『ブラック・クランズマン』はスパイク・リーらしさが前面に押し出された痛快エンターテインメント!

『ブラック・クランズマン』
3月22日(金)より、TOHOシネマズ シャンテ他全国ロードショー
配給:パルコ
©)2018 FOCUS FEATURES LLC, ALL RIGHTS RESERVED.
公式サイト:http://bkm-movie.jp/

 第91回アカデミー賞で作品、助演男優、監督、脚色、作曲、編集の6部門にノミネートされ、脚本賞に輝いた作品である。脚本と監督を務めたスパイク・リーの個性に貫かれた仕上がりとなっている。
 アメリカ・コロラド州コロラドスプリングスの警察署で初のアフリカ系アメリカ人の刑事となったロン・ストールワースが著した同名作をもとに、チャーリー・ワクテル、デヴィッド・ラビノウィッツが脚色したものを、『シャイラク』(2016、劇場未公開)で脚本を担当したケヴィン・ウィルモットとスパイク・リーが徹底的に手を入れ、エンターテインメントとして楽しめ、しかもスパイク・リーならではのメッセージで貫いた脚本に仕立てた。
 題名が示すように、アフリカ系アメリカ人のストールワースが奇想天外な方法で白人至上主義のKKK団に潜入捜査をするというストーリー。言ってみれば二人羽織よろしく白人(ユダヤ系)と組んで二人一役。電話連絡はストールワースが受け持ち(作戦担当)、実際に会いに行くのはフリップ・ジマーマンが担当する。これで騙される白人至上主義の人間はよほどの間抜けだが、実話だから否定のしようがない。KKK団はとことん馬鹿にされコケにされるのだ。
 出演も個性に富んでいる。まずロン・ストールワースにはジョン・デヴィッド・ワシントンが抜擢された。名前でも分かるようにデンゼル・ワシントンの息子で、今注目されているアフリカ系アメリカ人俳優だ。
 次いで『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』でカイロ・レンを演じたアダム・ドライバーがフリップ・ジマーマンを演じ、『トラフィック』のトファー・グレイス、『ストレイト・アウタ・コンプトン』のコーリー・ホーキンズ、『スパイダーマン:ホームカミング』のローラ・ハリアーなどが脇を固めている。

 1970年代半ば、コロラドスプリングス警察署にロン・ストールワースが志願し、街初めてのアフリカ系刑事となる。
 しかし配属されたのは書類管理の仕事。彼は談判して潜入捜査官に立候補する。たまたまブラックパンサーの集会があり、そこに潜入したものの、女子大生パトリスと親しくなるぐらいで不穏な要素はなかった。
 情報部に異動となったストールワースは新聞広告からアイデアが閃く。広告主はKKK団で、彼は電話で言葉巧みに取り入り、面会をとりつける。そして仲間のユダヤ系のフリップ・ジマーマンを仲間に引き入れる。電話の係はストールワースで、実際に会いに行くのはジマーマンに任せるという、二人一役のアイデアだった。
 うまくいくはずがないという周囲の思いとは裏腹に、KKK団の内情まで知るに至る。さらに最高幹部にまで覚えめでたくなってしまう。ふたりはKKK団のテロ行動を阻止できるだろうか――。

 ストーリーはどこまでも痛快だ。KKK団はどこまでも愚鈍で間抜けだし、それでも正体がばれそうになるサスペンスを盛り込んで、ストールワースとジマーマンの胸のすく活躍を、ユーモアを散りばめて描き出す。もちろん、スパイク・リーがそれだけで終わるはずがない。冒頭、「風と共に去りぬ」のアトランタの南部連合を鼓舞するようなモブシーンからはじめたように、白人至上主義の種をハリウッドが伝播したことを明らかにする。
 さらに作品の中頃に、ハリー・ベラフォンテ扮する老人が、D・W・グリフィスの不朽の名作『国民の創生』が実はKKK団を勢いづかせる遠因となったことをアフリカ系の若者に語るシーンが織り込まれる。その名作によって忌まわしいリンチが起きたことまで明らかにするのだ。
 さらに本編に付加されるかのようにラストは現代のトランプ政権下の白人右翼の暴走だ。トランプ大統領は白人至上主義者であるKKK団の最高幹部デヴィッド・デュークの支持を得るシーンまで紡がれる。
 本筋で白人至上主義者を辛辣に叩き、笑い者にしながら、現実では彼らの行動が未だ支持されている事実を描き、危機を訴える。スパイク・リーの作品を貫くメッセージは一貫しているのだ。
 スパイク・リーのストーリーを面白く綴る技術は円熟味を増し、観客を巧みに惹きこみながら、ゴリゴリしたメッセージまでも飲み込ませる。単なるエンターテインメントでは終わらせない彼の矜持がすっくと立ち上る。本作が脚色賞にノミネートされたのは当然、監督賞や作品賞にも匹敵する仕上がりといいたくなる。

 俳優ではストールワース役のジョン・デヴィッド・ワシントンのとぼけた味わいがいい。父デンゼルとは異なる“陽”のイメージで、これから注目したいキャラクターである。加えてアダム・ドライバーは自然体、口数少ないが頼れるユダヤ人を好演している。
 さらに前述のハリー・ベラフォンテに加えアレック・ボールドウィンも顔を出すなど、キャスティングも充実している。

 スパイク・リーの個性が炸裂した、怒りを内包した痛快エンターテインメント。今年、屈指の作品といいたい。