『マーティ・シュプリーム 世界をつかめ』は卓球に生命を賭けた男の痛快一代記!

『マーティ・シュプリーム 世界をつかめ』
3月13日(金)より、 TOHOシネマズ 日比谷、TOHOシネマズ シャンテ、109シネマズプレミアム新宿ほか、全国ロードショー
配給:ハピネットファントム・スタジオ
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公式サイト:https://happinet-phantom.com/martysupreme/
 

 最近、仕事ぶりが気になるアメリカ男優となれば、ティモシー・シャラメをおいてない。2017年に『君の名前で僕を呼んで』で22歳の若さでアカデミー主演男優賞にノミネートされ、一躍メジャーな存在になり、『ストーリー・オブ・マイライフ わたしの若草物語』や『DUNE デューン 砂の惑星』などの話題作、SF大作に出演。2024年の『名もなき者/A COMPLETE UNKNOWN』では20歳代で2度のアカデミー賞®主演男優賞にノミネートされるという快挙を成し遂げた。とりわけ『名もなき者』では実存するシンガー、ボブ・ディランに扮し、歌まで披露したのだから恐れ入る。

 向かうところ敵はなし。どんな役柄でも巧みに演じ切るシャㇻメが本作で挑んだのは、1950年代に活動した卓球選手。実存したマーティ・リーズマンをモデルに自由奔放にストーリーを膨らまして、大ぼら吹きの夢想男が自分の夢に生きる姿を紡ぎ出す。いわゆるクズ男ながら、自分の夢に正直な男だ。とても褒められた男ではないが、シャラメが演じると血肉の通った最低男になる。監督したジョシュ・サフディの目論見通りだろう。

 サフディは『アンカット・ダイヤモンド』や『グッド・タイム』などで知られる注目株。これまで弟のベニーとともにサフディ兄弟として活動してきたが、独立して製作するようになった(弟は5月に公開予定の『スマッシング・マシーン』の監督を務めている)。

 サフディはすべての長編作品でチームを組んでいるロナルド・ブロンスタインとともにリーズマンの軌跡を奔放にドラマ化する。

 野心に燃えて他人を足蹴にすることも厭わない。自分勝手なエゴイスト。1952年を背景に、成り上がるために口八丁手八丁。だが卓球だけが得意、全力を傾けて優勝を目指す男伊達。サフディは『セブン』や『愛、アムール』などで知られる撮影のダリウス・コンジ、『マルホランド。ドライブ』などのプロダクション・デザインのジャック・フィスクをそれぞれ起用して、見事に時代の雰囲気を映像に焼き付けている。舞台がニューヨーク、ロンドン、日本と変わるなか、巧みに時代の色を再現してみせる。

 なによりシャラメの演技に呼応するためキャラクターに応じたキャスティングが組まれている。主人公が篭絡する女優に『恋におちたシェークスピア』のグウィネス・パルトロウが選ばれ、さらに恋人役に『アンティル・ドーン』のオデッサ・アザイオン、監督のアベル・フェラーラ、アーティストのタイラー・オコンマなど、個性本位の顔ぶれである。なお宿敵エンドウには川口功人が起用されていることを付け加えておく。

 1852年、ニューヨークのロウアー・イーストサイドの靴屋で販売員として働いているマーティ・マウザーはハッタリで靴を売りまくり、私生活では既婚者を恋人にして、無責任に日々を送っていた。

 仕事は無責任でいい加減だが、唯一、卓球だけは真剣そのもの。当時はマイナースポーツといわれたが、マーティは向かうところ敵なし。世界チャンピオンになることが目標だった。

 ロンドンの世界大会に出場するために、靴屋の金庫から金を盗み、あの手この手を使って世界卓球選手権に出場する。卓球協会の用意した合宿所に泊まらず、高級ホテルに宿泊したマーティはそこで引退した女優を見初め、巧みに関係を結ぶ。

 だが、選手権はマーティの思ったようにはいかなかった。彗星のように現れた日本人選手エンドウに決勝で惨敗してしまったのだ。

 帰国したら靴屋からは強盗の罪で訴えられ、卓球協会からはホテルの宿泊料を返すまでは出場停止の命が下る。おまけに恋人からは妊娠を告げられる。

 困りぬいたマーティは女優の夫に土下座をしてある約束を結ぶ。日本で開催される世界卓球大会にようやく出場する機会を得たマーティは、果たしてナンバーワンになることができるのか――。

 ジョシュ・サフディは痛快無比にマーティの軌跡を疾走していく。決して褒められないキャラクターながら、どこか憎めない。愛すべき悪党ぶりをシャラメは素晴らしく体現している。何よりも嬉しいのは、クズ男が卓球を通して、ほんの少し成長するところ。そんなに人間は変れるものではないといいながら、爽やかな幕切れが待っている。シャラメは本作で主演男優賞に輝いてほしいものだ。

上野恩賜公園でクライマックスをロケするなど、思わずニヤリとさせられるシーンも数々。ユニークで最後まで楽しめる逸品である。