もはや言うまでもないことだが、今や認知度の高いコミックの実写版の製作は当たり前のことになっている。この風潮の裏にはコミックのイマジネーションと遜色のない映像が生み出せる技術の進歩がある。CGやVFXを軸に、技術はどんどん革新され、もはや再現できないものがないともいわれている。
こうした状況であればこそ、本作のような活きのいい作品も登場する。本作は奥浩哉の同名大ヒット・コミックの実写映像化だ。
奥浩哉といえば実写映像化された『GANTZ』の作者として知られているが、本作も『GANTZ』と同じ佐藤信介がメガフォンをとっている。奥浩哉の世界を映像化するには打ってつけの存在と言える。大ヒットした2部作の続編『デスノート Light up the NEW world』や、シッチェス・カタロニア国際映画祭やポルト国際映画祭で観客賞に輝いた『アイアムアヒーロー』など、佐藤信介が手がける作品はコミックの映画化が多い。彼の原作のインパクトに引けを取らない映像とテンポのいい演出が起用される理由だろう。
本作では、『映画 ビリギャル』をはじめ多彩な作品歴を誇る橋本裕志の脚本を得て、問答無用の語り口でダイナミックな映像世界を披露する。がんを患った冴えない定年間近のじいさんとイケメン高校生が謎の出来事に遭遇。気がつけば機械の体の超人になっていた。この設定のもと、超人の能力を駆使して悪を成す高校生とそれを阻止せんとするじいさんが空を駆け、ビルをなぎ倒す。まことユニークな設定ではないか。
出演は、とんねるずとして活動し、『竜馬の妻とその夫と愛人』で演技力を披露した木梨憲武。本作が16年ぶりの映画主演となるが、ワイヤーアクションに挑戦し、シリアスな演技で押し通す。相手役を務めるのが『るろうに剣心』、『バクマン。』や『亜人』でおなじみの佐藤健。このふたりに加えて本郷奏多、二階堂ふみ、三吉彩花、斉藤由貴、伊勢谷友介など、ヴァラエティに富んだ顔ぶれを揃えている。
犬屋敷壱郎は定年を間近に控え、会社にも家にも居場所がない。同僚からも家族からも無視され、医者から末期ガンで余命を宣告されていた。
そんな彼が公園で佇んでいると、突然、巨大な光に包まれ、謎の事故に遭遇する。その公園には高校生の獅子神皓もいた。意識を取り戻すと、大きな能力を秘めたサイボークとなっていた。
母ひとり子ひとりの獅子神は閉塞感を抱えて生きてきたが、超人的な力を得て、幸せな家庭を血祭りにあげ、ついには人類全体に復讐すべく無差別大量殺戮に突き進んでいく。犬屋敷は獅子神ほど、肉体に順応できなかったが、獅子神の行動を阻止すべく全力を尽くす。
クライマックスは都庁をめぐる攻防戦。偶然にも都庁には犬屋敷を馬鹿にしていた娘・麻里がいた。父性とパニック阻止のため、犬屋敷は全身を賭けて、獅子神と対決する――。
彼らが何ゆえに機械化されたサイボークとなったかは明示されるわけではない。時には、人間は訳も分からないような不条理な状況に見舞われることがあるとでも言いたいのか。映画は、超人力を得たふたりが持てる力に慣れ、その力をいかに使うかを描いていく。高校生の獅子神は、母が懸命に働いても恵まれない社会に対して刃を向け、犬屋敷はただ激変ぶりに驚嘆し、やがて獅子神の行動を止めるべく立ち向かう。
獅子神には社会を恨む動機があり、犬屋敷は超人化しても、その変化を家族に省みられることはない。なんとも地味なふたりが世界の平和をめぐる戦いを演じる。本作の面白さはここにある。佐藤信介はスピーディな語り口で、犬屋敷の恵まれない境遇を浮かび上がらせ、獅子神がクールなキャラクターになった事情をさらりと紡ぐ。そこからクライマックスは一気呵成。獅子神が引き起こす事件の数々、彼を阻止しようとする犬屋敷の行動をサスペンス十分に描いていく。
映画は獅子神が社会に対して怒りを燃やす理由も示され、単なる悪と片づけることもしない。果たして人間の本質は善か悪かという命題をはらみつつ、とことんアクションを映像に焼きつける。内蔵しているロケット噴射で街を低空超スピードでチェイスし、クライマックスは新宿西口超高層ビル群上空250メートルでくんずほぐれつ、追いつ追われつのバトルを繰り広げるのだ。これまでもアメリカ映画でも似たような趣向はあるが、CG技術の粋とVFXを組み合わせて、飛翔の疑似体験をさせてくれる。手に汗握る映像体験ができるのだ。本作の最大の魅力はこの飛翔体験にあるといっても過言ではない。
出演者では風采の上がらない親父に木梨憲武がぴったりとはまっている。毅然とするのは娘を救出するときだけというのもリアルでいい。こうしたヒーローは珍しく、シリーズ化を望みたくなるほどだ。
一方の獅子神役の佐藤健は超人になった優越感を抱き、他人を殺めることに喜びを見いだすキャラクターをクールに演じている。さらに獅子神に恐れを持ち、犬屋敷を頼りにする高校生役の本郷奏多、獅子神に好意を寄せる女子高生役の二階堂ふみと、脇も魅力的なキャスティングで描きこんである。
じいさんを主人公にしているのもいい、ちょいと嬉しくなる日本のSFアクション。とりあえず、一見をお勧めする。