『探偵はBARにいる3』は往年のプログラム・ピクチャーの楽しさを蘇らせた、軽ハードボイルド快作!

『探偵はBARにいる3』
12月1日(金)より、丸の内TOEI、TOHOシネマズ日本橋ほか全国ロードショー
配給:東映
©2017「探偵はBARにいる3」製作委員会
公式サイト:http://www.tantei-bar.com/

 

かつて映画が娯楽の王様であったころ、映画会社は週替わりで作品を量産していた。もちろん、社会派作品や巨匠の問題作はあったが、多くの作品群は華やかなスターの競演や痛快で平易なストーリーに彩られ、確かに万人に向けてエンターテインメントとしての輝きを放っていた。翻って、現在は1本立てロードショーが主流。各作品がいかにも大作らしい意匠で勝負せねばならない。ナンセンスなコミックが原作であろうとも、スケール感や大作感を打ち出さなければならない風潮にはいささか違和感を覚える。これもまた映画が娯楽のワン・オブ・ゼムになったためだろうか。

たまには『男はつらいよ』や『釣りバカ日誌』シリーズのような、予定調和で観客が安心して楽しめるプログラム・ピクチャーの鑑的な作品をみたい。空疎な大作ではなく、ピリリとスパイスの利いた活きのいい作品を待望したくなる。

その願いに応えるかのように2011年に登場した『探偵はBAR にいる』は1970年代の日本映画の活劇に近い路線を狙い、プログラム・ピクチャーのテイストが横溢した快作だった。

東直己の「ススキノ探偵」シリーズに題材を求め、脚本が『ALWAYS 三丁目の夕日』シリーズやテレビドラマ「鈴木先生」などで知られる古沢良太。監督が人気テレビシリーズ「相棒」で知られる橋本一という顔ぶれで、しかもキャスティングが心憎かった。『アイアムアヒーロー』やNHK大河ドラマ「真田丸」などで、今や北海道を代表する人気俳優となった大泉洋と、『舟を編む』や『散歩する侵略者』などで独特の存在感をみせる松田龍平というフレッシュな顔合わせで勝負したのだ。札幌の繁華街を舞台にした北海道民を感涙させる内容でスマッシュ・ヒットを飾るとともに、シリーズ化されることとなった。2013年には第2弾『探偵はBARにいる2 ススキノ大交差点』が劇場公開され、これもまた好評のうちに迎えられ、第3弾の登場が待ち望まれてきたのだ。

それから4年の歳月を経て本作の登場となる。その間の大泉洋、松田龍平の忙しさは作品歴からも伺えるが、本シリーズの入れ込みぶりは忘れていなかった。脚本の古沢良太は大泉洋とディスカッションを重ねて、自由な発想で脚色。監督は橋本一に代わり、NHK連続テレビ小説「あまちゃん」や『疾風ロンド』を手がけた吉田照幸が抜擢され、シリーズに新たな化学変化をもたらしている。

本シリーズの話題は各作品に美貌のヒロインを擁すること。本作ではテレビドラマ「家売るオンナ」などで個性を発揮した北川景子がキャスティングされた。加えて『苦役列車』をはじめ着実に女優の道を歩む前田敦子や、もはやどんなキャラクターでもお任せのリリー・フランキー、バラエティでも活躍する鈴木砂羽など、ゴージャスなキャスティングとなっている。

もちろん、田口トモロヲやマギー、安藤玉恵、篠井英介、松重豊などのレギュラー陣もきっちりと脇を支えている。

 

ススキノのバー「ケラー オーハタ」をアジトにする探偵のもとに、助手の高田の後輩から依頼が舞い込んだ。失踪した恋人・麗子を探してほしいというのだ。

軽い気持ちで引き受けた探偵は麗子がアルバイトをしていたモデル事務所ピュアハートに行きつく。ここはモデル事務所を装った風俗店だった。探偵はピュアハートのオーナー女性とすれ違い、かすかな既視感を覚える。

オーナーは屈強な子分を引き連れて探偵と高田の前に現れ、叩きのめす。彼女の背後には札幌の裏社会で暗躍する北条グループの社長・北条がいた。おりしも、グループが関係されるとみられる殺人事件が起きていた。

やがて探偵は、オーナーがかつて娼婦だったモンローに可愛がられていた女性、マリであることに気づく。マリは積極的に探偵に近づき巧妙な罠を仕掛ける。まんまと罠にはまった探偵は北条に追われ、何とか状況打開するべく奔走することになる――。

 

いつもながら、札幌の繁華街、ススキノを中心とした北海道ロケーションが作品の雰囲気を盛り上げる。寒さが際立つ背景に、スリリングで哀しみも織り込まれたストーリーがぴったりはまっているのだ。探偵に扮した大泉洋のユーモアとペーソス、高田役の松田龍平のとぼけた味が、繰り広げられる事件の陰惨さを中和し、映像に軽味を持たせている。このシリーズの成功は、ふたりを抜擢したキャスティングの妙であり、ふたりの個性を活かしきった構成にある。

監督の吉田照幸は過去2作を手がけた橋本一よりも、ふたりの会話のおかしさを前面に押し出し、周囲の人間たちとの微妙な関わりを活写する。橋本演出よりもハードボイルではなくなったが、シリーズとしての深みは増した印象だ。『疾風ロンド』ではストーリーを収斂しきれなかったキライがあったが、本作では探偵を軸において、堂々たるアクション演出をみせてくれる。

 

もちろん、大泉洋、松田龍平のパフォーマンス映画の最大のみどころである。大泉洋は44歳になり、中年としての哀愁が容姿から漂ってきたし、10歳年下の松田龍平にも少し落ち着きが出てきた。コンビとして阿吽の呼吸になりつつある。さらなる競演が望まれる。

シリーズは常に過去を持ったヒロインが登場するが、ここでは北川景子扮するマリが探偵を惹きこんでいく展開となる。北川景子の美貌が冴える、陰のあるキャラクター。濡れ場もあればクライマックスのあっと驚く趣向も嬉しい、魅力的なファム・ファタルぶりだ。

また作品によって千変万化のリリー・フランキーもサディスティックな黒幕を気分よさそうに演じているし、鈴木砂羽は貫録のゲスト出演で、前田敦子のちょいとネジの外れた女子大生・麗子もいい。レギュラー陣も加えて、キャストはいずれも好演だ。

 

こういう小味なハードボイルド・エンターテインメントがもっと数多く製作されればいいのにと思う。ともあれ次作が楽しみになる仕上がりである。注目されたい。