『スパイダーマン』3部作を監督して広くその名を知られたサム・ライミは、プロデューサーとしても高い評価を受けている。
なかでも、ホラー、スリラーをこよなく愛する彼が、大学時代からの盟友ロバート・タパートとともに“ゴースト・ハウス・ピクチャーズ”を2002年に設立。ここで際立った活動をみせている。ライミ自らが『スペル』を生み出し、このジャンルに才をみせる若手監督を次々と世に送り出していったのだ。清水崇をハリウッドに紹介した『THE JUON/呪怨』をはじめ、オキサイド&ダニー・パン兄弟の『ゴースト・ハウス』、デヴィッド・スレイドの『30デイズ・ナイト』などは同社の製作でライミの名がクレジットされている。
とりわけライミ、タパートの出世作『死霊のはらわた』を2013年にリメイクしたフェデ・アルバレスに関しては、ふたりとも才能を大いにかっていた。アルバレスはウルグアイ出身で、YouTubeに発表した短編が認められて“ゴースト・ハウス・ピクチャーズ”に招かれた経緯がある。彼は脚本のロド・サヤゲス(同じくウルグアイ出身)とコンビを組んで、ハリウッド・デビューを果たした。ライミとタパートは続いてアルバレスのストーリーテラーとしての能力を評価し、続くサヤゲスとのオリジナル企画の製作にもゴーサインを出した。
かくして誕生したのが本作である。この作品は厳密にはホラーとはいえないが、ラストの趣向をみるとスリラーとして片づけることもできない。ふたつのジャンルのおいしいところを巧みに取り込んだ展開となっている。理屈抜きに惹きこまれ、最後の最後まで予断を許さない面白さ。全米で興行収入チャート2週連続第1位になった理由も分かる。
と同時に、これほどシンプルな設定の作品も珍しいし、これほど魅力を説明しがたい作品もあまり例がない。興を殺がないためにも、紹介するにはネタばらしにならぬように注意が必要となる。
出演は『死霊のはらわた』でアルバレスと組んだジェーン・レヴィに、『プリズナーズ』のディラン・ミネット、『イット・フォローズ』のダニエル・ソヴァット。そして『アバター』のスティーヴン・ラングが加わり、強烈な存在感を披露している。
デトロイトの荒廃した街並みのなか、十代の少女ロッキーは恋人のマーニー、仲間のアレックスとつるんで、盗みを繰り返していた。アレックスの父親が警備員であることを利用して、鍵や警報コードを入手。重窃盗罪にならないように、現金や高額商品を盗まず、携帯電話、保険が掛けられている商品だけを盗んでいた。
ロッキーは一刻も早く、幼い妹と自堕落な両親のもとを離れたかった。そんなおり、マーニーが耳寄りな話を持ってくる。住人の少ない地域にたったひとりで暮らしている盲目の老人が、一人娘を失くした賠償金を隠し持っているらしいというのだ。
これまで現金に手を出さないことを信条にしていたアレックスだったが、ひそかに心を寄せるロッキーに懇願されて実行することになる。
深夜、犬をおとなしくさせ、鍵を使って侵入。警報コードを解除する。ここまでは簡単な作業だった。金庫を探し出し、大金があることを確認する。
だが、老人が目覚めた。彼は湾岸戦争で視力を失った退役軍人だった。凄まじい聴力をもつ老人は侵入者を排除するべく行動に移る。それはロッキーたちにとっては出口のない悪夢の始まりだった――。
どんな趣向で何が起きるのか、詳細は避ける。作品を見て確認していただきたい。小悪党の3人が欲をかいたばかりに、思いもかけない地獄に入り込み、筆舌に尽くしがたい体験をするストーリーだ。盲目の人間の家に賊が侵入し、見えないがゆえに恐怖の仕打ちを受けるサスペンスは、これまで『暗くなるまで待って』を筆頭にいくつもあるが、本作は真逆の設定である。
なにせ盲目であっても、かつて筋金入りの戦士だった男が3人の相手。ありふれた寝室、キッチン、クローゼットが恐ろしい修羅場と化していく。どこに逃げようが音を聞きつけて襲い掛かってくる。気づかれぬように息を止めて、ひたすら逃げようとする3人の姿を、アルバレスはきびきびした語り口で克明に綴っていく。ストーリーの進行につれて、老人の驚嘆すべき正体も明らかになり、いつしかロッキーたちの無事を祈りたくなる。どこまでも予断を許さず、テンションは加速度的に高くなり、最後の最後まで手に汗を握らせる仕上がり。なるほどライミが製作を引き受けたことはある。
出演者はほとんど無名に近いが、それぞれ役にはまっているが、なんといっても老人を演じるスティーヴン・ラングの怪演ぶりが圧巻である。
細かいことをいえないのが残念。スリラーとしては出色の出来。聞けば続編の予定もあるという。決して目立つ意匠ではないが、見て得した気分に浸れる作品。こういうのも正月映画にいい。