『ラ・ラ・ランド』はアメリカでの絶賛が止まらない、ミュージカル映画愛に溢れた逸品!

『ラ・ラ・ランド』
2月24日(金)よりTOHOシネマズみゆき座ほか全国ロードショー
配給:ギャガ GAGA★/ポニーキャニオン
©2017 Summit Entertainment, LLC. All Rights Reserved. Photo credit: EW0001: Sebastian (Ryan Gosling) and Mia (Emma Stone) in LA LA LAND. Photo courtesy of Lionsgate.
公式サイト:http://gaga.ne.jp/lalaland/

 

 本作『ラ・ラ・ランド』は、凄まじい勢いで賞獲りレースを驀進中だ。

 まず皮切りは昨年のヴェネチア国際映画祭でヒロインを務めたエマ・ストーンが主演女優賞を獲得。トロント国際映画祭では観客賞に輝いた。ニューヨーク批評家協会賞の作品賞をはじめ、国内の賞を総なめにしつつ、在米外国人記者が選ぶゴールデン・グローブ賞ではミュージカル・コメディ部門の作品・男優・女優賞と、監督、脚本、音楽、歌曲賞を手中に収めた。

 さらに英国アカデミー賞では作品、主演女優、監督、作曲、撮影の各賞に選ばれている。作品、主演男優、主演女優、監督、脚本、撮影、作曲、歌曲、美術、衣装デザイン、音響編集、音響、編集の13部門14ノミネーション(歌曲賞に2曲がエントリー)を果たしたアカデミー賞でどれぐらいの数の受賞となるのか。今の勢いからいえば、独占も夢ではなく、 26日の授賞式(日本時間27日午前)が待たれる。

 本作がここまで歓迎される最も大きな理由は、往年のミュージカル名作のエッセンスを凝縮した仕上がりになっているからだ。歌と踊りによって華麗にストーリーが表現される、アメリカ映画の誇るジャンルの復活に、映画を愛する誰しもが興奮し熱狂した。

 しかも監督したのはデイミアン・チャゼルとくる。長編映画2作目の『セッション』で、アカデミーの作品、助演男優、脚色、音響、編集の5部門にノミネートされ、編集と音響、さらにJ・K・シモンズに助演男優賞をもたらした逸材だ。聞けば、ミュージカルをつくることがチャゼルのハーバード大学在学中からの願いだったそうで、卒業制作の第1作『Guy and Madeline on a Park Bench』は、ボストンのジャズミュージシャンを主人公にしたミュージカル仕立てのドラマになっている。

 続く『セッション』は自らの体験をもとに、音楽を志す大学生と熱血指導教師の成長物語という定番を逆手にとり、常軌を逸した鬼教師と翻弄されるドラマー志望の青年の対決のストーリーを生み出して、一躍、注目を浴びることになる。

 こうなると、長年、温めていた本作の実現も可能となる。かくして『セッション』にも参画した、大学時代の盟友であるジャスティン・ハーウィッツの作曲・音楽、『世界にひとつのプレイブック』やシルク・ドゥ・ソレイユのショーで知られるマンディ・ムーアの振付を得て、溌溂としたミュージカルとなった次第。

『バンド・ワゴン』から『パリのアメリカ人』、『雨に唄えば』をはじめ、ジャック・ドゥミの『シェルブールの雨傘』、『ロシュフォールの恋人』など、あらゆるミュージカルに学び(来日したチャゼルは無意識に鈴木清順の『東京流れ者』のオマージュも入っていたと語っている)、ショービジネスを背景にした定番的なラブストーリー・パターンを用いながら、チャゼルならではの映像世界を構築している。

 最高のスキルを持ったプロのダンサー、シンガーの手慣れたパフォーマンスではなく、どこかぎこちないところもあるが、全身全霊で歌と踊りに挑む姿が素直に感動を呼ぶ。

 そこには真正面からミュージカルというジャンルに挑み、その素晴らしき世界を現代に蘇らせたいとの情熱が画面からほとばしっている。ここにチャゼルがセンセーションを呼ぶ理由がある。

 出演は『ドライヴ』をはじめ個性的な役どころを好んで引き受けるライアン・ゴスリングに、ウディ・アレンの『教授のおかしな妄想殺人』にも顔を出したエマ・ストーン。彼女はステージでは「キャバレー」のヒロインを経験するなど、ミュージカルの素養十分の女優だ。

 加えてR&B歌手として名高いジョン・レジェンド。バレリーナから出発してモデルも経験、女優として注目されているソノヤ・ミズノ、そして『セッション』のJ・K・シモンズまで、多彩な顔ぶれとなっている。

 

 女優になるために田舎町からロサンゼルスにやってきたエマは、バイトとオーディション通いの日々を送っている。ある夜、美しい曲を弾くピアニスト、セヴに思わず声をかけるが、冷たく無視される。彼は昼間、渋滞の高速道路でも出会っていた。

 春になって、エマはまたセヴと出会った。今度はことばを交わすふたり、セヴはジャズを愛し、いつか自分の店を持ちたいと夢を語る。エマも夢を語るうちにふたりは惹かれるようになり、デートを重ねる。

 同棲するようになったふたりは互いの夢を育みあって幸せな日々を過ごしていたが、セヴはエマのために、“売り”を優先する知り合いのバンドに加わることにする。

 バンドは大成功するが、エマはジャズの夢を貫かないセヴに寂しさを感じるが、自分で書いた脚本をもとにしたひとり芝居に邁進する――。

 

 ショービジネスの世界を背景に、互いに成功を夢見るカップルが紡ぐラブストーリーはそれぞれの成功と引き換えに成就できないのが定番だが、本作ではどうか。そこまで書くと興を殺ぐのでみてのお楽しみ。最後は『シェルブールの雨傘』的だと書いておこう。脚本も兼ねるチャゼルは、典型的なストーリーラインに、現代を生きる人間が納得できる心情を盛り込むことで、作品にリアルさ、新しさをもたらしている。本作が人間ドラマとして評価されている所以でもある。

 とにかくチャゼルは、冒頭の渋滞するフリーウェイでの一大モブシーンを長回しで撮り切り、見る者を興奮させて一気に本筋になだれ込んでいく。短時間、フリーウェイの交通を遮断して撮影したというが、まさに圧巻。渋滞にいら立つ人々がその思いを踊りにぶつけ歌う。このワクワクするような趣向だけで、チャゼルはミュージカルファンのみならず、観客全員のハートをがっちり鷲掴みにしてみせる。

 さらに街を見下ろす公園でのダンス、プラネタリウムでロマンチックなダンスなどは、ミュージカルの名作の趣向をさらりと取り込んで思わずため息が出るほど美しいし、随所に散りばめられる群舞も躍動感に溢れている。振付のマンディ・ムーアの才能がみごとに発揮されているのだ。

 題名の通り、本作ではロサンゼルスの名だたる場所がみごとにカメラに収められている。天文台のあるグリフィスパークからはじまって隠れた名所が幾つも切り取られている。1940年代と現代の景色が共存する街、昔も今も成功を夢見る人々が集う街としてのロサンゼルス。いいも悪いも飲みこんでこの街の讃歌にしたところも成功の一因だろう。

 自らジャズドラマーを志したこともあるチャゼルは、ジャスティン・ハーウィッツの親しみやすいメロディ、そのリズム、テンポを損なうことなく映像化してみせる。ここまでミュージカルを研究し、咀嚼して自らのものとしたうえで演出する監督も珍しい。

 

 出演者では何といってもライアン・ゴスリングとエマ・ストーンが素晴らしい。ゴスリングがおずおずと特訓の成果を披露すれば、ストーンの豊かな歌唱力と踊りが輝き、ふたりに相乗効果をもたらす。ふたりのコンビぶりが、これまでのミュージカルでは味わえない新鮮さを画面に与えている。

 

 ミュージカル映画の醍醐味を満喫出来て、しかも新しいアメリカ映画の息吹も実感できる。これに接しない手はない。ひさしぶりのミュージカル、これに接しない手はない。注目である。