『日本で一番悪い奴ら』は滑稽にして哀しいワルばっかりが登場する、語り口の痛快な実話の映画化!

『日本で一番悪い奴ら』
6月25日(土)より全国ロードショー
配給:東映・日活
©2016「日本で一番悪い奴ら」製作委員会
公式サイト:www.nichiwaru.com

 

 昔の東映や日活が生み出していた実録犯罪映画のテイストがあり、ちょっとマーティン・スコセッシの『グッドフェローズ』をほうふつとさせる作品の登場だ。

『凶悪』で2013年の映画賞を賑わした監督・白石和彌が、『任侠ヘルパー』や「相棒」シリーズの脚本で知られる池上純哉と組んで、ノンフィクション「恥さらし 北海道警 悪徳刑事の告白」の映画化を映画会社に提案。原作をもとに、とことん不謹慎で不道徳なキャラクターの一代記としてつくりあげた。

『凶悪』では人間の悪意を容赦のない語り口でリアルに浮き彫りにした白石監督は、本作ではスコセッシの『グッドフェローズ』や『カジノ』のようなアウトローたちの年代記を志向。似たような存在として北海道警を描いた原作に行き当たったと語っている。ただ、当初から不正を憎む“社会派”的な視点を排し、起こった事実からは逸脱しないように心がけながらも、登場するキャラクターの破天荒さを軸にした人間喜劇に仕上げている。事件の当事者で原作者でもある稲葉圭昭の協力も得られたこともあり、どのエピソードも人間臭く、滑稽さに満ち溢れている。

『新宿スワン』でホストを怪演した綾野剛が自堕落な主人公を演じるのをはじめ、出演者はさまざまなジャンルの個性派が選りすぐられている。歌舞伎から中村獅童、『凶悪』でも存在感を示したピエール瀧、『TOKYO TORIBE』にも顔を出したラッパー、YOUNG DAISにお笑いの世界からデニスの植野行雄、TKOの木下隆行。さらにTEAM NACSの音尾琢真、『海猿』の青木崇高。加えて矢吹春奈、瀧内公実が惜しげもなくフェロモンをふりまくという布陣。

 大した望みもなく警察官の道を選んだ男がたどる、猥雑で人間臭い軌跡。ひさしぶりにこういう下世話なエンターテインメントが生み出されたことに拍手を送りたくなる。

 

 大学の柔道部の腕を買われて、諸星要一は北海道警察に就職した。進んで警官になったわけでもなく、25歳のときには全国警察柔道大会で優勝。26歳で北海道警察本部機動捜査隊に配属となる。

 だが機動捜査隊ではミス続きで周囲から疎まれる。悪徳刑事の村井定夫だけは諸星を呑みに誘い、警察での身の処し方をレクチャーした。警察組織では、検挙した犯人の罪状によって警官に与えられる点数を稼ぐことがすべて。そのためには裏社会の協力者S(スパイ)をみつけることだという。

 根が単純な諸星は夜の街で名刺を配りまくる。得た情報で旭新会のやくざを覚醒剤と拳銃不法所持で逮捕し、本部長賞を授与される。さらに旭新会の幹部、黒岩勝典に気に入られ、兄弟分の杯を交わしSになってもらう。その余波は村井におよび、彼は淫行の罪で逮捕される。いっぱしの刑事になった諸星はすすきのの高級クラブのホステス田里由貴を愛人にする。

 31歳で札幌中央署刑事第2課暴力犯係となった諸星はロシア語の堪能な山辺太郎とパキスタン人アクラム・ラシードをSにして、摘発数を稼ぐためにラシードの従兄弟に拳銃を持たせてを出頭させるなど、違法に足を踏み入れていく。

 40歳で北海道警察本部銃器対策課の係長となった諸星は、上司から手柄を上げる相談を受けて、ロシア人からトカレフを購入して、摘発件数を水増しするなどマッチポンプのような活動に転じる。ついには拳銃を調達するために覚醒剤をさばく。ここから、諸星は北海道警察、税関を巻き込んだ“日本警察史上最大の不祥事”になだれこんでいく――。

 

 悪気はないが、倫理観が欠如した男が警察社会に入ると、犯罪に近いだけに手を染めるケースが多くなる。まさしく本作の主人公、諸星の歩んだ“成りゆき人生”はこの範疇に入る。アメリカでもギャングの組織に近い警官ほど汚れやすいといわれる。諸星のようなイノセントな性格の男が、色と欲を得るために“手柄を生みだす”手法を握ったらまさに一気呵成、ズブズブと悪の道をひた走る。

 もっとも、諸星の行動に乗った警察上層部の方がはるかに腐っている。ひたすら手柄を求め、悪に走ってもほっかむり、いささかも責任を取ることがない。まさに善人などひとりも登場しない展開に、いっそ痛快さを覚える。白石監督はいささかのモラルも持ち込まず、諸星と仲間たちが織りなす軌跡を爽快に綴っていく。諸星を含め、Sたち、やくざたちもワルながら愛すべきところもある。極めて人間臭いキャラクターだ。諸星が彼らと出会い、別れる。その顛末を軽快に描ききった白石監督に拍手を送りたくなる。監督は青春映画のつもりというが、人間喜劇として出色である。

 

 出演者では諸星役の綾野剛が青年から中年までの期間を巧みに演じ分け、キャラクターの成長(荒廃)ぶりをみごとに表現してみせる。『リップヴァンウィンクルの花嫁』でもミステリアスなキャラクターを演じて存在感をみせたが、本作での気のいいワルは秀逸だ。

 さらに気のいい山辺太郎を演じたYOUNG DAISに好感を覚え、ラシード役の植野行雄の凄味に驚く。加えて、中村獅童の喰えないやくざぶり、矢吹春奈の脱ぎっぷりの良さに嬉しくなってしまった。

 

 R15+のレイティングなので子供が来ることはないだろうが、これぞ大人がニヤリとするエンターテインメント。筆者の好きな1本だ。