『ハンターキラー 潜航せよ』はひさしぶりに潜水艦映画の醍醐味が堪能できる快作!

『ハンターキラー 潜航せよ』
4月12日(金)より、TOHOシネマズ日比谷ほか全国ロードショー
配給:ギャガ GAGA★
©2018 Hunter Killer Productions, Inc.
公式サイト:https://gaga.ne.jp/hunterkiller/

 潜水艦は海中にじっと潜み、敵の出方をじっと伺い、時に鋭い牙をむく。だが水中から攻撃できる特性ゆえに、潜水艦は逆にそれが弱点ともなりうる。敵に気取られぬように、息の詰まるような狭い艦内で音を立てずに耐える、乗組員にかかるストレスは相当なものだ。
「潜水艦映画に外れなし」なのは、こうしたサスペンスの要素がふんだんに盛り込めるところにある。戦艦などと異なり、ただ航行しているだけでもテンションを高めることが可能だからだ。ウォルフガング・ペーターセンを注目せしめた1981年作『Uボート』を筆頭に、キャスリン・ビグローの『K‐19』(2002)やトニー・スコットの『クリムジン・タイド』などが、潜水艦を背景にしたサスペンス作品として頭に浮かぶ。
 2018年製作の本作はひさしぶりの潜水艦映画といえる。潜水艦同士の戦いから始まって、機雷と切り立った岩壁に挟まれた通路を潜り抜けるスリル、潜水艦内部の浸水や火事、潜水艦の官長同士の友情、さらには駆逐艦の攻撃をいかに逃れるかまで、見せ場つなぎの趣向で最後まで見る者を楽しませてくれる。
 アメリカ海軍原子力潜水艦の元艦長ジョージ・ウォーレスと作家のドン・キースがが共同で書いた同名小説をもとに、『チェーン・リアクション』の原案を書いたアーン・L・シュミットと『ゴースト・イン・ザ・シェル』のジェイミー・モスが脚色。監督には『裏切りの獣たち』(劇場未公開)が評価された南アフリカの新鋭、ドノヴァン・マーシュが抜擢された。
 出演者は『300<スリーハンドレッド>』や『エンド・オブ・ホワイトハウス』などでアクションスターの地位を築き上げたジェラルド・バトラーを中心に男臭い顔ぶれが揃った。『裏切りのサーカス』のゲイリー・オールドマンに『スーサイド・スクワット』のコモン、『007/ダイ・アナザー・デイ』のトビー・スティーヴンスに加えてスウェーデン版『ミレニアム』3部作に主演したミカエル・ニクヴィストまで、個性派ばかりである。

 ロシアのバレンツ海、コラ半島沖でひそかにロシア原子力潜水艦を追っていたアメリカ海軍原子力潜水艦タンパ・ベイが消息を絶った。
 多々ならぬ事態にアメリカは攻撃用原子力潜水艦ハンターキラーを現地に向かわせる。艦長は叩き上げのジョー・ダラス。彼にとっては初めての航海となる。
 一方、コラ半島の基地にロシアの大統領が訪れることになっていた。アメリカ国家安全保障局のノーキストから示唆されたアメリカ国防省のフィスクはネイビーシールズの4人の偵察部隊を送り込む。
 現地に到着したハンターキラーはタンパ・ベイを発見すると同時に、敵艦の襲撃を受けるが、逆に敵艦を撃沈する。さらに捜索するハンターキラーは沈没した別のロシア原子力潜水艦を発見。なかに生存者がいると分かったダラスは副官の反対を押し切って、ロシアの生存者を救出。その中にはアンドロポフ艦長も含まれていた。
 ネイビーシールズの4人組は首尾よく基地内に潜入。敵の動向を探るうち、ロシアの大統領がクーデターで拉致される事件を目の当たりにする。ロシアの国防相によるクーデターによって戦争は目前に迫っていた。
 アメリカは全面戦争による準備を固める一方、フィスクが提案した大胆不敵なミッションにも許可を与える。ハンターキラーとネイビーシールズ4人組が共同して行なうロシア大統領救出作戦だ。この無謀なミッションに勝算はあるのか――。

 アメリカ海軍の協力のもと、ハンターキラーの異名をもつ攻撃型潜水艦「ヴァージニア」級と同じクラスの潜水艦を撮影に使用。映画のスケールを生み出すのに大きく貢献している。船内のセットもドノヴァン・マーシュが実際に潜水艦に乗り込んだ体験を活かして、綿密に作成したという。その効果は満点、スリリングな潜航シーンで存分に活かされている。
 冒頭から見せ場を次々に用意して、サスペンスを維持。クライマックスまで引っ張る作戦はこの手の潜水艦映画の定石とは言いながら、見る者を惹きこむことに成功している。ドノヴァン・マーシュの演出はとにかくスピーディに語ることを念頭に置いているよう。ストーリーに突っ込みどころはいっぱいあるのだが、とにかく勢いで押し切ろうとの算段だ。
 途中からハンターキラーの航行とネイビーシールズ4人組の地上アクションが交錯するストーリーとなるのだが、映画は見る者の興味をそらさず、テンポよく紡いでいく。リアルに傾きすぎず、ほどよいエンターテインメントにまとめてあるのだ。

 出演者ではジョー・ダラスに扮したジェラルド・バトラーが貫録の演じっぷりだ。今回は潜水艦艦長とあって派手なアクションを披露するわけではないが、タフな容貌を活かした顔の演技で、潜水艦航行のスリルを表現してみせる。頼れる艦長を存在感たっぷりに画面に焼きつける。アクション俳優としてますます円熟している感じだ。
 さらにネイビーシールズのリーダーに扮したトビー・スティーヴンス。いかにもたたき上げのベテラン風の容貌がキャラクターにぴったりとフィットしている。マギー・スミスの息子で、舞台やテレビで活動しているそうだが、こういう個性はアクションには貴重だ。もうひとり、今は亡きアスウェーデンの個性派俳優ミカエル・ニクヴィストが出演していることも嬉しい驚きだった。2017年6月27日にこの世を去っているが、出演作は未だ残っているらしい。ここでのロシア潜水艦の艦長役でも、多少疲れた表情ながら、味わい深い演技をみせてくれている。

 この映画はイギリスを中心に、アメリカと中国の出資で生まれている。こうした現代の政情を反映した作品では、あまりにリアルに過ぎず、痛快な味わいを押し出した幕切れがふさわしい。水中と陸上、二倍楽しめるアクション・エンターテインメントである。