『マイ・インターン』は、心がほっこりして生きる希望が湧いてくるハートフル・コメディ。

THE INTERN
『マイ・インターン』
10月10日(土)より、新宿ピカデリー、丸の内ピカデリーほか全国ロードショー
配給:ワーナー・ブラザース映画
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公式サイト:http://wwws.warnerbros.co.jp/myintern/

 

『ハート・オブ・ウーマン』や『恋愛適齢期』、『ホリディ』に『恋するベーカリー』と、ナンシー・マイヤーズは、一貫して女性の本音をコメディというかたちで表現してきた。最初は脚本家として注目された人で、夫だったチャールズ・シャイアと二人三脚で『プライベート・ベンジャミン』や『花嫁のパパ』、『アイ・ラブ・トラブル』といったコメディを生み出してきたが、シャイアと離婚してからは監督としても才能を発揮するようになった。作品数は決して多くないが、女性の素直な心情を紡いだロマンチック・コメディで、確実に観客の琴線に触れる作品を生み出す監督として、映画ファン、業界からも信頼されている。
 嫌みなところがないのが個性。男の横暴さを笑い飛ばしつつ、おとなの恋愛を洗練されたタッチで描いてきたマイヤーズは、社会の変化とともに作品の設定も変わってきた。女性が働くことも当たり前になり、女性が企業のトップに立つことも珍しくなくなった時代に対応しつつ、マイヤーズはそれでも男女の絆のあれこれに焦点を合わせ続ける。
 本作は、ファッション通販の起業に成功したヒロインが社会福祉の一環としてインターンにシニアの男性を雇用したことからはじまる、絆を問いかけるコメディ。昔の流儀を守り、人とのつながりに重きを置くインターンに、同僚たち、そしてヒロインも次第に感化されていく展開となる。企業のトップに女性が座り、ぐいぐいと社会をリードするようになった現在だからこそ、時には古き佳き人間関係、昔気質な考え方に目を向けてもいいのではないかと、マイヤーズは語りかける。もはやそこには男性vs女性の図式はなく、同じ世界を生きる者同士のつながりの謳歌。年齢を重ねるにつれて育まれていった、マイヤーズの思いが反映されている。
 なによりも本作はキャスティングの魅力が大きい。『プラダを着た悪魔』や『レイチェルの結婚』などで演技力を評価され、『レ・ミゼラブル』でアカデミー助演女優賞に輝いたアン・ハサウェイをヒロインに据え、対するは『レイジング・ブル』でアカデミー主演男優賞に輝き、どんなジャンルにも存在感を鮮烈に焼きつけるロバート・デ・ニーロ。近年は『世界にひとつのプレイブック』や『キラー・エリート』など助演が多い彼が、ここでは自分の流儀を守る老いたヒーローを好もしく演じてみせる。枯れ切ってはいないが、人生の先輩としての落ち着きを感じさせるキャラクター。これがまことによく似合う。共演は『ナイトクローラー』でも個性を発揮したレネ・ルッソに、『ザ・インタビュー』(日本未公開)のアンダース・ホルムなど、多彩な顔ぶれとなっている。

 ファッション通販を起業して成功を収めたジュールズは、日々、仕事のことしか頭にない。会社も大きくなり、ジュールズの負担も増えるばかり。家庭は夫に任せて日々を送る彼女だが、会社のパートナーは企業をさらに大きくするためにはCEOを社外に求めるように勧める。
 そんな頃、会社の社会福祉の一環のシニア・インターン制度で、長年、会社勤めをしてきたベンが雇われる。ジュールズ付きとなったベンは背広にネクタイという姿で現れ、ジュールズに対して、心のこもった対応をする。ベンに対してイラついていた彼女も、ユーモアを交えて的確なことばを発するベンに次第に心を開いていく。
「会社はあなたが生み出したものだ」と語りかけるベンのことばに勇気づけられて、CEO問題に答を出したジュールズだったが、ふと気づくと、家庭にも大きな問題が生じていた。ベンのアドバイスでジュールズはトラブルを解決することができるだろうか――。

 女性が仕事を持つのが普通な現在、仕事上の辛さやストレス、家庭内の問題を抱えながら、企業を牽引して日々を切り拓くジュールズの姿に、共感を寄せる女性も少なくないはず。マイヤーズは多少、カリカチュアしながらも、懸命に会社を反映させようとするジュールズの姿を優しく描き出す。他人や部下からみれば、タフに仕事をこなし華麗な日々を送る彼女は畏敬の存在でしかないが、人生の先輩のベンには、彼女がぎりぎりのところで無理をしているのが分かる。なによりジュールズが仕事人としてのみならず、人間として愛すべき存在であることを、彼は見抜いていた。ベンは優しく彼女を包み込み、さりげなく彼女にふさわしい道に導いていく。
 しかもベンは、男性として枯れてもいないというところがミソ。70歳にして雄の部分も残しながら、自分のスタイルを崩さず、あくまでも先達として活きたアドバイスを若い人たちに送り、周囲から重んじられる。男からしたら、こんな老いを迎えたいと願う。まさに理想的な存在である。余裕をもって日々を生き、決して動じない。ヒロインがマイヤー自身の反映だとすれば、年齢を重ねて、こういう同志の必要を感じるようになったか。

 マイヤーの作品に出ることを熱望していたというハサウェイはジュールズというキャラクターをさらに輝かせている。抜けたところもあって、一生懸命。会社でも家庭でも一心不乱に行動し、周囲を心配させまいと葛藤を抱え込んでいる女性像をユーモアとペーソスで演じきる。その健気で一途な風情が見る者の共感を誘わずにはおかない。
 デ・ニーロは洒脱な年寄りを極めてノーマルに演じる。ともすればキャラクターが個性的になるきらいがある名優が、絵に描いたような理解者像をさらりと表現しているのだ。やりすぎず、それでもルッソ演じる初老女性と恋に落ちる色香を漂わす。こういう好感度の高いキャラクターもデ・ニーロは演じるようになったのか。

 マイヤーズの温もりのある語り口で、爽やかな余韻の残る仕上がり。生きる元気が湧いてくるコメディである。