『ボーダーライン:ソルジャーズ・デイ』はアメリカの現実を描いたリアルでハードなアクション!

『ボーダーライン:ソルジャーズ・デイ』
11月16日(金)より、角川シネマ有楽町、新宿ピカデリーほか全国ロードショー
配給:KADOKAWA
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公式サイト:http://border-line.jp/

『ウインド・リバー』で監督としての力量も見せた脚本家、テイラー・シェリダンの存在を注目せしめた『ボーダーライン』の続編である。
 シェリダンはアメリカの顧みられない地域に眼を向け、社会が抱える格差構造を骨太なサスペンスのなかに浮き彫りにした『ボーダーライン』から、『最後の追跡』、『ウインド・リバー』に至る“フロンティア3部作”を経て、再びメキシコ国境における麻薬組織とアメリカ政府の暗闘を題材にした。
 トランプ大統領の高い壁発言やら、最近の難民キャラバンの出現やらで、何かとクローズアップされる機会の多いメキシコとの境界にはアメリカの抱える病巣が端的に浮き彫りにされる。近年、麻薬組織が密入国ビジネスにシフトした状況を踏まえてキレイ事ではない戦いを描き出す。
 さらにシェリダンは第1作に登場したキャラクターを再び登場させる。ジョシュ・ブローリン演じる汚い裏の仕事専門のCIA特別捜査官マット・グレイヴァーと、ベニチオ・デル・トロ演じる元検事の暗殺者アレハンドロのふたりだ。超法規、目的のためには手段を選ばないふたりを軸に、シェリダンがハードボイルドなストーリーを紡いでいる。
 第1作ではフランス語圏カナダ出身の監督ドゥニ・ヴィルヌーヴが起用され、クールでサスペンスフルな演出が話題となったが、本作ではイタリア出身のステファノ・ソリアーノが抜擢された。ポリスアクションの『バスターズ』(2012)や、マフィアの抗争を描いた『暗黒街』(2015)などで注目された存在で、テレビシリーズの活動も目立つ。ドライで畳みかける様な語り口が持ち味だ。本作でもとことんハードにメキシコ国境の状況を浮かび上がらせ、皮肉なストーリーをスリリングに綴っている。

 ミズーリー州カンサスシティの商業施設で自爆テロ事件が発生。アメリカ国防長官はテロとの徹底抗戦を宣言した。
 ソマリアで秘密工作を行なっていたCIA特別捜査官マット・グレイヴァーは帰国を命じられ、新たな任務を与えられる。アメリカ政府がテロ組織に指定する予定のメキシコ麻薬カルテルを撹乱するのが目的だ。麻薬カルテルは密入国ビジネス取り仕切っていて、テロリストたちもこのルートを使って入国したと目されていた。
 グレイヴァーはコロンビアの元検事アレハンドロに協力を要請。麻薬王カルロス・レイエスの娘を誘拐して、カルテル間に戦争を引き起こす作戦を実行に移す。
 特殊チームがメキシコシティで誘拐に成功。娘を拉致した上で、DEA(麻薬取締局)が娘を救出するシナリオが遂行されていく。
 ところが、メキシコの荒野でレイエスの息のかかったメキシコ連邦警察の襲撃に遭い、銃撃戦の最中に娘が姿を消した。アレハンドロは娘の捜索に向かい、クレイヴァーは帰国することになる。
 戻ったグレイヴァーを待ち受けていたのは、ミッションの中止だった。連邦警察に多数の死傷者が出たことから、関係悪化を懸念した大統領の決断だった。ミッション自体を隠蔽するため、国防長官は娘とアレハンドロの抹殺指令を下す。
 ようやく娘を見つけ出したアレハンドロだったが、その指令を知り、娘を護る決心を固める――。

 正義を宣言する政府の影に、なりふり構わぬ闇の軍団の存在がある。命じられた指令にもっとも効果的な作戦を立て遂行するだけ。そこには正義やモラルのお題目もない。こうした特殊チームに焦点を当てて、映画はひたすらリアルに彼らの行動を綴っていく。戦争に善悪がないように、彼らの行動に倫理を問うても意味がない。マット・グレイヴァーとアレハンドロのアンチヒロイックな行動論理には潔ささえ感じさせる。あえていうなら、ほれぼれするほどの格好良さを感じる。
 テイラー・シェリダンのどこまでもハードボイルドな設定とストーリーのもと、ステファノ・ソリアーノがドライに疾走してみせる。メキシコ国境の剣呑な雰囲気をドキュメンタルな映像で切りとり、キャラクターたちをくっきりと浮き立たせる。密入国を図る人々の姿をさりげなくスケッチしつつ、メキシコ側の貧しさを際立たせる一方で、メキシコ人の人情も押さえる。密入国の最前線を過不足なく描き出してみせている。
 もちろん、銃撃戦の激しさは折り紙付きだ。メキシコ荒野で繰り広げられるアクションの凄まじさには舌を巻く。車を疾走させながらの銃撃戦はまこと戦闘と呼ぶにふさわしいし、どんな状況にもなりえる恐ろしさが映像に焼きつけられて、否応もないサスペンスに結びつく。ソリアーノのスピーディな語り口がまことに好もしい。
 こう見ていくと、アメリカ政府は敵を想定して間抜けな行動を実践する癖があると感じずにはいられない。トランプ大統領はそのカリカチュアだ。本作はエンターテインメントのかたちでアメリカ人の本質を突いているのだ。

 出演者ではジョシュ・ブローリンの動じない特別捜査官、ベニチオ・デル・トロの孤高の殺し屋が圧倒的な迫力をもって画面から迫ってくる。ブローリンは『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』のサノス役や『デッドプール2』のケーブル役をはじめ、多彩な活動をみせているが、本作のハードボイルドな味わいが格別だ。
 一方のデル・トロも負けていない。時代劇のニヒルな用心棒さながら。感情や思いを表に出さずに行動する姿はクールこの上ない。ふたりとも銃の構え方ひとつにも殺気が漂い、圧倒的な存在感をみせる。
 ふたりを囲んで、『トランスフォーマー/最後の騎士王』のイザベラ・モナーが誘拐される娘を演じる他、マシュー・モディーン、キャサリン・キーナー、ジェフリー・ドノヴァンが脇を固めている。手堅いキャスティングだ。

 本作をみると、第3弾をみたくなる。それほどふたりのキャラクターが傑出しているのだ。臨場感に溢れた、パワフルなアクションである。