『マンハント』は思わず香港時代のジョン・ウー作品を思い出す、勢いで疾走するアクション!

『マンハント』
2月9日(金)より全国ロードショー
配給:ギャガGAGA★
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公式サイト:http://gaga.ne.jp/manhunt/

 

ジョン・ウーは、1980年代半ばに『男たちの挽歌』をはじめとする一連のアクションで香港ノワールのブームを巻き起こし、アメリカに招かれて『フェイス/オフ』や『M:I -2』などのヒット作を監督。さらに中国では超大作『レッドクリフ』2部作を手がけるなど、際立った作品歴で知られている。日本にもファンの多い彼の最新作は、日本を舞台にした理屈抜きのアクションだ。

それも日本の小説家・西村寿行の「君よ憤怒の河を渉れ」を題材にしているのだから興味が増す。この題材は中国人に高い認知度を誇っているのだ。

1976年に高倉健主演、佐藤純彌監督によって映画化され、日本では大ヒットとはならなかったが、中国では『追捕』という題名がつけられ、文化大革命以降に公開された初めての外国映画ということで超ヒット。観客動員数8億人を超えたというから驚く。この作品によって高倉健は中国でも広く認知され、好感度の高いヒーローになった。

香港時代に作品を見たジョン・ウーにとって、この作品のリメイクを引き受けたことには万感の思いがあった。高倉健演じたキャラクターが自身の香港ノワールの登場人物に大きな影響を与えたとコメントしている彼は、オリジナルのストーリーから魅力的な部分を抽出しつつ、ウーならではのケレンたっぷりな映像世界を生み出している。

リメイクにあたっては、ジャッキー・チェンの『メダリオン』を手がけ、本作のプロデューサーを務めたゴードン・チャンを筆頭に、『忘れえぬ思い』のジェームズ・ユエン、『ジョジョの奇妙な冒険 ダイヤモンドは砕けない 第一章』の江良至、さらにニック・ワンフン、ク・ゾイラム、マリア・ウォン、ソフィア・イェなど、数多くの才能が結集して脚色がなされた。日本の大阪を舞台に、主人公を中国人弁護士に設定。ウーの独壇場ともいえるスタイリッシュでスピーディなアクションが繰り広げられる展開だ。

スタッフも日本勢が多く、撮影は『るろうに剣心』シリーズで知られる石坂拓郎、美術が『キル・ビル』の種田陽平、音楽に岩代太郎と海外にも認知度の高い存在が選ばれている。

出演は『戦場のレクイエム』のチャン・ハンユーと『三度目の殺人』の福山雅治を軸に、歌手出身で中国のテレビドラマにも多く出演するチー・ウェイ、韓国出身で『第7鉱区』などアクションもこなすハ・ジウォン。ジョン・ウーの愛娘アンジェルス・ウーに加え、日本からは國村隼、竹中直人、倉田保昭、斎藤工、桜庭ななみ、池内博之、TAOなど、多彩な顔ぶれとなっている。

 

天神製薬の顧問弁護士ドゥ・チウは罠にはめられた。前日に製薬会社のパーティに出席した彼が目覚めると、横に社長秘書の希子が死んでいたのだ。彼の指紋のついたナイフがあり、容疑者となることが明白だった。彼は逃走を図る。

動物的なカンと運も幸いして逃走を続けるドゥ・チウの逮捕に向けて、大阪府警が大捜査を展開する。捜査一課係長の矢村聡は部下の百田里香と独断で行動し、もう一歩のところで取り逃す。捜査の進展とともに、ドゥ・チウの容疑に対して違和感を覚えた矢村は、三年前に自殺した天神製薬研究員の婚約者がドゥ・チウに接触していることを掴み、婚約者の実家でドゥ・チウを確保するが、女殺し屋レインをはじめとする暗殺集団が襲撃をかけてきた。

ことここに至って、矢村はドゥ・チウの無罪を確信。巨悪のからんだ事件の真相を明らかにすべく立ち上がる――。

 

冒頭、演歌の流れる小料理屋から滑り出して、一気呵成のジョン・ウーのアクション世界に突入。着物姿の女殺し屋がスローモーション撮影のなかで華麗なガンさばきを披露してみせる。ここからはまさに疾走する語り口を駆使して、罠にはめられた男と追う男の息詰まる追跡劇を紡ぎだす。ジョン・ウーとしては香港ノワール時代の気分に立ち戻って、ひたすらアクション、見せ場を用意して、勢いで貫く作戦。ストーリーの多少の粗は問題にせずに独自の世界を築いていく。多彩なガンプレイの殺陣に乗って、スローモーションを多用し、通常のスピードの撮影を織り交ぜるおなじみの手法に、二丁拳銃もあれば、白いハトも舞う。懐かしいウー演出の数々に、大阪も怪しげな国際都市のイメージに変貌する。

それにしてもよく許可されたものだと思う。大阪中心に、全編、日本でのロケーションを敢行。カーチェイスやジェットスキーのチェイスもスリリングならば、銃撃戦の迫力も群を抜いている。ウーが望む理屈抜きのアクション、スタントがきっちり映像に焼きつけられている。

 

キャスティングが国際色豊かなために、英語、日本語、中国語が交錯するのだが、こんがらがらないのはストーリーがシンプルに突き進むからだろう。ドゥ・チウ役のチャン・ハンユーと矢村役の福山雅治が英語で会話し、レイン役のハ・ジオンは日本語、中国語を駆使する。もちろん、日本人キャストは日本語と英語という風に入り混じるわけで、字幕と耳の両方が求められるわけだが、逃げる者を追うというストーリーの原点たるダイナミズムに惹きつけられ、最後の最後まで気にならない。福山の英語も決して悪くない。また、海外作品によく顔を出す國村隼、香港・中国映画はおなじみの倉田保昭、池内博之が顔を揃えると、なぜかニヤリとさせられる。ここに選ばれた日本人俳優たちが“日本”のイメージを体現しているのか。

 

どこまでも軽快なエンターテインメントに仕上げたジョン・ウー、原点に戻ったか。中国資本が歓迎する勧善懲悪に徹し、監督としての技量を再認識させてくれた。まずは一見をお勧めしたい。