『マイティ・ソー バトルロイヤル』は豪放磊落な神ヒーローが大暴れする、痛快超大作!

『マイティ・ソー バトルロイヤル』
11月3日(金・祝)より、TOHOシネマズ日劇ほか全国ロードショー
配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン
© Marvel Studios 2017
公式サイト:http://marvel.disney.co.jp/movie/thor-br.html

 

アメリカン・コミックの雄マーベルを原作としたスーパーヒーローたちの作品群は、今やすっかり映画界に定着している。アイアンマンやスパイダーマン、キャプテン・アメリカにマイティ・ソー、ドクター・ストレンジなどなど、枚挙の暇がない。しかも、それぞれの活躍を描いた作品に加えて、ヒーローたちが同一の世界を共有するというMCU(マーベル・シネマティック・ユニバース)の発想のもと、彼らが一堂に介する『アベンジャーズ』のような作品も生まれるようになった。

こうした状況になると、タイトルロールとなるヒーローの作品に別なヒーローが顔を出す趣向も多々生まれる。数あるヒーローのなかで、比較的頻繁に顔を出しているのはマイティ・ソーだろうか。北欧神話をアレンジした神の世界の最強の戦士ソーが登場したのが2011年のこと。第1弾『マイティ・ソー』では、傲慢さゆえに無用の戦いを引き起こし、神の世界“アスガルド”を追放されて、地球で成長するソーの姿が描かれた。

王家の家族の骨肉の争いを軸にしたストーリーということで、監督にウィリアム・シェークスピアの戯曲の映画化を得意にするケネス・ブラナーが起用されたのはベストの選択だった。豪放で無神経なソーと知略に長けた弟ロキとの葛藤を軸に壮大なアクション世界が綴られた。ロキとの戦いはヒーローたちが集結した『アベンジャーズ』でも続き、ロキを演じたトム・ヒドルストンの人気上昇とともに、その役割も大きなものになっていった。

さらに2013年の『マイティ・ソー/ダーク・ワールド』でもロキは登場。愛嬌のある邪悪さを失わずにソーの世界に陰影をつける役割として定着した。監督はテレビシリーズ「ゲーム・オブ・スローンズ」の演出が評判を呼んだアラン・テイラーに変わったが“アスガルド”を揺るがす危機をタイトに描いて、前作の雰囲気を継承してみせた。

ソーは“アベンジャーズ”シリーズ第2弾『アベンジャーズ/エイジ・オブ・ウルトロン』でも大暴れ、ノリの良さを披露した。『ドクター・ストレンジ』にも顔を出したが、その経緯は本作で明らかになる。

ソーのシリーズ第3弾にあたる本作でも、基本的なコンセプトは変わらない。アスガルドを背景にした骨肉の争いである。なんとソー、ロキも知らなかった最悪、最強の姉ヘラがアスガルドを我が物にせんとする。

このストーリーは、『マイティ・ソー/ダーク・ワールド』の製作総指揮を担当したクレイグ・カイルと同作の脚本に参加したクリストファー・ヨスト、テレビシリーズ「エージェント・カーター」の脚本で注目されたエリック・ピアソンが原案を練りこみ、ピアソンが脚本にまとめあげた。なにより本作の注目は監督にタイカ・ワイティティが抜擢されたことだ。

ワイティティはニュージーランド出身の俳優・コメディアン。2015年の長編監督・主演作品『シェアハウス・ウィズ・ヴァンパイア』が評判となり、今回の抜擢となった。この起用によって、ソーの世界がいっそう明るく痛快になったことは事実だ。

出演は、ソー役のクリス・ヘムズワース、ロキ役のトム・ヒドルストンに加えて、ハルク役のマーク・ラファロ。悪の女神ヘラには『キャロル』のケイト・ブランシェットを配し、女戦士ヴァルキリーには『クリード チャンプを継ぐ男』のテッサ・トンプソン。シリーズの常連アンソニー・ホプキンス、イドリス・エルバ、そして浅野忠信も顔を出す。さらに『スター・トレック』のカール・アーバンやドクター・ストレンジ役のベネディクト・カンバーバッチも登場すれば、懐かしい『ロスト・ワールド/ジュラシック・パーク』のジェフ・ゴ-ルドブラム、そして監督作品のすべてに出演するワイティティも囚人のコーグ役を熱演している。豪華絢爛、ツボを押さえたキャスティングである。

 

人工知能ウルトロンとアベンジャーズとの戦いから2年後、故郷アスガルドに戻ったソーは義弟ロキが父オーディンを地球に追放したことを知る。

偶然に出会ったドクター・ストレンジにオーディンの居場所を知らされ、ソーとロキは父と久々の再開を果たす。オーディンはふたりに“世界の終わり”が迫ってくることを伝える。

ソーの姉、死を司る女神ヘラが復活したのだ。その言葉とともに姿を現したヘラはソーの究極の武器“ムジョルニア”を簡単に破壊すると、ふたりを宇宙の辺境に弾き飛ばす。ヘラはアスガルトの征服に乗り出す。ソーの忠実な部下たちを容易く倒し、着々と野望を実現させていく。

一方、辺境の惑星サカールに辿り着いたソーは、ヴァルキリーに捕まり、惑星の独裁者グランドマスターの剣闘士に加えられてしまう。そのメンバーのなかにはハルクの姿もあった。ハルクとの戦いを乗り越え、ハルクを元のブルース・バナーに戻したソーは、ヘラを倒すためにアスガルドに向かう。帯同するのはバナー、ロキ、ヴァルキリー。ソーはメンバーを“リベンジャーズ”と名付ける。

だが、ヘラの強さは想像を超えるものだった――。

 

神の世界の脅威は係累にあるというパターンは本作でもきっちりと踏襲される。神の戦士と互角以上に戦えるのは神しかいないという理屈だ。本作では、世界を統一するためにオーディンに利用され閉じ込められていたソーの姉ヘラが復讐に燃えての登場となる。

その強さはソーの究極の武器ムジョルニアを簡単に破壊することでも分かる。これまでの敵ロキはどこか抜けたところがあったが、ヘラは邪悪の塊にして怒りに燃えている。ソーにとっては最大の難敵という位置づけだ。ことここに至って、ソーはロキと共闘することになる。

ソーのシリーズではロキが最高のトリックスター、憎めないが油断はならないキャラクターとしてすっかり人気を博している。本作ではさらに拍車がかかる。ソーとロキのやりとりは漫才さながら。ボケとツッコミよろしくユーモアあふれるやりとりが披露される。タイカ・ワイティティを監督に据えたことで、ストーリーの随所に笑いが秘められている。ソーとロキのみならず、ソーとブルース・バナーとの会話。ジェフ・ゴールドブラム扮するサカールの独裁者の間抜けぶりまで、シリアスな設定の中和剤として笑いが効果的に使われている。マーベルの映画化作品のなかでは『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』のテイストに近いだろうか。

ワイティティの演出は軽快に疾走する。ソーがサカールで囚われ、イライラさせながらも巧みにギャグでつなぎ、飽きさせない。クライマックスのアスガルドの戦いに至っては理屈抜きのアクションで紡いでいく。

 

ソーを演じるクリス・ヘムズワース、ロキを演じるトム・ヒドルストンもキャラクターに慣れてみごとなパフォーマンスをみせてくれる。豪快で無神経なところのあるソーと、隙をみせると陥れるロキがまさに適役といいたくなる。

ヘラに扮したケイト・ブランシェットも邪悪な女神を迫力いっぱいに演じ切る。演技力に定評のある彼女はいかにもすさまじい力を秘めていそうで、これだけのヒーロー、ヒロインが束になっても互角で戦うキャラクターに説得力を与えている。本作だけで終わるのかどうか。堂々たる悪役ぶりである。

 

本作には『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』につながる要素が散りばめられている。その意味でも見逃せない。