
9月18日(金)より、ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館、Bunkamuraル・シネマ渋谷宮下ほかでロードショー
配給:セテラ・インターナショナル
© STUDIOCANAL – COLOURS OF TIME – CE QUI ME MEUT – Emmanuelle Jacobson-Roques
公式サイト:Monetojikan.com
セドリック・クラビッシュの名が日本で注目されるようになったのは、1996年に『猫が行方不明』が公開されてから。パリに住む若いメーキャップアーティストが飼い猫を探す中で、多様な住人たちと触れ合うストーリーがユーモアとペーソスとともに綴られ、クラビッシュの名を一躍知らしめたのだ。
翌年には彼の初の長編作『百貨店大百科』(1992)、『青春シンドローム』(1994)が次々と公開され、クラビッシュの作風は幅広く知られることになる。
さらに2002年には『スパニッシュ・アパートメント』を発表。EU統合に沸く雰囲気のなか、ヨーロッパ各国の若者たちと共同生活を送ることになったフランス人留学生を中心に、様々な経験を通して成長していく群像青春コメディで、大ヒットを記録した。作品はシリーズ化され『ロシアン・ドールズ』(2005)、『ニューヨークの巴里夫(パリジャン)』(2013)が誕生。クラビッシュの時代の空気を掴み取る才能がいかんなく発揮された。
もっとも、彼の作風は2008年の『PARIS(パリ)』に顕著に集約されている。彼が愛してやまない古都に暮らす人々の哀歓を綴り、温もりのある群像ドラマに仕立てた逸品だった。ユーモアを滲ませながら、生きることのペーソスを謳いあげる。クラビッシュの個性がいかんなく発揮されていた。
本作もクラビッシュらしさが全編に満ち満ちた仕上がりとなっている。19世紀と現代というふたつの時代のパリの様相を活写しながら、古都に暮らす庶民の哀歓を浮かび上がらせる、構成の巧みさが高く評価された。脚本には『お帰り、ブルゴーニュへ』や『パリのどこかで、あなたと』などでクラビッシュとタッグを組んでいるサンティアゴ・アミゴレーナも参加。クラビッシュのストーリーテラーとしての魅力を存分に活かしている。
紡がれるのは、描き続けてきたパリの魅力だけではなく、19世紀末と現代、ふたつの時代を描くことで浮かび上がる、社会の変化や、そこで生きる人々の価値観。過去と現在の長所、短所を綴りながら、庶民を育んだパリを称える。まことに心に沁みるつくりとなっている。
出演は『スザンヌ、16歳』のスザンヌ・ランドン、端役から監督に見いだされたアブラム・ヴァプレ、『画家ボナール ピエールとマルト』のヴァンサン・マケーニュ、『最高の花婿』のジュリア・ピアトン、『百貨店大百科』からのクラビッシュ作品の常連のジヌディーヌ・スアレムなどが顔を揃えている。
ノルマンディの朽ち果てた屋敷を巡って、遺産相続権を持つ人々が30人に及ぶことから、4人が選ばれ、一族を代表して調査をすることになる。
デジタル映像クリエーター、養蜂家。交通関係のキャリア女性、定年間近の教師の4人は屋敷に赴き、印象派の作品らしき絵画、写真などを発見する。
時代は溯り、ベルエポックの頃。この家に住むアデルはたったひとりパリに向かった。
道すがら、画家と写真家のふたりの男性と知り合い、大都市パリに住むことになる。エッフェル塔、セーヌ川、モンマルトル見るものすべてが刺激的。アデルの冒険と恋が紡がれる。
現代の4人も次第に家族としての親しみが増していく――。
ベルエポックと現代が巧みに描き分けられていき、アデルの華麗な軌跡が浮かび上がる。時あたかも印象派の台頭したころ。劇中には没後100年の印象派の巨匠クロード・モネをはじめ、ルノワール、セザンヌら実在した芸術家たちが次々と登場するばかりか、オランジュリー美術館、オルセー美術館なども現代編に登場。モネの「睡蓮の庭」など、名作絵画もいくつも焼き付けられる。
それだけでも心躍る趣向なのだが、こうした素材を活かしながらパリの人々の情を浮かび上がらせる。いつの時代であっても、パリ庶民の心意気、情は変らない。美しい絵画とともに気持ちが豊かになる人間賛歌。クラビッシュの演出に酔いしれるばかり。
洒落た語り口のなかで人と人のつながりを称え、多様な家族の在り方も浮かび上がらせる。秋にふさわしい極上の作品である。