マーベル・コミックから生まれたヒーローたちの作品は常に爆発的な支持を集める。キャラクターの認知度の高さに加えて、練った脚本とヴィジュアル・インパクトを作品に盛り込んでいることがヒットの要因。最近では、マーベル・ヒーロー同士の競合を防ぐために、公開時期に頭を痛めているという。
これだけの人気を博しているのは、それぞれのヒーローの設定が秀抜なことに起因している。戦うべき敵の設定をはじめ、抱える葛藤をどのように乗り越えていくかが説得力をもって描かれる。しかもそれぞれの作品がシリアスからコミカルまでキャラクターに合致したタッチで描かれるのが嬉しい。キャプテン・アメリカのような悩めるヒーローもいれば、アントマンのように中年男のペーソスを前面に押し出したユーモラスな存在もいる。
本作は2015年に公開された『アントマン』の待望の第2弾となる。もっともアントマンは『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』に登場。アベンジャーズ同士の戦いで、キャプテン・アメリカ側に与した。その経緯を継いで本作は語られていく。
本作ではタイトルでも分かるように、スーパーヒロインのワスプが加わるのが売り。どこまでも頼りないアントマンと完全無欠のワスプがどのようなチームワークで臨むのかが焦点となる。と同時にアントマンのスーツを開発したハンク・ピム博士が研究を続けている理由も明らかになっていく展開だ。
脚本は『スパイダーマン:ホームカミング』や『ジュマンジ/ウェルカム・トゥ・ジャングル』で注目されているクリス・マッケナとエリック・ソマーズ。これに『呪怨館』(劇場未公開・2014)のアンドリュー・バレルと同作のプロデュースに携わったガブリエル・フェラーリ、さらに主演のポール・ラッドも加わって完成させた。
監督は『チアーズ!』や『恋は邪魔者』といったコメディ作品で才能を示し、『アントマン』で名実ともにヒットメーカーとなったペイトン・リード。本作では驚きのヴィジュアルと、大きさを自在にコントロールした奇想天外なアクション、ひねりを利かせたギャグを織り込んで軽やかな語り口を貫いてみせる。
出演者はスコット・ラング(アントマン)役にポール・ラッドが扮しているのをはじめ、ホープ・ヴァン・ダイン(ワスプ)役のエヴァンジェリン・リリー、ハンク・ピム博士のマイケル・ダグラス、さらに悪友役のマイケル・ペーニャまで、第1作から引き続きの顔ぶれ。加えて『レディ・プレイヤー1』で注目されたハンナ・ジョン・カメン、『マトリックス』3部作でおなじみのローレンス・フィッシュバーン、そして『恋のゆくえ/ファビュラス・ベイカー・ボーイズ』のミシェル・ファイファーがキャスティングされている。
アベンジャーズの戦いでキャプテン・アメリカ側についたために、FBIの監視下におかれ謹慎中のスコット・ラングは、不思議な夢をみる。ハンク・ピム博士の妻ジャネットに関するものだった。
その内容を博士の留守番電話に残したため、謹慎中のラングは博士の娘ホープ・ヴァン・ダインに有無を言わさず連れ出される。ラングが独断でアベンジャーズの戦いに参加したため、アントマン・スーツの開発者である博士とホープまで、官憲に追われる身となっていたが、その恨みを超えてラングに協力を求めた。
不思議な夢に登場したジャネットは30年前に“量子の世界”に行方不明となってしまっていた。彼女を救うために、博士は研究を続け、あらゆるものサイズを自在に操るテクノロジーを開発したのだった。彼の研究所もリモコンひとつでスーツケースに収まるようになっていた。
しかも博士は新たなスーツを開発。娘のホープがそれを身につけて、スーパーヒロインのワスプとなった。
博士たちの前に立ち塞がるのは、博士の発明を狙う闇市場のディーラーと、自在に姿を消せる謎の美女ゴースト。驚異の破壊力を持つゴーストも研究所を狙っていた。
アントマン、ワスプ、博士の3人はFBIの追及をかわし、ジャネットを“量子世界”から救出することができるだろうか――。
バツイチで前科があり、アントマン・スーツを身につけなければ極めて普通の感性の男、ラングにとっては娘キャシーだけが生き甲斐。どこまでも頼りないが気のいいヒーロー、アントマンが本作でもその個性を存分に映像に焼きつける。
彼にとっての行動動機は友情や絆。博士やホープに対する尊敬の念。自らの行動のためにお尋ね者になったふたりに引っ張られて、ラングはジャネット救出作戦のために尽力する。この中年男の庶民感性が作品にユーモアを生み、共感度を高めている。ここでは博士の妻への愛に基づいた動機で展開するわけで、いわば平易で万人が共感度をもつ理由であることも、このヒーローにふさわしい。
なにより本作では、優秀な物理学者身体能力も抜群のワスプとタッグを組み、冒険のスケールも大きく広がった。もっとも、その最中にあってもギャグを忘れないのがこのヒーローのいいところだ。
とりわけ、本作は物や人のサイズを縦横に変化させるテクニックを映像の前面に押し出している。アントマンのサイズが極小から極大に変化するのも楽しいが、持ち運びの出来る研究所、車のサイズを変えるカーチェイスなど、ギャグとして楽しい趣向も目白押しだ。ペイトン・リードの演出もどこまでも軽やかで、ユーモア主導。アントマンの中年男のペーソス丸出しのキャラクターを前面に押し出し、微苦笑の絶えない冒険を爽やかに、かつ理屈抜きに痛快に描き出している。
出演者はそれぞれが多少カリカチュアされたキャラクターを、楽しみながら演じている印象だ。芸達者で揃えたキャスティングだから安心してみていられる。なかではジャネットに扮したミシェル・ファイファーが懐かしい。昨年の『オリエント急行殺人事件』にも出ているし、決して出演作品がとぎれていたわけではないのだが、本作の自然体の演じっぷりが嬉しい。
主演のポール・ラッドを筆頭に、エヴァンジェリン・リリー、マイケル・ダグラス、マイケル・ペーニャたちもすっかり作品世界に溶け込んだ印象。笑いをここまで取り込んで、奇想天外なアクションと家族の情を浮き彫りしていく。このヒーロー譚の人気も納得がいく。
いずれのマーベル作品と同様に、本作の最後に次なる作品への橋渡しが用意されている。次にアントマンがどんな冒険の場にいるのか、楽しみでならない。