2003年に劇場公開された『パイレーツ・オブ・カリビアン/呪われた海賊たち』は画期的な作品だった。ディズニーランドのアトラクション「カリブの海賊」の世界観をもとに映像化するという企画もさることながら、ストーリーを練りこみ、個性的なキャラクターをつくりあげたことで、突出したエンターテインメントに仕上げたからだ。同じくアトラクションを映像化した『カントリー・ベアーズ』や『ホーンテッドマンション』がそれほどは芳しい仕上がりでなかっただけに、『パイレーツ・オブ・カリビアン/呪われた海賊たち』がいっそう際立つ結果になった。
もちろん、世界的なヒットを飾った最大の功労者は、ジャック・スパロウを演じたジョニー・デップである。これまでも『シザーハンズ』をはじめとするティム・バートン作品で、カリカチュアされたアニメーション的キャラクターがぴったりはまったデップにとって、厚かましくて小狡いのに憎めない海賊役はまさに適役。オーランド・ブルーム、キーラ・ナイトレイという美男美女コンビをサポートするキャラクターながら、場面をさらいまくり、デップの人気を飛躍的に高めることとなった。と同時に、それまで高い評価のなかった監督、ゴア・ヴァービンスキーが理屈抜き、見せ場つなぎのダイナミックな演出を披露。一躍、メジャーな存在となったのも記憶に新しい。
作品の成功によって三部作にすることが決定。しかもヴァービンスキーが手がけた三部作がことごとくヒットしたことから、2011年には第4弾『パイレーツ・オブ・カリビアン/生命(いのち)の泉』が製作された。
第4弾ではブルーム、ナイトレイは登場せず、ジャック・スパロウが軸の構成となり、監督も『シカゴ』や『SAYURI』で知られるロブ・マーシャルにバトンタッチされ、印象が前3作品とは変わったが、全世界で10億5千万ドルに近い興行収入を稼ぎ出した(日本では88億7千万円をあげて、洋画部門年間チャート2位を記録している)。
この大成功に力を得て、プロデューサーのジェリー・ブラッカイマーはシリーズ存続を決意。本作が製作されることとなった。
ブラッカイマーがまず目指したのは本作を『パイレーツ・オブ・カリビアン/呪われた海賊たち』のような新たな可能性のあるものにすること。そのためにストーリーづくりに力を入れた。彼は『キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン』や『インディ・ジョーンズ/クリスタル・スカルの王国』を手がけたジェフ・ナサンソンを起用し、これまでのシリーズの脚本に携わってきたテリー・ロッシオと徹底的にストーリーを練りこませたうえで脚本化させた。本作では、これまで語られることがなかったジャック・スパロウの若き日が描かれる。
いわば、シリーズの新たな旅立ちとあって、監督についても可能性のある存在が選ばれることになった。選ばれたのはCFで世界的に認知せしめ、女性主導ウエスタンの『バンディダス』(劇場未公開)を皮切りに、実録戦争アクション『ナチスが最も恐れた男』(劇場未公開)、海洋アドヴェンチャー『コン・ティキ』を演出して注目された、ノルウェー出身のヨアヒム・ローニングとエスペン・サンドベリのコンビ。ハリウッド映画に慣れ親しんできたとコメントするふたりは、因縁にまつわるファンタジックなストーリーを巧みに映像化している。
出演は、ジョニー・デップを中心に、オーランド・ブルームとキーラ・ナイトレイも顔を出し、海の死神サラザールには『ノーカントリー』でアカデミー助演男優賞に輝いたハビエル・バルデムが起用された。さらに『キング・オブ・エジプト』のブレントン・スウェイツ、『メイズ・ランナー』のカヤ・スコデラリオが加わる。レギュラー化したバルボッサ役のジェフリー・ラッシュも健在。まことに華やかなキャスティングとなっている。
かつてジャック・スパロウとともに活躍したウィル・ターナーは幽霊船フライング・ダッチマン号の船長として呪われた日々を送っていた。ウィルの息子ヘンリーは父の呪いを解くには秘宝“ポセイドンの槍”が必要だと知る。
ヘンリーは英国軍の水兵となるが、船が魔の三角海域に近づいたとき、幽閉されていた海の死神サラザールに襲われる。サラザールはジャック・スパロウの持つ“北を指さないコンパス”を求めていて、スパロウを探していたヘンリーだけを助ける。
セント・マーティン島に流れ着いたヘンリーは、魔女の濡れ衣を着せられた天文学者カリーナと出会う。彼女は父の残した書物に秘められた謎、“ポセイドンの槍”に辿りつく方法を解き明かそうとしていた。
ヘンリーが頼ろうとしていたジャック・スパロウは酔った勢いで、“北を指さないコンパス”を手放してしまう。その瞬間、持ち主に裏切られた“北を指さないコンパス”は持ち主が最も恐れるものを解き放った。呪われていたサラザールが魔の三角海域から復讐の航海をはじめる。敵は憎いジャック・スパロウ。
ことここに至って、スパロウはヘンリー、カリーナとともに“ポセイドンの槍”探しに本腰を入れる。サラザールの復讐から逃れるためには“ポセイドンの槍”が不可欠だったからだ。一方で、サラザールに脅されたバルボッサも胸に一物、スパロウたちを追う。さらに英国軍も登場して、四つ巴の戦いが展開していく――。
いささか驚くのは、ウィル・ターナーの息子が軸になってストーリーが進んでいくことだ。製作者サイドとしてはジャック・スパロウを際立たせるには、素直なキャラクターに絡ませることが肝要だと悟ったようだ。かつてのオーランド・ブルーム演じるウィルよりも幼さを残し、父を助ける使命に燃えるキャラクターはなるほど、痛快冒険活劇にフィットする。演じるブレントン・スウェイツは『キング・オブ・エジプト』に勝るとも劣らないはまり役といえる。
この作品は父と子の絆がストーリーの要となる。ウィルとヘンリー然り、カヤ・スコデラリオ演じる女性天文学者と父との絆も最後に大きな波乱を呼ぶことになる。このエモーション、出演者の動機づけがきっちりと描かれていることで、ドラマはすんなり流れていく。
加えて、今回の作品ではジャック・スパロウの若き日のエピソードが紡がれる。CGによって若さ溌溂のスパロウがいかに船長として認められ、サラザールの恨みを買うに至った経緯がさらりと描かれる。これまでのシリーズ作品ではどんどん世界が広がり、収拾がつかない印象もあったが、ここでスパロウの若き日を知らしめることで、原点回帰。スパロウのキャラクターを明確にする意図があったと思われる。
監督に抜擢されたヨアヒム・ローニングとエスペン・サンドベリはアメリカ映画に慣れ親しんできたというだけあって、見せ場のツボは外していない。ただ、子細に見ていくと、演出のタッチはハリウッドらしくない誠実さがある。ゴア・ヴァービンスキーやロブ・マーシャルのような映像のハッタリは未だ身につけていない。これがむしろ幸いした。
ジョニー・デップはもはや堂々たる演じっぷり。酔いどれで頼りないところもあるが、いざとなるとみごとなヒーローぶりを披露する。さすがに若干、年齢が増した印象はあるが、このキャラクターが続く限り、演じ続けてほしいものだ。
さすがにサラザール役のハビエル・バルデムの凄味は群を抜いている。仇役は怖ければ怖いほど作品の魅力は高まるというわけで、この起用はまさに正解だった。
この作品の最後に、未だシリーズが続くことが暗示されている。果たしてウィル・ターナーの息子の代の活躍に移行していくのか。ジャック・スパロウがどのように絡むのか。ファンならずとも気になるところだ。まずは一見をお勧めしておきたい。