『レンタル・ファミリー』はブレンダン・フレイザーの個性が際立つヒューマン・コメディ!

『レンタル・ファミリー』
2月27日(金)より、TOHOシネマス日本橋、TOHOシネマズ日比谷、109シネマズ プレミアム新宿、新宿ピカデリ―ほか全国拡大ロードショー
配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン
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公式サイト:https://www.searchlightpictures.jp/movies/rentalfamily
 

 数多くの俳優に会ってきたなかで、最も好感を覚えた男優を問われると、ブレンダン・フレイザーの名前を挙げたくなる。『ジャングル・ジョージ』のプロモーションだったから1997年ころだったと記憶している。

 初めて会ったフレイザーは愛想よく質問に応え、なにより人の良さがふくよかな体躯から漂っていた。その時点で『原子のマン』や『ハードロック・ハイジャック』、『聖なる狂気』など多彩な作品に出演していたが、それほど脚光を浴びていたわけでもなかったが、誰もがファンになるようなオーラを持っていた。

 彼が『ハムナプトラ』シリーズや『センター・オブ・ジ・アース』でアクションヒーローとしてメジャーな人気を博す一方、グレアム・グリーン原作の『愛の落日』にも顔を出すなど、俳優として意義のある作品は欠かさないという意志が作品歴から感じられた。

 ただその後のフレイザーはあまり作品に恵まれなかった。ああ、これで映画の世界から消えていってしまうのかと思っていたら、2022年、『ザ・ホエール』の主演でみごとな復活を遂げた。演じるのは過食症の引きこもりの中年男。272キロの巨体を持て余しながら、娘との絆を取り戻そうとする心情を堂々と熱演してみせる。その存在感に圧倒された。フレイザーの演技派俳優としての成熟ぶりに拍手を送るばかりだった。

『ザ・ホエール』で第95回アカデミー主演男優賞に輝いた彼が次にどんな作品を選ぶのか、興味津々だったが、マーティン・スコセッシの『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』などに客演した後、主演に選んだのが本作ということになる。

 日本人監督にして歌手、ダンサー、画家、写真家の貌を持つHIKARIがスティーヴン・ブレイハットとともに書き上げた脚本をもとに実現させた、日本並びに日本人の心に触れたヒューマン・コメディ。フレイザーの個性を十分に発揮させた展開となっている。

 HIKARIは全編100パーセント日本のロケーションを敢行。『るろうに剣心』シリーズなどで知られる石坂拓郎を撮影監督に頼み、美術は『のぼうの城』の磯田典宏に任せるなど、日本人が違和感を抱かない世界の構築に努めている。

 出演者もブレンダン・フレイザー以外は日本人で固められている。テレビシリーズ「SHOGUN 将軍」で演技力を高く評価された平岳大、テレビシリーズ「モナーク:レガシー・オブ・モンスタ―ズ」の山本真理。『PERFECT DAYS』の安藤玉恵、さらに柄本明がいぶし銀の演技を披露する。

 CMの仕事で日本にやってきたものの、鳴かず飛ばずの日々が続く俳優のフィリップは、ある日、エージェントの急な依頼で弔問客を演じることになる。

 名もなき誰かを演じることに違和感を抱いたものの、レンタル・ファミリー社の経営者からスカウトを受ける。経営者、社員から持ち上げられ、仕事もなくて引き受けたフィリップのもとには、次々と依頼が来る。

 結婚式の新郎。外国人の父親、さらには大物俳優に自信を取り戻すように、架空のインタビューをする記者の役を振られる。

 その頃にはさまざまな役柄を演じることが関わった人々を幸せにする意義を感じていたフィリップだったが一緒に九州に出かけた大物俳優が突然に倒れてしまう――。

 かりそめであっても、幸せな人間関係を生み出すことの大切さをほのぼのと描き出す。家族というものが崩壊の危機にある一方で、嘘の関係でも家族を盛り上げるならそれで正解と語りかける。それを外国人にとって不思議の国、日本で描くという発想が本作の成功の鍵だろう。HIKARIの演出はドラマチックな盛り上げよりも、淡々とそれぞれの家族の現実を浮かび上がらせる。その描き方に好感を覚える。確かに不思議の国、日本というより、現実の手触りを感じさせる映像である。

 もちろん、ブレンダン・フレイザーの素晴らしさは言うまでもない。自然体、あまり扮装することなく、日本の家族たちに接触し、温もり、善良さを発散している。別に構えていないのに、日本にやってきて、人の情に触れる驚きと喜びをサラリと表現している。とりわけ柄本明扮する大物俳優との掛け合いは見事の一語だ。

 ほっこりと心が豊かになる仕上がり。ブレンダン・フレイザーの魅力が実感できる、日本ならではの作品だ。