『コードネーム U.N.C.L.E.(アンクル)』は往年の人気テレビシリーズを現代のテイストで映画化したスパイアクション!

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『コードネーム U.N.C.L.E.(アンクル)』
11月14日(土)より丸の内ピカデリーほか、全国ロードショー
配給:ワーナー・ブラザース映画
© 2015 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved
公式サイト:http://wwws.warnerbros.co.jp/codename-uncle/

 

 往年の名作やテレビシリーズをリメイクする動きは、認知度の高さから衰えることがない。おなじみのキャラクターが現代のスピード感覚、特撮を駆使した映像のなかで大活躍する趣向は、確かに興味をそそられるものがある。この路線で復活したのがガイ・リッチーである。
 リッチーは1998年に弾けた群像劇『ロック、ストック&トゥー・スモーキング・バレルズ』でイギリス映画界の新たな星として注目され、続いて『スナッチ』をヒットさせたものの、マドンナと結婚した頃から運気が変わり、彼女主演の『スウェプト・アウェイ』が大失敗。リュック・ベッソンと組んだ『リボルバー』、アメリカのやり手プロデューサージョエル・シルヴァーのもとで挑んだ『ロックンローラ』もうまく機能しなかった。マドンナと離婚した頃には輝きが失われたかにみえた。
 だが、リッチーは英国の誇る名探偵をアクションヒーローに変貌させる戦略で蘇った。『シャーロック・ホームズ』は、主演のロバート・ダウニーJR.の群を抜いた個性とあいまって、たちまち世界的なヒットとなり、続編の『シャーロック・ホームズ シャドウ ゲーム』まで生み出した。
 この路線はいけると踏んだのは『シャーロック・ホームズ』2作をプロデュースしたライオネル・ウィグラムだ。彼はリッチーとともにシャーロック・ホームズに匹敵するような人気キャラクターを探しだした。それがテレビシリーズ「0011ナポレオン・ソロ」の主人公たちだ。1964年から1968年までアメリカで放映されたシリーズで、劇場版が生まれるほどの人気だった。
 ジェームズ・ボンドがスクリーンに登場し、にわかにスパイ・ヒーローのブームが巻き起こった1960年代に、スパイ・ヒーローのテレビシリーズが生まれるのは当然のこと。「0011ナポレオン・ソロ」は毎回、秘密組織U.N.C.L.E.に所属するエージェント、ナポレオン・ソロと相棒イリヤ・クリヤキンの活躍を描き、そのユーモアと洒脱な展開が大人気を博した。ソロ役のロバート・ヴォーン、クリヤキン役のデヴィッド・マッカラムは当時の日本でも多くのファンの数を誇った。
 このテレビシリーズをもとに、リッチーとウィグラムは独自の解釈を持ち込んだ。東西冷戦の緊迫した時代に、アメリカ人エージェントのソロとソ連(当時)のクリヤキンがなぜタッグを組むようになったか。U.N.C.L.E.という組織は何なのか。ふたりは、テレビシリーズの生まれたきっかけからはじめ、チームを組むに至った前日譚を脚本に仕上げた(製作総指揮のジェフ・クリーマン、『ローラーボール』デヴィッド・C・ウィルソンも原案づくりに参加した)。
 リッチーは、ライバルの男同士の駆け引き、丁々発止のせめぎ合いに魅力を感じていて、ソロとクリヤキンの間にそうした関係性を持ち込んだ。時代を東西冷戦下の1960年代に設定して、どこまでもリアルな状況のもとで胸のすくようなアクション世界を構築していく戦略である。『グラディエーター』の撮影監督ジョン・マシソンが当時の雰囲気をみごとに再現するなか、リッチーは新味のある“バディ・ムーヴィー”に仕上げている。
 出演は『マン・オブ・スティール』でスーパーマンを演じたヘンリー・カビルに、『J・エドガー』や『ローン・レンジャー』で注目されるアーミー・ハマー。さらにスウェーデン出身で『ロイヤル・アフェア 愛と欲望の王宮』のアリシア・ヴィキャンデル、『華麗なるギャツビー』のエリザベス・デビッキ。そして『ノッティングヒルの恋人』のヒュー・グラントも顔を出す、豪華な布陣だ。

 過去の悪行を帳消しにするためにCIAの一員となったナポレオン・ソロは核兵器テロの情報を握る女性ギャビーを確保しようとするが、同じく彼女を追っていたソ連のKGBのイリヤ・クリヤキンが立ち塞がる。激しい追跡劇の末、なんとか彼女を上官に渡したソロだったが、なんと新たな任務を命じられる。
 核兵器テロはナチスの残党が巨大犯罪組織と手を組み、核を拡散することで世界のバランスを崩そうと計画されたもので、この件に関してはCIAとKGBが協力することになったのだ。ソロはクリヤキンと協力して、ギャビーをおとりに敵の全貌をつかむ任務を与えられた。クリヤキンも同様の任務を命じられるが、協力とは表面だけ。アメリカもソ連も互いに機密は渡さぬ指令をふたりに下していた。
 ギャビーはドイツの天才科学者の娘だった。彼女を連れて、ふたりは犯罪組織との関係を疑われているイタリアの大企業に乗り込んでいく――。

 プレイボーイでアウトローのソロと生真面目なクリヤキン、性格もまったく違うふたりが、ライバル心を激しく燃やしながら行動をともにするうち、次第に相手の置かれている状況やキャラクターを理解していく。“バディ・ムーヴィー”の定番ともいえる展開ながら、見ていて好感度が高い。エンターテインメントの王道といってもいいほどだ。
 リッチーは冒頭に激しい追跡で掴みを取ってからは、まさに疾走する語り口を貫いていく。ソロとクリヤキンの競い合いを軸に、痛快さ本位で推し進める。アクションにユーモアとダイナミズムを込めるのはリッチーの得意技とあって安心してみていられる。『シャーロック・ホームズ』ではヴィクトリア朝時代の雰囲気を活写していたが、本作は1960年代が舞台とあって、当時のスパイ映画やアクション映画の雰囲気を巧みに再現してみせる。ファッション、車、メイクに至るまで、当時を知る人間にとっては懐かしく、そうでない人間にとっては新鮮だ。

 出演者もいい。カビルがちょいとワルぶったソロに挑めば、ハマーは生真面目で心は熱いクリヤキンをさらりと演じている。ともに、これまでの役柄とまったく異なるキャラクターを好もしく表現している。色を添える役割のヴィキャンデル、デビッキも悪くないが、こんなに控えめなグラントは初めて見た。さらにカメオでデヴィッド・ベッカムも顔を出している。どこに出ているか、よーく画面をご覧あれ。

 本作が前日譚で終始したということは、続編やシリーズ化を見越してのことだろうが、アメリカでは今ひとつ大ヒットとはいかなかったのが残念。むしろ日本人が評価するタイプの作品といえる。注目だ。