『ミス・ペレグリンと奇妙なこどもたち』は、ティム・バートンの“らしさ”が横溢したファンタジー。

『ミス・ペレグリンと奇妙なこどもたち』
2月3日(金)より TOHOシネマズ日劇ほか、全国ロードショー
配給:20世紀フォックス映画
©2016 Twentieth Century Fox Film Corporation.
公式サイト:http://www.foxmovies-jp.com/staypeculiar/
Photo Credit: Jay Maidment.

 

 ティム・バートンといえば、最近では『チャーリーとチョコレート工場』や『アリス・イン・ワンダーランド』などのヒット作で知られ、キモかわいいキャラクターが登場する、底抜けにポップでカラフルな作品の監督として捉えている人も少なくない。

 ふりかえってみれば、子供番組の人気者だったピーウィー・ハーマン主演の『ピーウィーの大冒険』が長編の監督デビュー作だった。そこから『ビートルジュース』に『バットマン』、『シザーハンズ』、『バットマン・リターンズ』、『エド・ウッズ』、『フランケンウィニー』と続く作品歴をみると、彼の志向、作風が浮かび上がってくる。

 彼の作品の根底には、精神的、あるいは肉体的に“普通ではない”キャラクターに対する共感が満ち溢れている。“普通ではない”ことを個性として捉えたいとの思いが映像から浮かび上がってくるのだ。

 だから、本作はバートンにはうってつけの題材といえる。原作は2011年に発売された、ランサム・リグスが書いた「ハヤブサが守る家」。リグスが収集していた奇妙な写真を活かしたストーリーで構成されている。この映画化権を獲得した製作会社チャーニン・エンターテインメントは、ファンタジーの『スターダスト』を皮切りに、マシュー・ヴォーンと組んだ『キック・アス』、『X‐MEN:ファースト・ジェネレーション』、『キングスマン』などで知られる脚本家、ジェーン・ゴールドマンに脚色を依頼。出来上がった脚本からバートンに声をかけた。

 他人の企画にも関わらず、バートンは原作から、かつて自分が“変わっている”というレッテルを貼られたことを思い出し、監督を引き受けた。リグスも短編映画を生み出すフィルムメーカーのひとりだったが、敬愛するバートンが手掛けることにもろ手を挙げて賛成したという。

 祖父の冒険話を大好きだった内気な少年が、かつて祖父が暮らしていたウェールズのケルン島を訪問。そこで暮らす奇妙なこどもたちと彼らを守る女性ミス・ペルグリンと出会い想像を絶する冒険を体験する展開はファンタジーの王道をいくものだが、タイムループという趣向を盛り込んで、奇妙なこどもたちは歳を取らずに“同じ日”を繰り返し生きているという設定に仕立てている。無垢なこどものまま、同じ日を生きる設定は、無邪気なのにどこか切ない雰囲気が漂う。まさにバートンの独壇場だ。

 出演は、実力派が選りすぐられている。ベルナルド・ベルトルッチ監督作『ドリーマーズ』で映画デビューを果たし、『007/カジノ・ロワイヤル』やバートンの『ダーク・シャドウ』で個性をみせたエヴァ・グリーンがミス・ペレグリンに扮するのをはじめ、主人公の少年には『ヒューゴの不思議な発明』のエイサ・バターフィールド。さらに『マレフィセント』のエラ・パーネル、『アベンジャーズ』のサミュエル・L・ジャクソンや『アイリス』のジュディ・デンチ、『イギリスから来た男』のテレンス・スタンプなど多士済々だ。

 

 フロリダに住むジェイクは周囲になじめず、祖父だけが唯一の理解者だった。祖父の話す冒険話が楽しみだったジェイクは、ある日、祖父が自宅の裏の森で倒れているのを発見する。

 祖父は「早くここから離れろ、島に行け」と言い残して、息絶えた。悪夢にうなされるジェイクを心配した父は、かつて祖父の暮らしたウェールズのケルン島に静養に出かけることにする。

 島に到着したジェイクは早速、探検を開始。別世界に入る入口を発見する。先には、美しい屋敷があった。そこには、宙に浮かぶ少女、透明の少年、体内に無数の蜂を飼う少年、頭の後ろに鋭い歯の口を持つ少女、怪力少女、無口な双子などなど、祖父が話した通りの奇妙なこどもたちが住んでいた。

 こどもたちを守っているのはミス・ペルグリン。彼女はハヤブサに変身できる“インブリン”という種族で事案を自由に操ることができた。彼女はこどもたちを守るために、1940年の9月3日を繰り返させていた。祖父も子供時代にここを訪れていた。

 しかし、大いなる危機が迫っていた。こどもたちの生命を奪って不死のパワーを得ようともくろむバロンとその連中が島に来ていたのだ。祖父の死も連中の仕業だった。ジェイクは現実に戻るか、屋敷に留まるかの選択が迫られる。秘められた特殊な力があることに気づいたジェイクは敢然と敵に立ち向かっていく――。

 

 2016年の現在から1940年代の異世界、ふたつの時代を行き交う設定。いかにもイギリス的なクラシカルで美しい邸宅に、なるほど奇妙なこどもたちはふさわしい。ファンタジックではあるが、決して漫画チックではない意匠のもとで、バートンは“普通ではない”こどもたちの個性を謳歌させる。永遠に1日を繰り返すという設定に対する憧憬もそこには感じられるのだ。

 ただ展開は後半に向かうにしたがって冒険サスペンスの色合いが濃くなってくる。こどもたちがそれぞれの個性を発揮して敵と戦う展開となるからだ。それぞれの特性を活かした対処の仕方も趣向を凝らしてあり、最後まで飽きさせない。バートンは内気な少年が自分の力を意識して困難に立ち向かう、成長の物語として収斂させている。近年、幾分、方向性に迷って停滞した感のあったバートンが原点回帰したといえば正解だろうか。奇妙な設定の世界のなかで思い切り遊びつつ、バートンはきっちりファンタジーの意匠をまとわせてエンターテインメントに仕上げている。

 

 出演者ではミス・ペルグリン役のエヴァ・グリーンが群を抜いて魅力的だ。バートン作品では奇妙な個性の女優が起用されるが、グリーンの美人なのに強いイメージは元妻のヘレナ・ボナム=カーターに匹敵する。ボナム=カーターはコミカルな味わいだったが、グリーンはよりタフな二枚目イメージ。ひょっとしたら、今後もバートン作品を賑わす存在になるかもしれない。

 

 ランサム・リグスとバートンのイマジネーションの豊かさを心ゆくまで堪能できるファンタジー快作。楽しい仕上がりだ。