『ハーレイ・クインの華麗なる覚醒 BIRDS OF PREY』は痛快無比、予測不能のスーパーヒロイン快作!

『ハーレイ・クインの華麗なる覚醒 BIRDS OF PREY』
3月20日(金)より、TOHOシネマズ日比谷、丸の内ピカデリー、新宿バルト9ほか全国ロードショー
配給:ワーナー・ブラザース映画
©2020 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved TM & ©DC Comics
公式サイト:http://wwws.warnerbros.co.jp/harleyquinn-movie/

 

2016年に劇場公開された『スーサイド・スクワッド』はDCコミックの悪役キャラクターが、一堂に介して大暴れする趣向で大ヒットを飾った。個性豊かな悪役のなかで、いちばん精彩を放っていたのがハーレイ・クインだった。あのジョーカーの恋人という触れ込みがなによりの強み。何をしでかすのか分からない、クレイジーでパンクな雰囲気がこれまでのスーパーヒロインと一線を画していた。

無節操でワイルド、突き抜けた魅力のキャラクターの登場が1作で終わるはずもない。まして演じたのが『アイ,トーニャ 史上最大のスキャンダル』でヒロインを務め、『ふたりの女王 メアリーとエリザベス』のエリザベス女王役や、『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』のシャロン・テート役、そして『スキャンダル』の野心的なキャスター志望嬢まで、破竹の勢いで突き進むマーゴット・ロビーなのだから実現しないわけがない。ハーレイ・クインというキャラクターにさらなる可能性を感じたロビーはプロデュースに名を連ねてまで、本作の実現に尽力したという。

ハーレイ・クインをいかに際立たせるかという主旨のもとで、知恵を絞った結果、DCコミックのスーパーヒロインチーム“バーズ・オブ・プレイ”と組ませるアイデアが採用された。脚本を書いたのはアメリカ映画界から注目されるクリスティーナ・ホドソンだ。『バンブルビー』の原案・脚本で知られるホドソンは、ジョーカーと別れてひとりになったハーレイ・クインが、唯我独尊的な性格は変えずに、“バーズ・オブ・プレイ”のそれぞれ異なる個性のメンバーと共闘するストーリーに収斂していった。

この脚本をもとに監督に抜擢されたのはキャシー・ヤン。中国生まれのアメリカ育ち、14歳から香港に渡って、アメリカの大学を卒業後はジャーナリストとして活動、転じて映画界に入った変わり種だ。長編第1作『Dead Pigs』がサンダンス映画祭の審査員特別賞に輝いたことで、その才能が広く認められ、今回の起用につながった。ジャンル映画の定番ルールに縛られず、ユニークな語り口を身上としている。通常の枠に縛られないスーパーヒロイン映画を目指す本作には打ってつけの人選といえる。

出演はマーゴット・ロビーをメインに、『ジェミニマン』のメアリー・エリザベス・ウィンステッド、『ハンズ・オブストーン』のジャーニー・スモレット=ベル、『フィアレス』のロージー・ペレスなど個性に富んだ女性陣が集結。

さらに『アルゴ』のクリス・メッシーナに加えて悪の権化ブラックマスクに扮するのが『トレインスポッティング』で注目され、『スター・ウォーズ エピソード1/ファントム・メナス』からの3部作で若きオビ・ワンに扮したことも記憶に新しいユアン・マクレガーとくるから嬉しくなる。このキャスティングは新鮮で楽しい。

 

恋人ジョーカーにふられたハーレイ・クインは酒に溺れてみたり、踊り狂ってみたりと、失恋の痛手からやけっぱちな日々を送っていた。束縛から放たれた彼女の、モラルのない暴れぶりが街中の悪党たちの恨みを買っていたが、本人はまったく気にもしていなかった。

そんなハーレイ・クインが手癖の悪い少女カサンドラと出会う。カサンドラはスリで警察の厄介になったりする少女だが、莫大な価値を秘めたダイヤモンドを、悪の世界を牛耳る残忍なサイコパス、ブラックマスクから盗んだことで事態は大きく変貌していく。

ハーレイ・クインは、ハントレスやブラックキャナリー、レニー・モントーヤといった、自由を求めて覚醒した女性たちとチームを結成。ブラックマスクとの壮絶な戦いに身を投じていく――。

 

天真爛漫でモラルなど歯牙にもかけずに、抑圧から身を放つ。まさにハーレイ・クインは現代の女性たちが感じている不自由さを笑い飛ばしてみせる。恋に破れることがあろうとも自分のやりたいこと、欲求に向かって突っ走る。彼女こそが現代女性の憧れの象徴、アイコンといいたくなる。映像に焼きつけられた弾けっぷりをみていくうちに、こちらも何かを変えたい気持ちになる。彼女の姿は、ちょっとオーバーにいうなら、見る者に変革を促し、気持ちを高揚させる。

キャシー・ヤンは、例えばミュージカルの華やかなシーンを再現するなど、奔放に過去の作品の趣向を引用しながら、ポップでカラフルな映像を駆使して女性を称えている。

さらに注目すべきはアクションの質の高さ。ハーレイ・クインの身軽さを強調しながら、バトルシーンを決めていく。先日劇場公開された『チャーリーズ・エンジェル』も男性に媚びないアクション、女性が普通に強い殺陣が披露されていたが、本作ではさらに磨きがかかった印象だ。監督がアジア系のせいもあるが、民族色豊かな顔ぶれになっているのも楽しい。実際のアメリカ社会自体が白人はマイノリティになっている表れか。キャシー・ヤンはアメリカン・コミックを手がけた史上初のアジア系女流監督なったわけだが、これからアメリカ映画はさらに変貌していく象徴というべきだろう。

 

もちろん、本作の最大の魅力はマーゴット・ロビーのキュートな魅力にある。どんなファッションでも惹きつける容姿の素晴らしさに加えて、ハーレイ・クインのカリスマ性をみごとに表現している。「悪カワ」なんて安易なことばがコピーに使われているが、チャラチャラしたキャラクターではないことは保証できる。ヒロインとして唯一無二の突出した存在なのだ。これまで実在の人物をふくめ、さまざまな際立ったキャラクターを演じてきたが、ハーレイ・クインはまさに彼女の当たり役となった。

仇役を背負ったユアン・マクレガーも捨てがたい。とことんナルシスティックでキレ易く、注目を浴びるのが大好きなゲイの冷血漢を、マクレガーが軽快に演じている。

 

華やかな映像処理でどこまでも酔わせ、最後の最後まで爽快に疾走する仕上がり。アメリカン・コミックのことを知らなくても十分に楽しめる。