『ローガン・ラッキー』は、一攫千金を夢見る庶民が仕掛ける、痛快クライム・エンターテインメント!

『ローガン・ラッキー』
11月18日(土)より、 TOHOシネマズ 日劇ほかにて全国ロードショー
配給:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
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公式サイト:http://www.logan-lucky.jp/

 

奇想天外な計画で大金やお宝を手に入れるクライム・エンターテインメントといえば、古くは1960年のイギリス映画『泥棒株式会社』や1964年作品『トプカピ』、イタリアの1965年作『黄金の七人』、あるいは1969年の『ミニミニ大作戦』やドナルド・E・ウェストレイク原作になる1971年の『ホット・ロック』などが頭に浮かぶ。いずれも人を喰ったストーリーとユニークなアイデアで見る者を十分に楽しませてくれた。

だが、時代がどんどん世知辛くなったせいか、楽しい泥棒映画はあまり製作されなくなった。わずかにジョージ・クルーニーやブラッド・ピット、マット・デイモンなどが一堂に介した『オーシャンズ11』シリーズが気を吐いたが、このシリーズはオールスターの顔ぶれを楽しむ映画。描かれる計画自体が緩いのはご愛敬といった感じだった。気の合う仲間たちが肩の凝らない設定を楽しんで演じている風情だった。

本作はその『オーシャンズ11』シリーズを手がけたスティーヴン・ソダーバーグの監督作品だが、軽快にして痛快、とことん勢いのある演出で疾走してみせる。それもそのはず。映画界から引退を宣言したソダーバーグが本作の脚本を手にするや、監督したくてたまらずに宣言を撤回したほど惚れ込んだのだから、演出には否が応でも力が入る。

 

それにしてもソダーバーグという人は起伏に富んだ道を歩んできた。1989年の監督デビュー作『セックスと嘘とビデオテープ』がカンヌ国際映画祭パルム・ドールに輝き、彼は一躍、注目を浴びたが、続く『KAFKA/迷宮の悪夢』が評価されず、長いスランプに陥った。1998年のジョージ・クルーニー主演作『アウト・オブ・サイト』、翌年の『イギリスから来た男』、2000年のジュリア・ロバーツ主演作『エリン・ブロコビッチ』から再評価され、同年の『トラフィック』が絶賛されてアカデミー監督賞に輝いた。

以降は『オーシャンズ11』シリーズで興行的に維持しながら『チェ』2部作や『コンテイジョン』のような意欲作を手がけるようになった。前述の引退宣言は映画界よりもテレビ界で映画をつくるほうが自由でいられると判断したからだという。彼は豊富な映画の知識と、演出力によって多くの映画人、俳優から敬愛されている。

そんなソダーバーグが惹かれた脚本はレベッカ・ブラントという女性が書いたことになっている。彼女がソダーバーグにこの脚本を監督する人間を探してくれと頼み、内容に惚れ込んだソダーバーグ自身が名乗りを上げたといわれている。ただ、ブラントはどうも匿名らしく、ソダーバーグ自身が多くの別名があることから、本人ではないかという説もある。

本作はアメリカ映画のメジャースタジオに頼らずに資金を調達し、ソダーバーグの新会社フィンガープリント・リリーシングがブリーカー・ストリートとともにアメリカ国内の配給を行なった。内容の自由を守ることができる、独立系映画製作のニューモデルを、ソダーバーグは本作で実現できたと語っている。どうも引退撤回は、このシステムを成立できたからだと思われる。

ともあれ、そうした経緯の作品は、普段は映画に登場することが少ないアメリカ合衆国南東部ノースカロライナの庶民たちに焦点を当てている。労働者階級に属する人間たちが一攫千金の計画を遂行する展開だ。狙うはレース場シャーロット・モーター・スピードウェイの地下金庫。顧みられることもない底辺の人間たちが知恵と行動力で勝負する。痛快さの所以である。

出演は『マジック・マイク』でソダーバーグと親交を結んだチャニング・テイタムと、『パターソン』の存在感が忘れられないアダム・ドライヴァー。エルヴィス・プレスリーの孫娘ライリー・キーオに『007 スペクター』などの6代目ジェームズ・ボンド俳優ダニエル・クレイグが加わり、『テッド』の仕掛人セス・マクファーレン、『アサシン クリード』のブライアン・グリーソン、『ハンガーゲーム』のジャック・クエイド。さらにトム・クルーズの前夫人のケイティ・ホームズや、『ミリオンダラー・ベイビー』などで『2度のアカデミー主演女優賞を獲得したヒラリー・スワンクも顔を出す。これだけの顔ぶれを揃えられたのもソダーバークならではだ。

 

ジミー・ローガンは、高校時代は将来を嘱望されるアメリカン・フットボールのスター選手だったのに、膝を故障してプロの道を断たれ、今や炭鉱の仕事もままならずクビになってしまった。弟のクライドはイラク戦争で片腕を失い、しがない酒場のバーテンダーとなっている。ローガン家のジンクスは「不運は連鎖する」だった。

金なし、職なし、家族に捨てられたジミーはどん底生活から逃れるため、奇想天外な強奪計画を立てる。ターゲットは全米最大のストックカーレースが行われるシャーロット・モーター・スピードウェイの地下金庫。

ふたりは運転のうまい美容師の妹メリーを仲間に引き入れ、さらに刑務所に収監中の爆破のプロ、ジョー・バングを勧誘。彼を当日に脱獄させ、また刑務所に戻す計画だ。バングのふたりの弟も加わって、着々と準備が進み、いよいよ決行の日。彼らは突然のトラブルに見舞われる――。

 

アメリカの実相は、ニューヨークやロサンゼルスなどの都会にあるのではなく、不況にあえぐ田舎町にあることを、ソダーバーグは本作で浮かび上がらせる。登場人物はいずれもシンプルであるがゆえに、どん底暮らしを余儀なくされている。社会的な保護があるわけでもなく、州政府も連邦政府も彼らに手を差し伸べるわけでもない。お上に頼らず、手っ取り早く豊かになる手段に走っても、もともと失うものがないのだ。アメリカではこうした庶民が大多数を占めている。ソダーバーグは彼らに寄り添い、心情を映像に織り込むことでストーリーにリアリティを与えている。

登場人物のもっさり感は近年の作品のなかでも群を抜いている。動きも頭のめぐりも今ひとつ鈍い彼らが、本当に計画通りに実行できるのかというサスペンス(!?)で、ストーリーを引っ張り、随所にユーモアを織り込む。『オーシャンズ11』シリーズのように気取ったところもなく、ひたすら市井の善人たちが無い知恵を絞りだした大計画。見る者が共感し応援したくなる要素がきっちりと描かれている。ラストのオチもクライム・コメディとして気が利いている。アメリカで評判となったのも分かる、ソダーバーグ久々のヒットである。

 

もちろん、出演者が作品の魅力を高めている。足を引きずる兄ジミーにはブルーカラーがよく似合うチャニング・テイタムがのんびりした雰囲気を画面に湛えれば、弟クライドのアダム・ドライヴァーは茫洋とした存在感を披露する。いかにも田舎町のねえちゃんのイメージを妹役のライリー・キーオが具現化すれば、野獣のようだが決して人は悪くない爆破のプロをダニエル・クレイグが豪快に演じる。ジェームズ・ボンドとは対極、粗暴ながら兄弟想いでチーム思いのキャラクターを気持ちよさそうに演じている。

 

ソダーバーグは笑いとサスペンスでグイグイと押し切る。音楽もジョン・デンバーの「Some Days Are Diamonds (Some Days Are Stone)」を効果的に使うのをはじめ、キャラクターや地域にふさわしいドクター・ジョン、ボ・ディドリー、クリーデンス・クリアウォーター・リバイバルなどの曲を選りすぐってみせるのもさすがのセンスである。

 

出演者の個性と出色のストーリー、気持ちよく疾走する語り口に拍手を送りたくなる。往年のクライム・エンターテインメントをほうふとさせる仕上がりである。