『エンド・オブ・キングダム』はテロに怯える現代を象徴するノンストップ・アクション!

『エンド・オブ・キングダム』
5月28日(土)より、新宿バルト9ほか全国ロードショー
配給:ショウゲート
©LHF Productions,Inc.All Rights Reserved.
公式サイト:http://end-of-kingdom.com/

 

 アクション映画はいかにも起こりそうな状況を設定することで迫真力を増す。現実に起こっては大変だが、起こっても不思議はないと思わせるぐらいのちょっと誇張した設定がベストである。

 さらにアクション映画は、“誰を敵にするか”という命題がある。東西冷戦時にはソ連や中国、次いでアラブ過激派。近年ではCIAの暴走をはじめ、アメリカ内部の陰謀がまことしやかに描かれてそれなりの説得力があったものの、あまりに作品数が増えて新鮮味がなくなった。今や、新鮮な敵、目新しい敵がアクション映画の成功の秘訣といっても過言ではない。

 2013年に登場した『エンド・オブ・ホワイトハウス』は、斬新さで申し分がなかった。なんと、アメリカ大統領官邸であるホワイトハウスが、北朝鮮と思しきテロリスト集団の襲撃を受け、占拠されるばかりか、大統領が人質になるというプロットである。しかも、ワシントン上空に国籍不明の飛行機が飛来して市街を攻撃するわ、テロリストによる自爆攻撃、韓国の首相のボディガードがテロリスト側だったなどなど、アイデアを尽くしてとにかく面白くしようとの思いに溢れていた。

 ジェラルド・バトラー演じる元シークレット・サーヴィス、マイク・バニングが孤軍奮闘。アーロン・エッカート演じるベンジャミン・アッシャー大統領を救出するまでがきびきびと描かれて、作品は内容が内容だけに大ヒットとまではいかなかったが、同じホワイトハウス占拠を題材にした『ホワイトハウス・ダウン』を凌ぐ成績を上げた。

 この健闘に力を得た製作陣がバニングを主人公にした続編としてつくりあげたのが本作である。今度は舞台がロンドン市街全体に広がり、同時多発テロによってターゲットになったアメリカ大統領とバニングが翻弄される展開。スペクタクルとしても前作を遥かに上回るスケールとなっている。

 今度の敵は、世界の警察を任じるアメリカの行動によって家族が悲惨な目に遭ったパキスタンの武器商人ファミリー。莫大な資本力にものをいわせて、綿密なテロ攻撃を実行していく。実際にロンドンやパリでテロ事件が起きる昨今、ここまでのスケールではないにせよ、絵空事といいきれないリアリティが画面に漂う。

 脚本は、前作で一躍、注目を浴びたクレイトン・ローゼンバーグとカトリン・ベネディクトのコンビに、『ブルドッグ』のクリスチャン・グーデガスト、マーベル・コミック・ヒーローの短編『The Punisher: Dirty Laundry』が評価されて抜擢されたチャド・セント・ジョンが参加して練り込んだ。一気呵成、次々と起こる攻撃に対応せねばならない、いわば究極のノンストップ・アクションの趣である。

 監督は、『セッベ』でベルリン国際映画祭最優秀初長編映画賞を手中に収めた、スウェーデン出身のババク・ナジャフィ。シャープな映像感性のもと、ハイテンションを維持し徹底したインパクト主義を貫いている。ぐいぐい惹きこまれる仕上がりだ。

 

 パキスタンの武器商人アーミル・バルカウィの所在地を知った、アメリカ合衆国政府はドローンによる攻撃を実行。ミッションは成功裏に終わったとされた。

 2年後、シークレット・サーヴィスに復職したバニングは、妻の出産を控え、休暇を取ろうと考えていたが、英国の首相が突然この世を去り、アッシャー大統領とともに急遽、ロンドンに向かうことになる。

 各国首脳が続々とロンドンに入り、葬儀が行なわれるセント・ポール大聖堂に向かう。そのときに同時多発テロが開始された。ビッグベン、ロンドン橋など歴史的建造物が破壊され、銃弾が雨あられのように降り注ぐ。日本の首相をはじめ、西洋の首脳たちは片っ端から犠牲となった。

 大聖堂についたばかりのバニングと大統領は直ちに車で逃れようとするが、敵は執拗に追跡を続け、ようやく大統領専用ヘリコプターに逃げ込んだものの、スティンガー・ミサイルを被弾してしまう。止む無く、地上に降りたふたりの前にテロリストが次々と押し寄せる。彼らの目的は大統領を拉致し、テレビカメラの前で処刑することにあったからだ。

 バニングは見知らぬ地域のなかで戦い続けるが、大統領がテロリストに捕えられてしまった――。

 

 冒頭に今回の事件の端緒が綴られた後、映画は本筋に入って加速度を高め、いささかもブレーキを踏むことなく、クライマックスまで疾走する。ジャンル映画は好きでなかったとコメントするナジャフィだが、アクション、スタントのつるべ打ち。あくまでスピードを緩めない語り口が作品の臨場感を維持すると心得ているようだ。

 日本人も見慣れているビッグベンやロンドン橋が爆破されるシーン、市街でミサイルが発射されるシーンはやはり衝撃的で、映像迫力に息を呑む。そうした見せ場をつなぎつつ、テロリストの目的を明らかにしていく仕掛け。テロリストが発する「西欧諸国の友人たちよ、お前たちの時代は終わった」のことばは現在のヨーロッパの状況を見ると、リアルな響きを持って迫ってくる。アジア、中東、アフリカから搾取し続けてきたヨーロッパは、圧倒的な数の難民の問題をふくめて、自分たちの存続の危機にある。閉塞感にみちた状況しかない難民、移民は不満を募らせるだけ。映画のなかでテロリストの数の多さに驚かされるが、現実をみればまったくの絵空事ではないことが分かる。スウェーデンの監督だからこそ、このあたりの感覚はリアルに反応している。

 

 出演者ではバトラーが安定した演技で、頼れるシークレット・サーヴィスを体現すれば、エッカート扮する大統領は今回も大変な破目に陥る。もしシリーズ化されるとしたら、アメリカ大統領受難シリーズと呼びたくなるほどだが、バトラーはプロデュースにも名を連ねているので可能性はゼロではない。この他に、モーガン・フリーマンの副大統領に加えて、『ミュンヘン』のアロン・モニ・アブトゥブール、『TINA ティナ』のアンジェラ・バセット、『ジャッキー・ブラウン』のロバート・フォスターなどのクセモノ俳優たちの競演も愉しい。

 

 もちろん、エンターテンメントであるから、VFXやCGを駆使した、盛大な破壊のスペクタクルを堪能し、バニングのヒロイックな活躍に拍手をおくればいいのだが、ヨーロッパの現在がみえてくるあたりも注目したい作品である。