『ワンダー 君は太陽』は本当の意味で絆とは何かを考えさせる、温もりに満ちたドラマ。

『ワンダー 君は太陽』
6月15日(金)より、TOHOシネマズ日比谷ほか全国ロードショー
配給:キノフィルムズ
Motion Picture Artwork © 2018 Lions Gate Entertainment Inc. All Rights Reserved.
公式サイト:http://wonder-movie.jp/

 全世界で800万部を超える売り上げを記録した、R・J・パラシオの処女小説の映画化である。日本でも「ワンダー」の邦題で翻訳されているこの小説は、遺伝子疾患をもって生まれてきた少年と家族の物語だ。
“ああ、難病をもった子供の感動、感涙のストーリーか”と片づけられがちだが、この作品は少し趣を異にする。本作で描くのはそうした少年の存在によって、周囲はどのように変わっていったかに力点が置かれる。本人が学校という社会に船出して、いじめや裏切りを味わいながらも、居場所をつかみ取るという展開のなかで、両親の関心を独占している少年に対して彼の姉が抱く複雑な感情や、少年の友人となりながらも他の生徒に対するときは素直に彼を友人といえない同級生の思いなど、人間なら誰しも経験のある“秘めておきたい”感情も浮かび上がらせる。
 普通と異なる存在を前にしたときに、相手を傷つけないように動じない態度を取るのは知性や教育、思いやりの為せる業だろうが、咄嗟の反応までは制御できない。思わずそうした態度をみせたことに、良心の呵責を感じたりする。本人よりも周囲の人間がよほど神経を使うことになる。
 本作はこうした人間の機微を細やかに綴っている。原作のエッセンスを掬い上げた脚本を称えたくなる。担当したのは『ウォールフラワー』で知られるスティーヴン・チョボスキーと『LIFE/ライフ』のスティーヴン・コンラッド、『幸せになるための5秒間』(劇場未公開)のジャック・ソーン。チョボスキーは監督も務めている。

 豪華な出演者も本作の話題だ。特殊メイクをつけて熱演するのは『ルーム』で注目されたジェイコブ・トレンブレイ。両親には『エリン・ブロコビッチ』のジュリア・ロバーツに『ミッドナイト・イン・パリ』のオーウェン・ウィルソン。さらに『バトルフロント』のイザベラ・ヴィドヴィッチ、ブロードウェイのヒット芝居「ハミルトン」で絶賛されたダヴィード・ディクス、テレビシリーズ「HOMELAND」で個性を発揮するマンディ・パティンキン、『サバービコン 仮面を被った街』のノア・ジューブまで、大人も子供も実力派が揃っている。

 トリーチャー・コリンズ症候群という常染色体優性先天性疾患をもって生まれてきたオギー・プルマンは27回の手術を受けた後、小学5年生として普通の学校に入学することになる。それまでは母のイザベルと家庭内で学習をしてきたオギーにとっては初めての集団生活。初登校の日には生徒から好奇の眼でみられ、誰も近づいてこようとしなかった。
 その日はオギーの姉ヴィアの入学式でもあった。弟思いのよくできた姉と思われ、両親も彼女を気に掛けないが、彼女自身にも悩みがあった。幼馴染の親友ミランダが突然、よそよそしい態度を取り始めたのだ。彼女には思い当たることもなく、成す術がなかった。彼女の理解者である祖母も、もうこの世にはいない。
 孤立していたオギーは理科で才能を発揮し、テストの答案をみせたことでジャックという少年と仲良くなる。家に招くほどの仲になったが、オギーはジャックが彼とは友達ではないと、クラスメイトに話していることに傷つく。
 オギーの周りの人たちは、オギーの存在を前にしてさまざまな感慨を抱く。そのことに傷ついたり、勇気づけられたりしながら、オギーは着実に成長していく―――。

 オギーの存在はまるでリトマス試験紙のように周囲の人間たちからさまざまな反応を引き起こす。経験値のある大人はともかく、子供たちは好奇心が強く、時に残酷だ。本作ではオギーの容姿に対するストレートな反応をきっちりと描き出す。そうした反応は当然のこととして、次に何を成すことが人間として求められるかをストレートに問いかけている。日本のように異種排除の雰囲気の社会では最も考えなければいけないテーマではないか。本作は容姿が異なる存在ではあっても受け入れること、慣れることが肝要なのだと爽やかに訴えかける。
 チョボスキーはオギーの存在によって否応なく耐えることを強いられる姉ヴィアを筆頭に、友達であることを他人に知られたくないジャック、ヴィアと距離を置いたミランダなど、周囲の人々の心情を細やかに描き出す。オギーの挑戦と並行して綴られる彼らのエピソードによって、誰もが悩みやコンプレックスを持ちながら生きているという当たり前の事実を、心に沁み入るように明らかにしている。本作が真の意味で心温まるのは、この部分を浮き彫りにしているからだ。もちろん、エンターテインメントであるから、オギーの挑戦は成功する。随所にチクリとするトゲを散りばめながら、ハッピーエンドで閉めるチョボスキーの演出はなかなかのものだ。

 俳優のなかでも最大の功労者はオギー役のジェイコブ・トレンブレイだ。特殊メイクを施して演技する難儀にもかかわらず、きっちりと主人公の心情を表現している。『ルーム』で天才子役と称えられたが、本作では演技にさらに磨きがかかった印象だ。
 賢い母親を演じるジュリア・ロバーツ、優しい父役のオーウェン・ウィルソンが手堅い存在感でキャラクターを体現すれば、ヴィア役のイザベラ・ヴィドヴィッチとジャック役のノア・ジューブが複雑な心のひだをさりげなく演じてみせる。巧みなキャスティングである。

 ありがちな難病感動ものとは一線を画した、爽やかで痛みのあるヒューマン・コメディ。一見をお勧めしたい。