『左利きの少女』はアメリカで活動する台湾映画人が紡ぐリアルで温もりのある家族の物語。

8 月14 日(金)よりヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほか全国ロードショー
配給:スターキャットアルバトロス・フィルム
©2025 LEFT-HANDED GIRL FILM PRODUCTION COMPANY LIMITED. ALL RIGHTS RESERVED.
公式サイト:https://cinema.starcat.co.jp/left-handed-girl/

『ANORA アノーラ』は2024年のカンヌ国際映画祭パルム・ドールに輝き、アカデミー賞においても作品賞、主演女優賞、監督賞、脚本賞、編集賞を獲得するなど絶賛を浴びて、送り出したショーン・ベイカーの名を一躍、世界的なものとした。

 もっともベイカーはインディペンデントの映画作家として2015年の『タンジェリン』や2017年の『フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法』などで知る人ぞ知る存在だった。

 そして彼を支えたのが台湾出身のツォウ・シーチンだった。ニューヨークでベイカーと出会った彼女は『テイクアウト』で共同監督を務め、以後、プロデューサーとして彼の才能を磨き上げた。

 本作はシーチンの単独監督デビュー作となる。故国の台湾・台北を舞台に、シングルマザーとふたりの娘をめぐる家族の物語。シーチンの実体験をもとにストーリーが構築されている。本作でもベイカーとのコンビは健在で、プロデュース、脚本はシーチンと共同で担当。編集はベイカーが担うことになった。世界的に注目を浴び始めたふたりのこととあって、アメリカはもちろん、イギリス、フランス、台湾からの合作というかたちとなった。

 シングルマザーのシューフェンはハイティーンの娘イーアン、5歳の娘イージンとともに久しぶりに台北に戻ってきた。

 借金を背負っているシューフェンはなんとか夜市の麵屋を始める。イーアンはビンロウ売りの店で働きはじめる。

 イーアンはシューフェンに対しては辛辣な態度をとるが、イージンを可愛がり、幼稚園にもバイクで送り迎えをしている。シーフェンの両親は昔気質で必ずしもシューフェン家族を歓迎せず、祖父は左利きのイージンを「悪魔の手」と疎んじた。

 三人の生活が落ち着いた頃、シーフェンの別れた夫が入院。見舞いに行こうとする彼女にイーアンは怒りをぶつける。夫は借金をつくりシーフェンが懸命に返し続けた過去があったからだ。

 やがて「悪魔の手」といわれたイージンは盗みをはじめ、波紋は祖父母を含めた家族の秘密を明らかにしていく――。

 ツォウ・シーチンのヴィヴィッドな演出が三人の家族の生活をくっきりと浮き彫りにする。リアルであるけれど決して過酷ではなく、ユーモアを湛えさえする。5歳のイージンの視点を中心に据えつつ、シーフェンの苦労、イーアンのやりきれなさを画面に焼き付けていく。そこから台湾の家父長制、シングルマザーで生きることの困難が浮かび上がる。シューフェンとイーアンは欠点だらけで失敗もするが、人間として愛おしい存在であることが明らかになっていく。クライマックスの驚くべき真相を含め、台湾の人情が細やかに綴られる。夜市をはじめ台湾の風情を存分に活かしながら、家族のドラマとして収斂させたツォウ・シーチンの演出がみごとである。

 イージン役のニーナ・イエは台湾の売れっ子の子役というが確かに惹きつける。イーアン役のマー・シーユエンはインスタグラムで監督に抜擢されたというが、この役の存在感の確かさで海外の映画祭で絶賛され、一躍注目の存在となった。またシューフェン役のジャネル・ツァイは『台北に舞う雪』や『星空』で知られる演技派女優。このキャスティングの成功が映画の魅力を倍加している。

 軽やかに台北の街を活写しながら、三人の女性の生き様を際立たせる。決して恵まれた環境ではなくとも、希望があり笑いもある。琴線に触れる仕上がりである。