisborn.jp

『アリー/ スター誕生』という作品はハリウッドが長年、培った歴史の先端にいる。
 ひとりの女性の成功譚であると同時に、彼女を支えた男性との愛と葛藤のドラマという設定自体が1937年に登場した『スタア誕生』に端を発しているのだ。ストーリーは1932年のジョージ・キューカー作品『栄光のハリウッド』という作品にインスパイアされたもので、当時の匠ウィリアム・A・ウェルマンが脚本・監督。成功を勝ち取るためには大きな代償が必要だという展開は観客から大いに支持された。
『スタア誕生』は1954年にジュディ・ガーランド主演でリメイクされ、さらなる輝きをもたらす。キャラクターをガーランドにあわせてミュージカル女優に設定したことが成功の要因。ジョージ・キューカーの演出のもと、ガーランドの圧倒的な歌唱力と熱演がスクリーンに横溢し、圧倒的な感動を与えた。彼女はアカデミー賞に輝いても何の不思議もないほどの名演だった(ガーランドはノミネートされたが、受賞はグレイス・ケリー)。
 この2作の『スタア誕生』は、ショービジネス世界のサクセスストーリーの定番として映画史に残ることになった。
 さらに1976年には『スタア誕生』ならぬ『スター誕生』が登場。舞台を映画の世界から歌の世界に移し、オリジナルのストーリー展開はそのまま。女優・歌手として頂点にいたバーブラ・ストライザントがヒロインを熱演してみせた。監督が『暴力脱獄』や『狼たちの午後』の脚本家として知られるフランク・ピアソンだったこともあって、当時のポスト・アメリカンニューシネマの雰囲気が画面に漲っていた。

 そうした経緯を経て、本作の登場となる。ジュディ・ガーランド、バーブラ・ストライザントと時代を画す歌手・女優がヒロインを務めてきた企画を、ここではレディ・ガガを起用して挑んでいる。この企画はクリント・イーストウッドが手がける予定だったが、なんとブラッドリー・クーパーが出演並びに監督を務めることで実現した。本作が監督デビュー作となる。
 ブラッドリー・クーパーはおバカコメディ『ハングオーバー! 消えた花ムコと史上最悪の二日酔い』で注目された遅咲きで、以降、名門アクターズ・スタジオで学んだ実力を『世界にひとつのプレイブック』や『アメリカン・ハッスル』、『アメリカン・スナイパー』などで発揮。これまでに3度のアカデミー賞ノミネーションを果たしている。
 本作でクーパーが挑んだのは監督に留まらない。製作に名を連ね脚本に参画し、カメラの前では演技ばかりか、歌まで披露。しかも映画のなかの全パフォーマンスを生収録するという挙に出た。どこまでもリアルな映像に仕上げようとする彼の姿勢が現れている。
 ドラマチックで圧倒的な歌唱力には定評があるレディ・ガガは、本格的な演技は本作が初めて。MVやステージパフォーマンスではつくりこんだ容姿で勝負するが、ここでは素顔に近いイメージでヒロインに挑んでいる。
 ブラッドリー・クーパー、レディ・ガガをサポートする共演陣は『ブルージャスミン』のアンドリュー・ダイス・クレイをはじめ、『ブロック・パーティ』のコメディアンのデイヴ・シャペル、『ランナウェイ/逃亡者』などバイプレイヤーとして光るサム・エリオットなど個性豊かな顔ぶれが結集している。

 ウェイトレスとして働きながら、歌手を目標に生きてきたアリーは世に出る足掛かりがつかめずに自信を失いかけていた。夜、ドラッグクィーンのクラブで歌っていたとき、人気歌手のジャクソンと出会う。
 彼女の歌に感心したジャクソンはコンサートに彼女を招待し、いきなりステージに呼び込み、デュエットした。このことをきっかけにアリーは注目され、スターへの階段を駆け上がる。と同時にジャクソンとの愛は深く結びついていく。
 飲んだくれでありながら、アリーにはひたすら優しいジャクソンは傷つきやすく繊細な内面を隠して生きてきた。だが、アリーの人気爆発に反比例して、自分の人気の下落を強く意識するようになる。兄との確執もあり、やがてプライドがズタズタになる事件が起きる。アリーの懸命な支えにもかかわらず、ジャクソンが取った行動は哀しいものだった――。

 冒頭、ジャクソンが酔っ払って入り込んだドラッグクィーンのクラブで、彼女が披露する「バラ色の人生」に無条件に圧倒される。いかにもクラブにふさわしいペーソスに満ちた曲を、アリーはグラマラスかつエモーショナルに歌い上げるのだ。レディ・ガガ自身もドラッグクィーンたちに愛されてきたこともあり、このシーンはいちばんレディ・ガガらしい趣向といえるが、このシーンで観客を惹きこんで、後は一気呵成に疾走する。掴みとしてはパーフェクトだ。以降、彼女が熱唱する曲目の数々はいずれも素晴らしく、みる者の胸に沁みこんでくる。
 ストーリー自体はオリジナルにほぼ忠実な展開となっているが、ブラッドリー・クーパーはよりジャクソンの側を描きこむことで新味をもたせる。ジャクソンは純情でナイーブなところがあり、優しい。タフなショービジネスの世界で生き抜くには繊細過ぎた。酒に浸ることで苦しみを和らげてきた男にとって、アリーの歌声、存在はまさに福音であった。しかし、彼女がショービジネスで成功することで、彼の苦しみは倍加する。心が優しく女々しい部分もあるキャラクターを、クーパーは文字通りの熱演で肉付けする。彼の行動を克明に描き、彼の辛さ、苦しみを浮き彫りにする。それにしてもクーパーの歌は発見だった。これほど人間味の溢れた歌声を持った存在だとは思わなかった。彼の歌と入魂の演技が映像にきっちりと焼きつけられている。あえていってしまえば、この作品は男心の映画でもあるのだ。クーパーがクリント・イーストウッドの思いを引き継ぎ、本作品に全力傾倒したのも分かる。アカデミー・ノミネーションは確実と思う。

 共演陣もそれぞれに頑張り、正月映画にふさわしくゴージャスな仕上がり。歌がもたらす感動に酔いしれることができる。これは屈指の仕上がりだ。