『ワイルド・スピード ICE BREAK』は怒涛のアクションの乱れうちで綴る痛快エンターテインメント!

『ワイルド・スピード ICE BREAK』
4月28日(金)よりTOHOシネマズ日劇ほか全国ロードショー
配給:東宝東和
©)Universal Pictures
公式サイト:http://wildspeed-official.jp/

 

 スピード感満点の映像がひたすら痛快さを求めて疾走する。けれんたっぷり、目を引く映像を生み出すためには、誇張も惜しまない。まこと“ワイルド・スピード”シリーズは、見る者にカタルシスと爽快感を与えるためなら、あらゆる手練手管を駆使してみせる。シリーズの人気が衰えないのはここに起因する。

 最初の作品はロサンゼルスの路上のスピードレースからはじまり、ひたすら公道上の車の戦いの迫力で押していたものが、作品を重ねるごとに舞台が世界中に広がり、出演者もどんどんゴージャスになっていった。第1作からの出演者のひとり、ポール・ウォーカーは惜しくもは急死したが、ヴァイン・ディーゼル、ミシェル・ロドリゲスは健在。

 さらに第2作以降は、タイリーズ・ギブソンやクリス・“リュダクリス”・ブリッジスといった音楽界のスターにはじまって、元プロレスラーにしてアクションスターのザ・ロックことドウェイン・ジョンソン、『トランスポーター』でおなじみのジェイソン・ステイサム、ベテランのカート・ラッセルなどなど、多彩な顔ぶれをチームに加えることでスケールアップを成功させた。

 同時に、公道の舞台を東京やリオ・デ・ジャネイロ、アゼルバイジャンからアラブ首長国連邦のアブダビ、ヨーロッパ各都市にまで広げて、アクション、スタントも超パワーアップ。およそ考えられないような破壊とスピードで勝負する。面白ければ何でもあり、シンプルなストーリーで突っ走る潔さ、この腹のくくり方が作品を重ねるごとにヒットを続ける秘訣だ。

 本作も全米で4月14日に公開されるや、1億ドルを超えるヒット。世界の興行収入では現時点で7億ドルに届く勢いだ。

 なにせ本作では前述のメンバーに加えて、『クィーン』のヘレン・ミレン、『マッドマックス 怒りのデス・ロード』のシャーリーズ・セロン、クリント・イーストウッドの息子スコット・イーストウッド、シリーズ第6作の悪役だった『ドラキュラZERO』のルーク・エヴァンスまでキャスティングされているのだ。この豪華な顔ぶれならばヒットしない方がおかしいというものだ。

 監督は『交渉人』で注目されたF・ゲイリー・グレイ。近作では製作・監督を兼ねた2015年の『ストレイト・アウタ・コンプトン』が話題になった。グレイはきびきびした語り口が身上。本作では豪華な顔ぶれひとりひとりに見せ場を設けながら、スピーディに語り尽す。どこまでも破天荒、インパクト主義のストーリーを、ここまでまとめれば立派なものだ。どこまでも映画の見世物性に徹し、面白さを追求する。まことアメリカン・エンターテインメントの鑑といいたい。

 

 キューバのハバナでドミニックとレティは新婚旅行を満喫していた。キューバでも公道レースを行ない、勝利を手にした彼の前に、謎の女が現われる。サイバーテロリストのサイファーと名乗った彼女はドミニックに写真をみせると、チームを裏切って自分の仕事を手伝うように命じる。彼は彼女をはねつけることができなかった。

 特別捜査官のホブスからドミニックのもとに連絡が入り、ローマン、テズ、ラムジー、レティとともに、送電網を破壊できる兵器電磁気パルスをベルリンから回収するミッションが入る。ミッション自体はごく簡単なものだったが、最後にドミニックが裏切り、ホブスはベルリンの警察に逮捕される。刑務所にはホブスが叩き込んだデッカードがいた。

 いがみあうふたりの前に、アメリカの秘密組織に属するミスター・ノーバディとリトル・ノーバディが現われ、ふたりを脱獄させる。ミスター・ノーバディのアジトでチームと合流したホブスとデッカードはドミニックの裏切りの背後にサイファーがいることを知る。

 だが、アジトがドミニックとサイファーに急襲され、監視システム“神の目”を奪われてしまう。

 さらにニューヨークに滞在しているロシアの防衛大臣から核攻撃の出来る装置の入ったブリーフケースを奪うように、サイファーはドミニックに命じた。命令に従うしかないドミニックだったが、ひそかに策を講じていた。

 ニューヨーク、チームはドミニックの行動を阻止すべく、対策を練っていた。果たしてドミニックはサイファーの命令に背くことができるのか。そもそも彼がサイファーに握られた弱みとは何なのか。ニューヨークを修羅場に変えた対決はやがてアイスランドの氷原の死闘に続いていく――。

 

 どこまでやれば気が済むのかと思わず口につくほどのエスカレートぶり。アクション映画全盛で車のぶっ壊しなどは見慣れているが、本作ほど派手な趣向で勝負するものはない。しかもシリーズとあって、前作よりも派手なシーンが義務付けられるのだから知恵を絞れるだけ絞って勝負している。本作ではクライマックスがアイスランドの氷上のチェイス。それも車同士の攻防ばかりではなくて、最後に原子力潜水艦も氷の下から参戦するのだから、まさに超ド級。もはやスピードを競い合うアウトローというイメージはなくなり、殆ど“ミッション・インポッシブル”チームなのである。

 若干のご都合主義的展開は、面白さ優先、堅いこと言いっこなしの精神。ざっくりしたストーリーに、どこまでサスペンス、カタルシスを盛れるかで勝負する。F・ゲイリー・グレイの、あくまでダレさせないで突っ走る演出に拍手を送りたくなる。本シリーズはアクションの凄さ、キャラクターの個性で成立しているわけだから、作品を重ねるごとにキャラクターが増えるのは致し方ない。

 今回ではサイファー役のシャーリーズ・セロンのワルぶりが際立つ。当初はドミニック役のヴィン・ディーゼル、ホブス役のドウェイン・ジョンソン、デッカード役のジェイソン・ステイサムを向こうに回す悪役としては弱いと思ったが、どっこい冷徹で頭の回る、セクシーなキャラクターを妖しく演じ切り、秀逸の存在感なのだ。

 さらにバカ真面目なコメディリリーフ、リトル・ノーバディ役のスコット・イーストウッドは次作からレギュラーになる可能性十分。父親に似た容姿だし、本作から注目されるかもしれない。

 もちろん、ディーゼルもジョンソンもステイサムも作品を重ねるごとに善人顔になってくるのがおかしい。本作の設定だと、ヘレン・ミレンやルーク・エヴァンスも次作以降に顔を出す可能性十分だ。

 

 本作が大成功したおかげでシリーズ第9弾が製作されるのも、ほぼ確実。何にも考えずスクリーンに映るアクションに没頭し、見終わってスカッとする。GWにふさわしい作品だ。