『ダークタワー』はスティーヴン・キングの壮大な傑作小説を映像化したアクション・ファンタジー!

『ダークタワー』
1月27日(土)より、丸の内ピカデリーほか全国ロードショー
配給:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
公式サイト:http://www.dark-tower.jp/

 

世界幻想文学大賞に輝くこと3度、SF・ファンタジー作品に贈られるヒューゴー賞、優れた短編小説に贈られるオー・ヘンリー賞をはじめ、ホラー、ファンタジー小説を対象にしたブラム・ストーカー賞では6度という圧倒的な受賞歴が証明するごとく、スティーヴン・キングはアメリカを代表する作家である。モダンホラーの第一人者ともいわれるが、その卓抜した描写力、構成力によって読者をグイグイと惹きこむ才能は群を抜いている。

彼の小説群はとりわけ映画人の創作意欲を刺激するようで、昨年大ヒットした『IT/イット“それ”が見えたら、終わり』をはじめ、リメイクも生まれた『キャリー』、『シャイニング』、『ミザリー』、あるいは『スタンド・バイ・ミー』や『ショーシャンクの空に』などの非ホラー作品まで、映像化作品はテレビ映画も含めると膨大な数に及ぶ。自ら監督の経験もあるキングはすべての映像化作品を気に入ったわけではないというが、映像化作品の大半はキングのストーリーテラーとしての魅力を継承している。

近年では息子オーウェン・キングとの共作など、あくことのない創作活動を続けるキングだが、その作品群のなかで一際、輝きを放っているのが「ダークタワー」シリーズだ。大学時代から構想を育み、1982年に第1弾「ガンスリンガー」を発表以来、22年の歳月をかけて完結させた全7部からなる大ロマンで、キング自身がライフワークと語っている。

小説の設定では、現実世界とつながる“中間世界”があり、中間世界にあるダークタワーが双方のバランスを保っている。この設定のもと、タワーを護ろうとする戦士、ガンスリンガーと、破壊を目論む“黒衣の男”の攻防を軸にした壮大なストーリーが展開する。

あまりに濃密にして広がりのある世界ゆえに映像化は困難といわれていたが、果敢に挑戦するのがアメリカ映画界。『ビューティフル・マインド』や『ダ・ヴィンチ・コード』、『ラッシュ/プライドと友情』など、多彩な作品歴を誇るロン・ハワードがプロデュースを引き受けて映画化が決定した(当初は監督することを検討していたという)。

膨大な原作を映像に適した脚本にまとめ上げたのは、『ビューティフル・マインド』の脚本家アキヴァ・ゴールズマン(製作にも名を連ねている)を筆頭に、『フィフス・ウェイブ』のジェフ・ピンクナー(製作総指揮も兼務)、デンマーク出身で『アフター・ウェディングなどで知られるアナス・トマス・イェンセン、そして『ミレニアム ドラゴン・タトゥーの女』の脚本で注目されたデンマーク出身のニコライ・アーセルからなる脚本チーム。脚色作業にはキングも全面的に協力した。

監督に抜擢されたのは脚本にも関わったニコライ・アーセル。『ロイヤル・アフェア 愛と欲望の王宮』などで監督経験もあり、なにより子供時代から原作に夢中だったこともあって抜擢された。原作のエッセンスを抽出し、スピーディな語り口で手に汗を握る映像を貫いてくれる。

キャスティングも凝っている。『プロメテウス』や『パシフィック・リム』で知られるイドリス・エルバが勇士ガンスリンガーを演じ、黒衣の男には『ダラス・バイヤーズクラブ』でアカデミー主演男優賞に輝いたマシュー・マコノヒーが扮する。

これにテレビシリーズ「女医フォスター 夫の情事、私の決断」で注目されたトム・テイラー、『アベンジャーズ;エイジ・オブ・ウルトロン』のクラウディア・キムことキム・スヒョン、『キャビン』のフラン・クランツ、『ネオン・デーモン』のアビー・リー、そして『ウォッチメン』のジャッキー・アール・ヘイリーまで個性派俳優が揃っている。

 

ニューヨークに住む少年ジェイクは悪夢に悩まされていた。“巨大なタワー”に“拳銃使い(ガンスリンガー)の戦士”そして“魔術を操る黒衣の男”“皮膚に継ぎ目のある人間”が登場し、生々しい感触が目覚めた後も残る。ジェイクの母と継父は夢のリアリティを訴える彼を信じようとせずに、クリニックに送り込もうとする。

迎えに来たクリニック職員に“継ぎ目”のあることを発見したジェイクは逃走する。逃げ込んだ廃屋に異世界の入り口を見つけた彼は悪夢が現実のものと知る。

ジェイクが飛び込んだ異世界では邪悪なものから世界を護るタワーが存在し、それをめぐって、護ろうとするガンスリンガーと、破壊を企てる黒衣の魔術師が壮絶な戦いを繰り広げていた。ガンスリンガーと行動をともにしたジェイクは、自らが重要な役割を担っていることを知る――。

 

原作者キングはこの物語を書くにあたり、J・R・R・トルーキンの「指輪物語」とセルジオ・レオーネの『続・夕陽のガンマン』、ロバート・ブラウニングの詩「チャイルド・ローランド暗黒の塔に来たり」に影響を受けたという。さしずめガンスリンガーはクリント・イーストウッドがかつて演じた“名無しの男”のイメージなのか。長い時間をかけて書き続けられたストーリーには、キング自身の思いや興味の軌跡が反映されている。

あまりに膨大で濃密な世界(原作は7部構成、別巻1冊で構成されている)をどのように映画としてまとめ上げるか。アキヴァ・ゴールズマン、ジェフ・ピンクナー、アナス・トマス・イェンセン、ニコライ・アーセルの脚本家チームは、小説全体を読み込んだ上で、キングの協力のもとで複数の巻からストーリーの要素を引き出す戦略に出た。キャラクターやエピソードなど刈り込みすぎたきらいがあり、原作ファンは不満だろうが(実際、アメリカの興行成績が芳しくない理由になっている)、原作を読まなかった観客にとっては冒険ファンタジーとして楽しめる出来にはなっている。理屈抜きに疾走する語り口でストーリー世界の奥行きの広さを暗示しつつ、最後までスピードを緩めない。多少、単純化しすぎた感はあるものの、95分という長さは疲れない。

 

なにより、キング自身が製作に積極的に協力した。その一端がキャスティング選考に参加したことで、ガンスリンガー役のイドリス・エルバ、黒衣の男役のマシュー・マコノヒーに関してはキングも大いに気に入ったという。とりわけマコノヒーは小説執筆時にイメージしたキャラクターの通りで、喜びとともに世界を見ている凶悪さが表現できているとコメントしている。イドリス・エルバの精悍さと対照的なカリスマチックな魅力を画面に漲らせているあたりはさすがというべきか。

 

シリーズ化されてもいいような幕の下ろし方になっているが、アメリカの興行成績をみればかなり難しそうだ。何はともあれエールを送りたい。続編に期待と書いておく。